33 / 42
第三章 これが最後
9、
しおりを挟むこれまでと同じように13歳で祖父が倒れ、父が家督を継いだ。私は14歳となり、これ以後の人生はこれまでのループとほぼ変わらない。
家族は何も変わらない。
「こんなことも出来ないのか? リリア、お前は本当に無能な娘だな」
「まあリリア、こんな不味い物を母に食べよと言うの? とっとと作り直してきなさい!」
「おいリリア、別邸に僕の荷物を運んでおけ。馬車なんて使うなよ、どれだけ重い物も、お前が荷車を引いてやるんだ」
「リリアが僕のお姉様だなんて恥ずかしい」
主だった使用人は全て解雇され、ほとんどの雑務仕事は私がやらされるようになった。これまでのループと同じように私を馬鹿にし、嘲笑いこき使う家族。
せいぜい馬鹿にすればいい、いいように利用すればいい、笑えばいい。
されたらされるだけ、私は家族を憎む。復讐への炎が勢いを増す。
極めつけはミリス。
「ああリリアお姉様はなんて可哀想なの。お姉様のように、無能で愚かで醜くて誰にも愛されない、生きてる価値のない存在なんてそう居ないわ。お姉様は神に疎まれて生まれてきたのね。いえ、神の過ち、生まれてはいけない存在だったのよ」
そう言って、私に水をかける義妹。コトリと空になった水差しが、テーブルに置かれる。
「対して私を見てごらんなさい。こんなにも美しく誰からも愛される存在。私は神の祝福をうけ……愛されて生まれてきたの」
それから俯く私の顔を下から覗き込む。醜く顔を歪ませて。
「可哀想に、ああ可哀想にお姉様。ねえ羨ましい? 私のこと、羨ましい?」
何度ループしても、義妹はずっと私を見下し馬鹿にしていた。だが今回はこれまでで一番酷い。
なんとしても自分が上だと私に知らしめたいらしい。一度歯向かったことが、そんなにも彼女のプライドを傷つけたのか。……なんともちっぽけなプライドである。
私が俯いているのは、笑い出しそうなのを必死でこらえてるからだってこと、義妹はまったく気づいていない。
私が無能を演じていることを、家族の誰も気づかない。
本当は、もう何度もループして使用人の仕事くらいこなせるようになっている。
今現在からこの先まで、領土にどのような問題が起こるかも知っている。民が何を望んでいるかも当然分かっている。
けれど私は何もしなかった。
肉体年齢に相応しい動きをし、何も知らない子供を演じた。雑務は失敗続きの無能さを家族に見せつけ、執務に関して何も口出ししなかった。
父はやっぱり愚鈍な公爵となり、領地は荒れた。何もしなくても民の不満の声が聞かれるようになった。けれどやっぱり父は何もしない。
「文句を言うやつらは捕えて牢にでも入れておけ」
などと、とんでもないことを街や村の自警団に指示を出すだけ。当然不満は大きくなった。
ああ笑いが止まらない、この先にどんな未来が待ち受けているのか。何も知らない家族を見るのが楽しくて仕方ない。
どれだけ虐げられても、まったく苦ではない。
これまでと全く同じループ、けれど大きく違う今回の人生。
一番の大きな違いは、ベントス様とメルビアスの存在。彼らは表立って私を助けようとはしなかった。そうお願いしてあったから。だが時に裏で、家族の目を盗んでは私の様子を気にしてくれている。
メルビアスに至っては、堂々と公爵邸に足を運んできた。
「きゃあ! メルビアス様、お待ちしておりました!」
ミリスが喜んで入れてくれるからだ。そのたびに兄が悲痛な顔をするのを、ミリスは知っているのか。私は笑いをこらえているけれど。
「ベタベタくっつくな、気持ち悪い」
「お前に用はない、触るな」
「いいからお前は鏡に向かってずっとしゃべってろ」
というふうに塩対応なのだが、ミリスはめげない。
いい気がしない兄がミリスを呼ぶなどして、彼女が席を離れた途端にメルビアスは私のところにやって来ては、
「大丈夫か? ひどい目に遭ってないか?」
と気にかけてくれる。そのたびに頭を撫でたり頬を撫でるのは……ちょっと心臓に悪いのでやめてほしいのだけれど。嫌だと抵抗できない自分も悪いのだろうが、恥ずかしいけど触ってほしいという矛盾に悩んでいるのだ。
ベントス様も、ときおり家族の目を盗んで贈り物を届けてくれたりする。買い出しを命じられて街に出た時に、私が屋敷に寄ることもある。
これまでと違って味方がいること、心の拠り所があるのは非常に大きな変化で、非常に私の心を救ってくれた。
家族からの行為を耐え忍ぶことができたのである。
そうして。
私はついに17歳になった。
そして──暴動が、起きる。
142
お気に入りに追加
1,970
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話
彩伊
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。
しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。
彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。
............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。
招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。
送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。
そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。
『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』
一日一話
14話完結

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる