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第二章 今度こそ
6、
しおりを挟むイチゴについていたクリーム。それが指につき、赤い舌がペロリと舐める。
そんな仕草が妙にエロ……ごほん! 妖艶に見える。
男は、驚きに目を見開きアワアワしてる私を、嬉しそうに見下ろす。してやったりの顔が腹立たしい。
「よ、また会ったな」
その言葉が私を呪縛から解き放ち、そこでようやく「私のイチゴぉっ!」と声を出せた。いや、言うべきはそこじゃない気もするが、今はそこが一番大事。
「いいじゃねえか、イチゴくらい。ケーキは残ってるだろ」
「それこそがメイン! このケーキの醍醐味でしょうが! イチゴ無くしてなにがショートケーキか!」
「知らねえよ。ガキは大人しくチョコケーキ食っとけ」
「チョコケーキは家で食べるの!」
「買ってんのかよ。太るぞ」
それは禁句だ。ケーキ好きの女性に言ってはいけない言葉ランキング一位(私調べ)。
「……子供だから太らないわ」
「まあお前はもうちっと肉をつけたほうがいいかもな」
そう言って、男は私を見る目を細めた。
祖父という庇護のおかげで、かつてのように食事が少ないということはなくなった。まともな食事を食べれてはいる。だがそれまでの食生活のせいで、すっかり体が吸収しないようになってしまった。私は食べても太らない体質なのだ。まあそれも子供だからかもしれないけど。
「余計なお世話」
説明をする必要もないと、そっけない返事だけを返しておく。
「メルビアス、きみねえ……」
呆れた声が聞こえたのはその時。ベントス様だ。
「メルビアス?」
「ああ、失礼したね。彼はメルビアス。私の古い友人だ。元々今日は彼との予定が入ってたんだが、丁度いいと思ってね。キミの知りたいことが何かは分からないが、私よりもメルビアスのほうが的確に答えてくれるだろう」
そう言って、ベントス様は失礼な男を紹介してくださった。
「よろしく、ケーキが食べれない呪いのかかったお嬢さん」
紹介されたメルビアスは、わざとらしい程に仰々しく頭を下げる。いや、ケーキの呪いをかけたのはあなたでしょうが。
それにしてもと私は首を傾げる。古くからの知り合いとベントス様は言ったが、男の齢は見た感じ20代前半から半ば。古くからって何年前からの知り合いなのだろう。ひょっとして、子供の頃から知ってる親戚の子か何かなのかしら。
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。クスリと笑ってベントス様は、「彼はね、有能な魔法使いで、こう見えても百年以上生きてるんだよ」と説明してくださった。
それに対して「そうですか」といった気分で普通に聞いていたけれど、ベントス様の言葉が耳に届いてから頭が理解するまで数秒を要した。
「は?」
理解した瞬間、大変失礼な言葉が出たとしても、私を責めないでほしい。
「え、ちょっと待ってください。えっと……百年?」
冗談ですよね? と暗に問えば、「正確にはもっと長生きなんだろうけど、本人も忘れちゃったみたいでね」と、更に頭が混乱するようなことを言われてしまった。
「むしろ百歳まで覚えていた俺を褒めろ」胸を張るメルビアスに、
「いや、そこ褒めポイントじゃないと思います」思わず突っ込む。
「え、百年以上? えええ!?」
どういうこと!?
理解できずに混乱する頭は冷静さを失い、ついにはそう叫んでしまった。
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