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「そもそもお前は聖女としての威厳が無さ過ぎなんだよな。やっぱ聖女ってのは美人であるべきで……その点あのアシェリーって令嬢は合格だよなあ。とにかく色気がすげえ。あの体のライン、やべえよな」

 わざわざ地下牢までやって来て嫌味を言う奴に対して返事する必要はあるのだろうか、いやない。
 なので私は無視する事にした。あーお風呂入りたい。

「おい無視すんなよ。お前のことブスと呼ぶぞ」
「うっさいハゲ」
「このフサフサ髪に対して何言いやがる」
「あんたの爺ちゃん、ハゲてたでしょ。ハゲは孫に遺伝するのよ」
「恐い予言すんじゃねーよ」

 祖父の事まで知ってる相手。目の前の男との付き合いは長い。というか幼い頃から一緒の、いわゆる幼馴染というやつだ。

 名をディスという。色々ディスってやろうかこの野郎。

 ディスは私が村を出る時に一緒に付いてきたのだ。付いてきたはいいけどどうやって王都なんぞで生きてくの?と疑問に思ってたら、ちゃっかり騎士見習いになって、そこからあれよあれよと出世街道だ。ちゃっかり騎士団長になんぞなってやがる。平民出身初だとよ、やりやがる。

「だから言ったろー、お前聖女じゃないのに聖女扱いされて大丈夫なのかよって」
「私は自分のことを聖女だと言った覚えはない」
「でも否定もしなかっただろ。王太子にも必死で反論してたじゃねえか」
「まあそうだけどさー。これまで散々働かされてきたんだもの、今更放り出されるのも腹立つじゃない」

 そうなのだ、本当に私は忙しかったのだ。
 12歳で教会から迎えが来た。12歳だよ?まだ子供だよ?ちょっと大人びてくる年齢だけど、まだ子供なんですよ。なのに朝から晩まで違法じゃねえの?と思うくらいに働かされたわ!無報酬で!

 寄付はたっぷり貰っても、それは全て教会の物となる。
 聖女として活躍しても、それは全て王侯貴族の功績となる。

 完全なるボランティアだったなあ……。

「あのアシェリーとか言う人、本当に聖女なのかしら?」
「さあなあ。それより俺が気になるのは、聖印が背中にあるって話だ」

 そういや背中に聖印が、って話だったな。確かに私には無い。てことはアシェリー令嬢は本当に聖女なのかしら?

「聖印ってどんなのなんだろ」
「それより問題は背中にあるのを王太子が知ってることだろ」
「なんで?確認したんじゃないの?」

 首を傾げて言えば、ディスは首を横に振った。

「さっき、その話を聞いて王が驚いた顔をしたのを見ていたか?」
「そう言えばそうね」
「つまりだ、王は確認していない。なのに王太子が確認してるっておかしくないか?」
「それってつまり……」
「まあそういうことだろ」

 出来てるってことですかー!
 普通公爵令嬢が……というか女性は簡単に背中を見せない。見せるような服もない。なのにそれを見たと王太子は言った。つまりそういうことだってことね。

 もうそこまで関係が進んでるってことね!

「完全にやられた……」
「教会が確認したかどうかは知らんが、まあ金で丸め込むだろうなあ」

 所詮は教会も人が運営してる。寄付を全て自分たちの懐に入れて、私には粗末な食べ物しか与えてこなかった連中だ。何が「聖女様は贅沢してはいけません。力が消えてしまいます」だ!

 まあいい。もうどうでもいい。疲れた。
 疲れたので寝よう。

「寝る」
「寝るのかよ!図太い女だな!」
「元庶民ですので、こんな環境平気なのですよ」
「いいけどよー。国外追放に不安はないのか?」
「今の状況から解放されるなら、どこでも天国さ」

 そうだ、良い方に考えればいいのだ。この窮屈な人生とやっとオサラバできるんだ、万々歳ではないか。
 欲を言えば、この国を出る前に両親に会いたいとこなのだけど……。

「父さん母さん、元気かなあ」
「あ、言ってなかったけか。お前の治癒の力のお陰ですっかり元気になって、なりすぎて旅に出たぞ」
「旅に出たとか!」

 聞いてないし!娘とはいえ聖女に簡単に手紙出せないってか、そうか!

 まああれだ、便りが無いのは元気な証拠。楽しく旅してるならいいか。どこかで会えるかもしれない。

「で、お前はどうする?国外追放」
「うーん、国を選べるのかなあ」
「さあなあ。まあ俺が付いてるからどこでも大丈夫だろ」
「そうかあ、騎士団長がいるなら……うんちょっと待て」

 サラッと言うなよサラッと。



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