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第一章 【殺人鬼】
10、
しおりを挟む「やあサルシト」
「なんだ、ザカエルか。何の用だ? 頼まれてた家具なら……」
どうやら家具屋の家人、つまりは被害者であるリバリースの息子が帰って来たらしい。おそらくは遺体安置所からといったところか。赤い目が全てを物語る。
仕事どころではないと冷たく言い放とうとしたサルシトに、けれどザカエルは首を横に振って「そうじゃない」という意を示す。
「こちら、ここら一帯の領主様であるアルビエン・グロッサム伯爵様だ」
と紹介されて伯爵が軽く頭を下げた。サルシトは軽く目を見張る。
「へえ、あんたが。随分若いのな」
「……まだ後を継いだばかりでして」
いつも言われることとはいえ、あまり嬉しくない言葉に伯爵が笑顔を顔に張り付かせる。
「いや失礼、別に馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ俺もザカエルも二世として、親と比較されるからな。……あんたの苦労、よく分かるよ」
だが意外にも素直に謝罪してくるサルシト。ごつい図体とは裏腹な彼の配慮ある態度に、今度は伯爵が目を見張る。
こういうタイプは嫌いじゃないと伯爵は内心微笑みながら、声をかけた。
「このたびは、お父上が大変なことに……」
「お気遣いなく。父が亡くなったのは悲しいが、母と俺が忠告したのも聞かずに飲みに出たあの人が悪いんだ」
「飲みに出た?」
伯爵の問いに、サルシトは頷く。
「あの人はいつもそうなんだ。作った家具の出来がいいと、自分への褒美とか言って飲みに行く。家で飲みゃあいいのに、祝い酒は外で飲むもんだとか言って……その結果殺されてちゃ、ざまあないよな」
「ちなみにその家具とは?」
その問いには、サルシトは無言で顎をしゃくって、ザカエルを指した。ザカエルはポンと手を叩く。
「ああ、父の依頼の家具、出来たんだ?」
「そういうこと」
孫のための小さな家具、それを依頼したのは町長。
それが完成し、出来の良さに浮かれたリバリースが飲みに出た。
そして殺された。
「家具が完成したことを知っているのは?」
「一緒に作っていた……というか、作っているのを見ていた俺くらいかな。町長にはまだ完成を知らせていない……よな?」
確認するようにザカエルを見れば、彼は頷いた。
「ああ、父はまだ知らない。だから僕も知らなかった」
「ということだ」
言ってサルシトは伯爵を見た。
「そうか、ならやはり無差別……偶然見かけたリバリース氏を、殺人鬼が狙ったってことかな」
「まったく、なんであんな店行くかね」
「というと?」
吐き捨てるように言うサルシトに伯爵が首を傾げれば、
「親父の贔屓の店があるんだけどよ。それが裏通り……治安の悪いとこにあるんだ。昼はともかく、夜はよせって前から言っていたのに」
「なるほど。だから家具職人があんな寂れた裏町にいたわけだね」
リバリースという被害者が、あんな場所にいた理由はこれで分かった。つまり、彼は非常に不運だったと。
「……だそうだ、探偵」
「え」
不意に声をかけられて、ドラ男が驚いた顔を上げた。慌てて目をこするドラ男。
「……キミ、今寝てなかった?」
「滅相もございません」
「寝てたよね」
「はい、寝てました」
否定するドラ男に低い声で聞けば、強張った声が返って来る。
すっかり伯爵のオモチャだな。
完全に傍観者と化しているモンドーは、そんな二人の様子を見てそう感想を抱くのであった。
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