14 / 48
第一章 【殺人鬼】
12、
しおりを挟む「犯人はザカエルで決定だろう」
屋敷に帰るや否や、開口一番伯爵が言う。それを呆れた顔で見るのは、モンドーだ。
「また唐突ですね。何を根拠に?」
「町の連続殺人が始まったのは半年ほど前からって、モンドーも知っているだろう?」
「ええ」
「そしてザカエルもまた、半年前から町に戻って親元で同居している」
「そう言ってましたね。で?」
熱弁する伯爵に、とりあえず話を聞いてあげますな態度のモンドーが先を促した。
だが伯爵は「で? とはなんだ?」と聞き返してくる。
「ザカエルを犯人だと決めつける理由は他にもあるんでしょ?」
「ない」
「ないんかい!」
それだけで犯人と決めつけるとは、なんというお粗末な推理か。さすが結末を先に見ちゃう伯爵。結論が極端すぎる。
「そもそも動機は?」
「そりゃ親からの抑圧による、ストレス……の発散だろう」
「あの町長から受けるストレスが原因と?」
「そういうこと。きっとザカエルは画家一本で生きていきたいはずだ。だが町長はそれを認めていない、あくまで町長後継として働けと言っている。画業は遊びと判じている」
「だからって、人殺ししますかあ?」
至極もっともな意見に、伯爵は分かってないなと首を振る。
「ああいう人のよさそうな人間は、色々溜め込んでいるんだよ。そして何かをキッカケに爆発させるんだ」
「はあ……」
「推理小説では、まさかと思う人間が犯人なんだよ」
「でも、俺らの知らない人間の可能性だって……」
「犯人が最後の最後に突然出てくるなんて、三流以下の小説だよ!」
知らんがな! とはさすがに言えないモンドー狼少年。ヤレヤレと大きく溜め息をついて、精神は大人な彼は大人な対応をする。
「それにですね、半年前からあの町に住み始めた人間なんて他にもいるでしょ」
「まあ確かに」
「更に言えば、あの町の住人じゃない可能性だってあります」
「まあ確かに」
「更に更に言えば……」
「よし、あとはドラ男、頼んだ」
「え、俺?」
急にふられて、自分の顔を指すドラ男に伯爵はニコリと微笑みかける。
「色々な矛盾点や疑問点も、見回りとあわせて調べてくれたまえ」
「マジかよ。お前、面倒になっただろう」
「なんのことやら」
それを図星という、とばかりに肩をすくめる。
「別にいいけど、報酬あるんだろうな」
ジトリと睨んでくるドラ男に、伯爵はニヤリと微笑んだ。
「僕にかけた呪い、解いてくれるならね」
「……」
それ以上ドラ男の発言がないことを確認して、伯爵はそそくさと自室へと戻るのだった。
「ドンマイ」
肩を落とすドラ男をポンと叩いて、かけられるモンドーの励まし。それがドラ男に届いたかどうかは、本人以外に分からない。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~
椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。
あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。
特異な力を持った人間の娘を必要としていた。
彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。
『これは、あやかしの嫁取り戦』
身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ――
※二章までで、いったん完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる