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第一章 【殺人鬼】
4、
しおりを挟む「う、ううう……」
テーブルに突っ伏したまま男泣きするカルディロン。それを冷静な目で伯爵は見つめる。というか、むしろ冷めた目をしている。
ここが彼と人間の差。
伯爵は随分と人間くさいが、実際は数百年(数千年?)生きている。つまりは化け物だ。そんな彼に人の心を理解することは難しい。
彼なりに人を愛している。守りたいと思っている。
だがその感情と人との間には、越えられぬ壁がある。
(死んでしまったことを嘆いても仕方ないというのに──)
人を観察することが好きなドクロ伯爵は、だからといって人を理解はできない。もう、人としての感情はとうに無くなってしまったから。
彼なりの感情はある。愛情もある。
それでもやはり理解できないことはあるのだ。
だがここで、「なにが悲しいんだ?」なんて言おうものなら途端に顰蹙を買うことは分かる。理解はできずとも分かるのだ。
だから彼はあえて悲しそうな顔を作る。
「そう悔やむなカルディロン。お前はよくやってくれているよ」
そして伯爵は人を励ます。そうすることで人は彼を愛し、彼もまた人を愛せるから。
──ただし、死者への情は今もってわかない。しかも知らない人間となればなおのこと。
それでも、愛する領地の誰かが殺されたという事実に、彼は胸を痛める。死んだ者へではなく、今生きる者が怯えていることに憤りを感じる。
この複雑な感情を理解しろというほうが無理だろう。
内心では微塵も悲しんでいない伯爵は、カルディロンの肩にポンと自身の手を置いた。
「約束だ、私が必ずや犯人を見つける」
「は、はぐじゃぐざまあ……」
伯爵の言葉に涙と鼻水でグシャグシャなカルディロンが顔を上げる。伯爵が、笑顔のままそっと手を離し距離を取ったのを気づいたのはモンドーのみ。
みながみな、伯爵の言葉に涙した。
「うっうっ……で?」
「え?」
豪快に涙と鼻水を垂れ流すカルディロンにやや引きながら、なにが「で?」なのかと伯爵は首を傾げる。
「どうやって犯人を見つけるんですかい?」
「ああ」
そういうことかと頷いて、伯爵は顎に手を当てた。思案する風な様に、自警団の視線が集中する。一体どんな策があるのかと皆がドキドキする中で、「さてどうしようかね」と伯爵が言えば、全員がずっこける。
「なんだい?」
「いや……カッコイイことを仰るので、てっきり何か策があるのかと……」
つまりは期待外れと言いたいらしい。
まあ実際には、伯爵には策というか手があるにはある。だがそれを言うわけにはいかないから、この場では誤魔化すしかないのだ。
実は満月の夜にドクロとなって、色々な場所を自由に見て回れます、なんて言えるわけがない。
伯爵としては楽しい呪いと能力だが、人にとっては異様で異常であることくらい、伯爵だって理解しているのだから。
(とはいえ、次の満月まで犯人がなにもしないとは思えないな)
そう考えて、伯爵は顎に手を当てた。またも思案する様に、今度は懐疑的な視線を自警団は向ける。
期待はずれになってもいいようにと身構えたその時。
「うん、とりあえず知り合いの探偵に調査を依頼してみるかな」
とパチンと指を鳴らしての発言に、一斉に胸をなでおろすのだった。
「知り合いの探偵? そんな人いましたっけ?」
コソッと耳打ちで聞いてくるのはモンドー。それにはニコッと笑みを返すだけで名言しない伯爵。小説好きな伯爵は時にこうやってもったいぶるのだ。
こういう時、相手して考えるのは面倒なモンドーは、いずれ分かるだろうと考えることを放棄する。
対して放棄しない自警団はワッと一気に活気づく。
「おお、探偵! なんかカッコイイですねえ!」
「俺はこれでも推理物が好きなんだ。くう~、助手にしてくんないかなあ!」
「一気に事件解決なるかあ!?」
と盛り上がっているのを伯爵はニコニコしながらただ黙って見つめているのだった。
ややあって、ようやく皆が落ち着いてきたころに、伯爵は静かに問いかける。
「では一度、現場を見せてくれるかい?」
と。
ドクロ伯爵の時に見てはいるし場所も知っているが、実際にこの目で見たいと伯爵は希望する。
きっと現場は封鎖されて入れなくなっているだろう。だが自警団と一緒なら難なく入れる。最初に自警団に来た理由の一つでもあったりする。
「いいですけど、遺体はもうありませんよ」
「そりゃそうだろうね」
むしろ遺体があったら嫌だと伯爵は思い苦笑する。現場検証が終われば遺体は早々に移動されることくらい分かっていると頷けば、カルディロンも無言で頷いて、「こちらへ」と外へと促した。伯爵とモンドーは黙って従う。
カルディロンは昨夜確かに伯爵が見た現場へと向かった。
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