【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール

文字の大きさ
上 下
20 / 42
第二章 今度こそ

7、

しおりを挟む
 
「うるさい、そんなことでいちいち叫ぶな。これだから子供は嫌いなんだ」

 私の精神は大人です! と反論することもできないし、するつもりもない。

「大人も子供も関係なく驚くでしょう!? もし本当に百年以上生きてるとして、どうしてそんな若い容姿をしているの!?」

 ベントス様は相変わらず穏やかな笑みを浮かべておられて、冗談を言ってるとは思えない。
 メルビアスは腕を組んで偉そうにふんぞり返っている。見た目だけなら冗談なんて縁のなさそうな外見だけに、真意が分からない。

 それとも、二人して真面目な顔して私をからかっているの?

 未だ混乱から解放されず、口をあんぐり開けていたら、メルビアスの手が伸びて来て、テーブルに置かれたケーキが攫われた。そこでハッと我に返る。

「ちょ、なにすんのよ!?」

 イチゴが無くなってもそれは私のケーキよ!? と取り返そうと手を伸ばす。
 だが男は腹の立つことに、ケーキを頭上に掲げたのだ。腹の立つことに!(怒りのあまり二度言う)

 子供な私に、長身の男の頭上になど手が届くわけもない。男はフフンと笑って、「イチゴのないケーキなんて要らないんだろ? なら俺が残りも食べてやるから喜べ」と、これまた腹の立つ勝手な発言。

「誰が喜ぶか! そのケーキは私のよ!」

 もうこうなったら意地だ、なんとしてもケーキを取り戻してやる!
 すっかり年齢の件が頭から抜けた私は、行儀など完全無視してソファの上に立つ。が、フワフワすぎて足元が心もとない。転ぶ前にと急いでジャンプした。──男の頭上めがけて。

「私のケーキぃ!」そう叫んだまさにその瞬間。「ち、めんどくせえな」と男の声が同時に響く。

 直後。
 結局私の手はケーキに届かず、スカッた私はそのまま床へとすっころぶ。床に着いた手の痛みに「いったあ……」と顔をしかめるのだった。
 だがそこに心配の声はかからない。失礼なケーキ泥棒はともかく、ベントス様も何も言わないなんて……と、ちょっと恨みがましくなった私だが、そこでようやく気付く。

世界が異様に静かなことに

「なに……?」

 シンと静まり返った私の耳には、自分の息遣いしか聞こえない。
 無言になっても、世界が無音になるなんてことは本来有り得ない。窓の外でそよぐ風、小鳥のさえずり、人の生活音。静かな夜でも無音というものは存在しない。

 そのはずなのに。

 世界が無音に包まれたのだ。正確には、私自身の息遣いや体を動かしての衣擦れの音のみ。
 今、私の耳に届く音は私自身が発する音と──

「ふうん、やっぱりお前には効かないか」
「え!?」

 私を見下ろす氷の瞳。それが少し楽し気な光を宿しているのを認め、私は驚愕に目を見張った。
 メルビアスは楽しそうにニヤニヤしながら私を見下ろしている。頭上には相変わらずケーキ。
 だがその横で。メルビアスの横で。
 ベントス様が、固まっていたのだ。その手をメルビアスに向けた状態で。

「え……ベ、ベントス様?」

 声をかけるが返事はない。その目が私に向くことも、上げられた手が下りることもない。普通なら疲れる体勢なのに、プルプル震えることもない。いや、それどころか……

「息をしていない?」

 人は呼吸すれば、それだけで体が揺れる。鼻先に手をやるとかしなくても、充分に分かる、その無呼吸の状態。
 生きてるのに、けれどベントス様は息をしていないのだ。
 いや、彼だけではない。窓の外に目をやる。全ての動きが止まっていることに気付き、私は目を大きく見開いた。その目線の先、窓の外には。

 羽ばたいてる状態で止まっている、空中で完全停止している鳥が目に入った。

 世界が止まっている。ようやく事態を理解する。
 でも全てではないことも理解する。

 私はゆっくり視線を戻した。
 この止まった世界で私以外に唯一動いてる存在に。
 メルビアスという男に。

「やっぱりお前、時使いだな」

 そう言って、私を見る男はニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

処理中です...