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第二章 【永遠の恋人】

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「だから俺が伯爵だと……あだあ!?」

 真っ赤な目に射抜かれた直後、その目が痛みに目を閉じるのを見て、ディアナはギョッとする。

「なにすんだよ!?」

 殴られた痛みに頭を押さえ、涙目になりながら、ドランケ伯爵は横にいる誰かに話しかけていた。

「邪魔だ。彼女は私のなんだから」

 その声が聞こえた瞬間、ディアナの目に涙がまた浮かぶ。聞き覚えのある懐かしい声に、今度は嬉し涙が浮かんだ。
 ああ、彼だ。彼が来てくれた。今世でもようやく会えた。
 何度生まれ変わっても、忘れることはない。その声を聞き違えるはずもない。

「なんでだよ、俺の獲物……あああ!?」

 ぶつくさ文句垂れるドランケは、けれど直後ドカッと音がして、吹っ飛んだ。

「邪魔だっつってんの」

 これは狼少年の声だ。その小さな体に見合わぬ力で、ドランケを蹴飛ばしたらしい。

「ありがとう、モンドー」
「ま、これくらいはね。せっかくの再会をあいつに邪魔されるのは、面白くないだろ」

 懐かしい二人の声に、涙が止まらない。
 それからややあって、ドランケが破壊したドアの隙間から、ひょっこりと見覚えのある、けれど懐かしい顔が現れた。

「アルビエン……」
「うん。ごめん、見つけるのが遅くなって」
「愛しています」

 バキッと扉を完全に外して、手を差し伸べる伯爵。けれどその手を掴む前にディアナは告げた。
 色々な感情がごちゃ混ぜになり、想いが溢れ出したのだ。

 伯爵の手が、体がカキンと固まる。
 驚くのも無理はない。これまで避けて来たその一言を、ディアナが不意に口にしたのだから。

 でも彼女はもう我慢できなかった。死を感じたその瞬間に、言わないことを後悔したのは初めてだったから。
 会えずに想いを告げることなく死ぬのは嫌だと思ったのだ。

「愛しています、伯爵……」
「……うん」

 頷いて、伯爵はまた手を伸ばしてきた。今度はそれを掴む。なんなく引かれ、馬車の外へ。
 そのままギュッと伯爵はディアナを抱きしめる。

「伯爵様?」
「僕も……」
「え?」
「僕も愛してるよ、ディアナ」
「……」

 何回も死んで、何回も生まれ変わった。ディアナの最初の死から、何百年もの時が過ぎていた。
 生まれ変わるたびに伯爵はディアナを見つけ、二人は共に生き、けれど想いを伝えなかった。
 ようやく想いが通じることとなる。

「やれやれ、やっとかよ」

 狼少年がため息交じりに言う。

「恋愛は付き合う前より両片想いの時期が一番楽しいとか言うけど、それを何百年も続けるかあ? ったく、子供か」

 子供の外見な、けれど中身はずっと大人な狼少年の言葉に、ディアナは苦笑した。

「ちっ、なんだよ。そいつが以前言ってた、お気に入りのディアナって女かあ?」

 そう言って飛んできた小さな生き物──コウモリは、ボンと小さな音を立てて人の姿をとった。頭をさすりながら苦い顔をするのは、モンドーに蹴飛ばされ星となったはずのドランケである。
 不老不死に人狼、そして何度も転生する自身という環境で生きて来たディアナは、今更吸血鬼くらいで驚きはしない。

 もう何度目かの再会で、ようやく想いが通じ合う。伯爵とディアナはお互いが大切で仕方ないとばかりに、ギュッと抱きしめた。

 永遠の恋人の、永遠の愛の始まりである。
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