7 / 42
第一章 戻る時間
3、
しおりを挟む「何事だ!!」
一体何が起きたのか、聞きたいのは私のほうだ。起きたことが理解できず呆然としていたら、けたたましい音を立てて祖父が部屋に飛び込んで来た。
「こ、これは一体……!?」
最近はめっきり白髪が増えたお祖父様は、粉々になった箱が散らばる惨状に言葉を失う。
さて、どう説明したものか……。
また叱られるのだろうと嫌になりながらも、自分の意図したことでないことを理解してもらわねば。
今ここに、私をおとしめようとする輩はいない。兄も、ミリスも。正直に話せば、祖父の怒りも少しはマシになる……と期待したい。
そう思っていたら、ガッと肩を掴まれた。
「え……」
「リリア、これはお前がやったのか!?」
「は、はい、ごめんなさい!!」
勢いに押されて思わず謝ってしまった。だが義妹の件でついた嘘とは違い、これは確かに私の責任だろう。どうして箱が壊れたのかは分からないが、私が歌を歌ったことがきっかけな気がするから……原因は私ということだ。
ああ、怒られる。またどこかに閉じ込められるのだろうか。
嫌と言うよりいい加減ウンザリだし、お腹もすいた。せめて明日にしてくれないだろうか。
だがお祖父様の反応は意外なものだった。
「何をした? 何をしたらこのようになった?」
「え? ええっと……退屈なので、歌ってました」
言ってから、しまったと口を押さえるが、出た言葉は戻らない。歌うのもだが、退屈なのでとか言ってしまった。反省してないと怒られるではないか。焦るが、言ってしまったものはどうにもならない。
怒鳴られる!
そう覚悟してギュッと目を閉じた。
が。
「でかしたぞ、リリア!!!!」
まさかの反応。
見たことも無い程嬉しそうな顔をして、お祖父様は私をギュッと抱きしめてくださったのだ。
ど、どういうこと?
「まさかお前に魔力があったとは! おそらく歌が発動手段なのだな! 珍しいが過去に無かったわけではない、素晴らしいぞ!!」
今夜は宴だ!
と叫んで、お祖父様は出て行ってしまった。
駆け付けたメイド達が慌てて部屋を片付ける中で、私は呆然と立ち尽くすのだった。
家族に愛されなかった私。
10歳の時点では辛うじてまだ、情は私に向けられることもあった。だが、既に愛情は美しいミリスに移り始めていた。
けれど今日、どうやら私は手に入れたようだ。
お祖父様からの関心を。それを愛情と呼べるものかと言えば怪しいが、少なくともお祖父様は私に関心を示した。これはとても重要な変化だ。
これまでは、お祖父様が亡くなるまで、私への関心も情も一切なかったのだから。いや、あの祖父は家族の誰にも関心を示さず、情を与えなかったけれど。いつも冷めた目で、家族に一線を引いていた。
遠い記憶、何度目かのループで得た情報では、お祖父様は魔法マニアなんだそうな。魔法に憧れ、魔法について学び……けれど、自身に魔法の才が無いと分かった時、とてつもなく凹んだとかどうとか。
あの箱の壊れ様は尋常では無かった。実際衝撃は凄かった、よく怪我しなかったなと思う。
10歳の私が殴って壊せるはずもない。
即座に私が魔法で壊したと結論付けたのだろう。
魔法? この私が? 魔力なんて、持ってないと……家族の誰も持たず、私自身も持っていないと思っていたのに。
呆然としながら、祖父が出て行った扉のほうを見やった。
お祖父様はまだ健在で、公爵という地位にある。お父様も兄も後継という立場なだけで、祖父こそがこの家の、領土の支配者。父も頭が上がらない相手。味方につければ、これほど強力な存在は居ないだろう。
何度もループしてきたのに、今の今まで気付けなかったとは。これまでと違う行動は、大正解だったということか。
男尊主義な祖父は、けして私を可愛がってはくれなかった。けれどこれで状況はかなり変わるだろう。あの祖父の喜びようでは、確実に変化が生じる。
ただ、一つだけ問題がある。
これこそが重要。
問題は、お祖父様が、私が14歳の時に病で亡くなること、なのよね。
91
お気に入りに追加
1,970
あなたにおすすめの小説
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
【完結】婚約者にウンザリしていたら、幼馴染が婚約者を奪ってくれた
よどら文鳥
恋愛
「ライアンとは婚約解消したい。幼馴染のミーナから声がかかっているのだ」
婚約者であるオズマとご両親は、私のお父様の稼ぎを期待するようになっていた。
幼馴染でもあるミーナの家は何をやっているのかは知らないが、相当な稼ぎがある。
どうやら金銭目当てで婚約を乗り換えたいようだったので、すぐに承認した。
だが、ミーナのご両親の仕事は、不正を働かせていて現在裁判中であることをオズマ一家も娘であるミーナも知らない。
一方、私はというと、婚約解消された当日、兼ねてから縁談の話をしたかったという侯爵であるサバス様の元へ向かった。
※設定はかなり緩いお話です。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜
氷雨そら
恋愛
婚約相手のいない婚約式。
通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。
ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。
さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。
けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。
(まさかのやり直し……?)
先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。
ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。
小説家になろう様にも投稿しています。
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。
彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。
混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。
そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。
当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。
そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。
彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。
※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる