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「やあリフィ、よく来たね!」

 いつものように侯爵家に到着したら、セブールが出迎えてくれた。この男、最初だけはちゃんと対応するんだよな。

「いらっしゃいリフィ様。セブールったら貴女が来るのをソワソワしながら楽しみにしてましたのよ」

 セブールの隣で微笑みながら同じく出迎えてくださったのは、セブールの母。侯爵夫人だ。

「私はこれから主人の所へ届け物があるから。セブールと楽しい時間を過ごしてくださいな」
「ありがとうございます。行ってらっしゃいませ」

 侯爵はどうやら執務でどこかへ出ておられるようだ。届け物があるから……とはきっと夫人なりの気遣いなのだろう。彼女は自分が居ては私が心から楽しめないと思ってるらしい。そんな心遣いをありがたく思ったのは最初だけだった。

 今はむしろ。
 此処に残って息子の所業を見ろ!
 と言いたいものだ。言わないけど。言って見せたらきっと夫人はぶっ倒れるだろうなあ。というか、もし夫人がおられたら、セブールは良い子ちゃんを装うだろう。

 そう思うと良かったのかもしれない。
 もし毎度侯爵夫妻が屋敷におられて、結果としてセブールを抑える事になったら……私はセブールの本性を知る事は出来なかっただろう。学生時代はちょっと奔放だったけど、落ち着いたのね──などという勘違いをしたまま結婚してしまっただろう。そうなったらどうなると思う?

 考えんでも分かるわな。

 毎日毎日女と遊びまくる旦那。

 一瞬そんな未来が横切っただけで鳥肌立ったわ!ゾゾゾってね!!

 ほんと、阿呆の正体を結婚前に気付く事が出来て良かった。早く次の候補を見つけて、この阿呆を捨てたい。

 とはいえ、最悪のケースも考えてるのである。最悪のケース、つまりは次の婚約者候補が見つからなかった場合のことね。
 そうなったらそうなったで、強引に婚約破棄するまでのこと。穏便に解消できないなら強引に破棄だ!

 それも駄目なら──まあ家出もありかな~とか思ったり。父が泣くだろうけど知らんがな、というもんである。ただ母には申し訳ないなと思うので、これは本当に最終の中の最終手段だ。

 とういわけでですね。私の中ではもうセブールと結婚なんて有り得ない、そんな可能性は皆無、けして来ない未来となったわけです。

 となればだ、今日のお茶会を穏便に済ませる必要は無いのですよ。無いのですよー!

 私は、いつもの如くお茶会の場である中庭に案内するセブールの後ろを歩きながら。その後頭部を眺めながら。

 帰る頃にはこの後頭部を禿げさせたいな~とか考えるのだった。





 
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