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 恐るべきはオネエパワー!
 迫りくるオネエに私の顔面は蒼白だ!

「ベルヒト!」
「承知」

 ギュッとその服を掴んでその名を呼べば。
 全てを理解した存在が右手を上げ、人差し指をピッと向ける。それだけ。

「ふぎゅ!?」

 それだけで、オネエは壁の一部になった。
 わ~、さっきの壁と並んでいい感じの壁紙になりましたよ!

「壁紙じゃねーわ!」

 いいねえ、としみじみ壁を見入ってたら。
 それを否定する声がした。なんだ、私のセンスに文句あんのか。

「なんですかポリアナ」
「何ですかじゃないわよ!こっちが何ですかよ!何ですかそのイケメンは!反則級のイケメンは何ですか!」

 いやもう何言ってんのか分かんない。
 イケメンと言いたいのだけは分かった。

「ベルヒトです」
「ども」
「どもじゃねーわあぁ!!」

 うっさいなあ、ちゃんと紹介したからいいでしょうが。ベルヒトもちゃんと挨拶出来たね、いい子いい子。

 突如現れた青い人はベルヒトと言います。青い人、略してアオヒトではありません残念。

「何言ってんのあんた」
「あんたとは酷い。せめて貴女と言ってよ」
「今更令嬢ヅラはいいのよ!」
「ヅラじゃないです、本物の髪です!(キリッ)」
「そのヅラじゃないわあぁ!!」

 ちょっとからかいすぎたか。話が通じなさ過ぎて涙目になってるし。これくらいにしてあげるか。

「これが王家と我が伯爵家の間にある秘密」
「意味わからないんですけど」
「ここで一つ質問。この世界に青い髪や金色の瞳をした人間は居るでしょうか?」

 唐突な質問にキョトンとするのは、珍しいがこの世界に皆無ではないピンク頭にオレンジの瞳を持った少女。
 眉間に皺を寄せながら「居ないわ」と答えるのだった。

 そんな返答に満足げに私はウンウンと頷いて。
 もう一度問うた。

「では青髪と金眼を持った存在とは?」
「──!まさか……!」

 その問いでようやく重大なことに思い至ったのだろう。
 ポリアナの顔色は一気に悪くなるのだった。

「精霊王、さま……?」
「ご名答」

 さすがにそこまで馬鹿で無知ではありませんでしたね~。
 パチパチと手を叩いて褒めてあげたのに、ポリアナはちっとも喜ばなかった。

「なんで、なんで……精霊王なんて大昔……この国の歴史より古くに居なくなった存在なのに!」
「あら、そうなの?」

 すっとぼけてみるが、私だって本当は知っている。
 この国が出来るよりももっと古く──遠い遠い、遥か太古の話。
 この世界を作り上げた神の愛弟子たる存在、精霊王。数多居たその存在は、遥か昔にこの世界より姿を消した。

 誰もが知る御伽噺はそう語っていた。

 でも真実というものはいつだって小説よりも奇なるものである。

「他の精霊王は分からないけど、このベルヒトは我が国が出来る時に、守護することを約束してくれた王なんですよ」
「はあ!?そんなこと聞いた事ないわよ!」
「そりゃ誰も知らないからねえ」

 誰も知らない知られちゃ……なんてどっかで聞いた事あるような無いような。

「古の時に、精霊王の一人であるベルヒトは、一人の人間と恋に落ちたのです」
「は、はあ……?」

 唐突な話にポリアナはただただポカンとするのみ。
 私は人差し指を顎にあてて、話を思い出しながら話す。

「その人がこの国の建国王……だったかしら、ベルヒト?」

 合ってるか本人に確認すれば、彼は黙って頷いた。ベルヒトは無口だ。

「建国ぅ!?初代は女王だっての!?そんな話聞いた事ないわよ!」
「そりゃ誰も知らないからねえ」

 あれ、このくだりさっきもやったような。気のせいか?

「王家にだけは記録が残ってるんだけどね。国民には文献が残ってないので知らなくても無理ないわ」

 建国記念日とか祝典とかあるにはあるけど、初代王がどんな人物だったのか。それを伝える物は何もないのだ。自然、国民は勝手に男性とイメージ付けて、銅像を作ったりしてるけど。

 全ては精霊王という存在を隠すため。

「なんで……精霊王が祝福してる国なんて最強じゃない。どうして隠す必要があるのよ!」
「最強であり弱点ともなりうる、諸刃の剣なの」

 精霊王なんて存在が知れ渡れば、国民は元より愚かな貴族はおごる事だろう。精霊王に頼って何もしなくなる。それは火を見るよりも明らかだった。

 だからこそ、精霊王は陰でひっそり国を見守るにとどまったのだ。そうすべきなのだ。

「大体、どうしてミライッサの元に精霊王が……」
「ああ、我が伯爵家は王家の末裔ですからね」
「はあ!?」
「あ、もちろん今の王家も本物ですよ。初代女王には男女の子供が居たそうで。男子は二代目王となり、その直系が今の王家です。で、娘の方が……」
「娘の方の直系があんたんとこってわけ?」
「またまたご名答~!」

 正解の賞品ないから拍手してあげよう!またパチパチしてたら「ふざけんな!」と怒鳴られてしまった。なんでだ、褒めたのに!

「建国王の子供の直系がなんで伯爵家なのよ!そんな低い地位のわけないでしょ!」
「まあそこはカモフラージュと言いますか」

 精霊王は基本国を守ってはいる。だが無駄に力を行使はしない。それは世界のバランスを崩しかねないから。

 そんな精霊王を管理するのが、初代女王の娘の直系である我が家なのだ。特に女性は精霊王との結びつきが強い。

「ちなみに、初代女王と精霊王は結ばれてません。残念ながらそれは許されなかったので」

 なので精霊王は血縁ではないんだけどね。
 義理難いというか執着?精霊王はずーっと我が伯爵家と共に居たんだよねえ。


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