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第二章 【永遠の恋人】
2、
しおりを挟む『次に起きたときはきっと何もかも良くなってるよ』
一体何を根拠に?
少女には理解のできない言葉だった。
だがわかることが一つある。その発言者である男性は、とても美しい人だということ。
少女は未だかつて、あれほどに美しい男性を見たことがない。
自身の主である女主人も美しい人だと思った。だからこそ、美しい少女が男の目を引くのを良しとしなかった。女主人は自分こそが一番であるという、プライドの高い人だから。
だが男性の次元は女主人とは全く異なる。
言うなれば、女主人は『よくある美形』。だが男のそれは、『異常なまでの美しさ』なのだ。
人は神が作ったと言うが、彼こそが神が作った最高作品。いや、ひょっとしたら彼こそが──
「神様?」
呟いた声は、けれど声にならなかった。
正確には「あう?」という、言葉の形をとらないものでしかなかった。
「え!?」と叫んだつもりでも、やっぱり「あう!?」となる。
これは何? 一体どういうこと?
驚いた少女は、自身が横になっていることにそこで初めて気付いた。
あのまま地面に横たわったままだったのだろうか。女主人は動かなくなった自分を、町の寂れた裏通りに捨てた。
そこであの美しい男性に出会ったのだ。
だが結局、そのまま打ち捨てられていたのだろうか。
いや違う。
めぐらした目が、状況が全く異なることを告げている。
ここは寂れた裏通りではない。
背中に当たるフカフカの感触が告げる。自分が横たわっている場所は、荒れた道の上ではないと。
真っ白な天井、揺れるカーテン、豪華絢爛な家具の数々。
外ですらない、ここは家の中。いや、家なんてものではない、これはお屋敷。
貴族が住まう屋敷の中だ。
(どうして──?)
声に出しても形にならないことを理解した少女は、心の中で呟いた。
「まあ私の可愛い赤ちゃん、目を覚ましたのね」
目を必死でキョロキョロさせていたら、不意に女性の声がした。
女主人だろうか?
一瞬身構えるも、覗き込んでくる顔に見覚えがないことに安堵する。
(優しそうな女性)
こんな人が母親だったら……
かつて望み、けれど絶望したその存在。自我を得た時から既に親は居なかった自分にとって、親代わりは絶望の女主人のみだった。
けれど、もし叶うなら、こんな人のもとへ。
その望んだような存在が、自分を見下ろしているのだ。
「随分長く寝ていたわね。お腹はすいてない?」
そう言って、女性は少女に手を伸ばしてきた。そして軽々と持ち上げられる。
(──え!?)
そこで少女はようやく気付く。自分の体がとても小さくなっていることに。
(ど、どういうこと……?)
慌てて体をバタつかせるも、喜んでいると思われたのか「ふふふ、可愛い」と女性を喜ばせるだけ。
だがそこで少女は動きを止めた。
バタつかせた瞬間に、見えたのだ。自身の小さな手が。
赤ん坊のような……否、まさにその通り。赤ん坊となった自身の手が見えたのである。
ギュッと抱きしめられる感触。
温かくて優しいその抱擁に、思わずスリと頬を寄せ……開いた目の先で、少女は目にする。
美しい女性に抱きしめられる、赤ん坊の自分の姿を。鏡に映る姿を目にした。
「私の愛しいディアナ」
女性が、そう言って頭を撫でる。
それを心地いいと感じながらも、混乱した頭が「どういうこと!?」と叫ぶのだった。
ディアナの第二の生の始まりである。
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