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第一章 【殺人鬼】

14、

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 いつもなら領地の端、遠方から見ていく伯爵だが、今夜は違う。
 今宵の満月は特別とばかりに、すぐさま隣町……サルビの町へと意識を飛ばした。そしてそれはいつも通りに成功する。

「さて、彼はどこかな……」

 頻繁に通い、すっかり見慣れた町並みを見下ろす。そこに人影はほとんど無かった。見えるのは、自警団の面々。その中にドラ男を認めるが、それは伯爵の捜し人ではない。
 すぐさま視線をめぐらせて、別の場所へと意識を飛ばした。そして到着する。

「ああ、家に居るね」

 目的地は勿論町長の家だ。中に入ったことのある伯爵は、意識もその中へと入れる。見れば町長は酒を飲み、ザカエルは絵を描いている。

「へえ、上手いじゃないか」

 描いてくれと頼んだはいいが、彼の腕前を良く知らない。初めて見るそれに、感動の声を上げる伯爵。

「これならいい仕事してくれそうだ」

 彼が犯人じゃなければね。
 声を出さずにそう言って、視線を巡らせる。
 そばではザカエルの妻が裁縫をしている。少し離れたベッドでは、子供二人がスヤスヤと幸せそうに眠っている。

 隣の部屋にいる町長のほうへと行けば、彼は相変わらずテーブルの上に酒瓶を置いて楽しくやっていた。
 そばには子供用の小さな家具が見える。リバリースの最後の仕事とやらだろう。なるほど、確かに出来がいい。
 一ヶ月も経てば、サルシトも仕事を再開させている。まだ修行中の身だった彼だが、このように腕の良い父のそばにいたのだ、きっと良い職人になるだろう。

 彼が犯人でなければ。

 推理小説が大好きな伯爵にとっては、誰もが怪しく誰もが犯人に見えてくる。
 町長にザカエル、サルシト。それにカルディロンでさえも。
 確実にこいつは違うと思えるのは、今町に居る者の中ではドラ男くらいだろう。

「異常なし、か」

 グルリと見回しているうちに、町長がテーブルに突っ伏して寝てしまった。そこに休憩にきたザカエルが、呆れた様子で父親に話しかけている。彼の妻がタオルケットを持ってくるのが見えた。

(今夜も違うか、それとも──)

 それとも、犯人はやはり別にいるのか。
 分からないまでも、もうこの家に用がないことは分かる。
 もう一度ザカエル達を見てから、ドクロ伯爵は町長宅を出た。

 それから町中を見て回る。念のため、サルシトの家も。彼は家の中にいて、母親と談笑しているのが外から見えた。死んだリバリースの妻も、少し落ち着いてきたようだ。もうすぐ孫が産まれるからか、笑顔が戻ってることに安堵する。

「うーん、今夜も違うか」

 自警団以外の人気ひとけを感じさせない町並みを上から見下ろして、伯爵は呟いた。
 やはり犯人は警戒しているのか。

「仕方ない、他の領地を見て回るか」

 いつものように。そう思って意識を別の町や村に飛ばそうとした、その時だった。

 サルビの町に──夜の町に、悲鳴が響き渡る。

「ドラ男!?」

 その声の主が誰か。聞き覚えのある声に、考える必要もないと、声のしたほうに目を向ける伯爵は、そこで目にするのだった。

 人気のない、けれど大通り。昼間は人で賑わうメインストリート、カップルに人気の噴水前。そこで彼は息絶えていた。
 噴水にもたれかかるように座り込む彼からは、とめどなく血が流れる。その目は虚ろで、命の気配を感じさせなかった。

 なぜ一人になったのか分からない。だが分かることが一つ。

 また、犠牲者が出た。
 ドラ男が殺されたのである。
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