婚約者とその浮気相手の令嬢がウザイのでキレることにしました

リオール

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「兄上ぇぇぇ!」

 真面目な話をしていたら、バンッと勢いよく扉が開けられて不真面目な存在が入ってきた。
 馬鹿と書いて馬鹿と読む奴が。……違った、馬鹿と書いてバカと読む……違う、名前なんだっけ、バカじゃなかったっけ?

「騒々しいぞボルドラン。そして勝手に入って来るな」

 あーそうだそうだ、そんな名前だった!すっきり!

「なぜスッキリした顔をしているミライッサ。……兄上、ミライッサとの婚約破棄に関する話なら、私も同席させてください!」
「必要ない」
「大ありです!そして彼女も同席させます!」

 そしてバッとボルドランが背後を振り返った先には……

「ども~!ポリアナちゃんで~っす!」
「帰れ」
「はい、帰ります!──って帰りませんよ!ミライッサ様ひどい!」
「ひどくない。ピンクは帰れ、すぐ帰れ」
「は~い、帰ります!ってなんでですのーん!」

 ノリいいな。ボルドランに鍛えられたか。

 ていうかさっき私が来たと知ったばかりで、よくこんな早くにポリアナを呼べましたね。

「ふふ~ミライッサ様が何を考えてるか分かりますよ~!じ・つ・は!ボルドラン様とイチャイチャしてました~!」
「ああさいで」
「さいでって!席を外してからなかなかボルちゃんが戻ってこないから探しに出たら、なぜか床に突っ伏して泣いてたんですもん。ビックリして踏んじゃいましたよ!」

 ボルちゃんて!ビックリして踏んじゃったって!
 どこから突っ込めばいいのか分かりませんよ!
 でもいいなその呼び方。

「いいですねその呼び方、ボルドランて長いと思ってたんですよ。じゃあ私もそう呼びましょう。ボ」
「略しすぎだ!せめてルを付けろ!」
「じゃあル」
「二文字にして!」
「ボン」
「最初と最後かあ!!」

 うっさいなあ。一文字でもありがたいと思え。妥協して二文字でも文句言うとか何様だ、ボ様か。

「じゃあ私もお前の事をミラと呼ぶぞ。そう言えばライラとかお前の友人達もそう呼んでたしな」
「殺意が半端ないです」
「殺意生まれるの!?そこまで!?」

 勝手に愛称呼ぶのも腹が立つが、私の友達を呼び捨てにする事の方が腹が立つ。ライラもボより格下の伯爵家ではあるが、親しくも無い女性の名前を呼び捨てにするんじゃないわよ。

「一万歩譲って私をミラと呼ぶのは見逃しましょう。ですがライラを呼び捨てにするのは許しません。ボは男として最低の事をしてますよ」
「二文字!」
「ボンボンは男として屑ですよ」
「もう原型分からないし四文字だし最低どころか屑になってるし……」

 叫ぶ気力も無くなったのか、最後の方は涙声になってきた。流石に可哀そうになってきたのでこのくらいにしておくか。

「ボルドラン、私の友人への呼び捨てはやめてください」
「わ、分かった……」

 疲れ切った様子で頷くボルドラン。

 私はそこで改めてワリアス様に顔を向けた。

「さて、どこまで話しましたっけ……」
「あ~……婚約解消の手続きはうちで進めるが、王家への説明に明日出向くということだったかな」
「そうですね。そう言えばどこから聞いたのか、先日早速王家の使いの方が我が家へ来られましたよ」
「さすが早いな……」
「そりゃまあねえ……」

 互いに苦笑を浮かべる。ワリアス様に至ってはかなり凹んでいるご様子。まあ気持ちは分かるが……。

「お、王家!?どうして王家に説明に行かねばならないのですか兄上!?」

 ギョッとしたのはボルドランだ。

 まあ普通の貴族同士の婚約ならば、そこまでする必要はない。
 だが残念ながら、『普通の貴族』ではないのだよ。そうなのだよ。

「おいミライッサ!お前何をしてくれた、何をしでかした!?なぜ王家が出てくる!?」

 理解できない不安がのしかかってきたのだろう。ただの婚約解消だったはずなのに。それなのにそうではない不穏な空気を流石にボルドランも感じたという事か。

 血相変えて私の胸倉をつかんで来た。

「放してください。女性に対して失礼ではありませんか?」
「お前にそんな配慮は必要ない!答えろ、お前と王家に何の関係があるんだ!?」

 ギリギリと締め上げられて流石に苦しいな~と思っていたら。

 ガッと、不意にボルドランの手を掴む存在が。

「──ボルドラン。貴様何をしている……」
「は、ハリー兄上!?」

 ボルドランやワリアス様によく似た風体の、けれどワリアス様より若くボルドランより大人の……二人に比べて整った容姿をした男性。
 侯爵家次男のハリー様だった。

「何をしていると俺は聞いてるんだ!」
「いだ!いだだだだ!兄上痛い!」

 ボルドランの腕を捩じり上げ、私からその手が離れた瞬間。
 あっという間にハリー様はボルドラン様を組み敷くのだった。

 侯爵家次男ハリー様。
 彼は三人の中で……いや、貴族の中でも最も優秀な剣士で……王家直属の騎士団の団長だった。




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