6 / 18
6、
しおりを挟む「兄上ぇぇぇ!」
真面目な話をしていたら、バンッと勢いよく扉が開けられて不真面目な存在が入ってきた。
馬鹿と書いて馬鹿と読む奴が。……違った、馬鹿と書いてバカと読む……違う、名前なんだっけ、バカじゃなかったっけ?
「騒々しいぞボルドラン。そして勝手に入って来るな」
あーそうだそうだ、そんな名前だった!すっきり!
「なぜスッキリした顔をしているミライッサ。……兄上、ミライッサとの婚約破棄に関する話なら、私も同席させてください!」
「必要ない」
「大ありです!そして彼女も同席させます!」
そしてバッとボルドランが背後を振り返った先には……
「ども~!ポリアナちゃんで~っす!」
「帰れ」
「はい、帰ります!──って帰りませんよ!ミライッサ様ひどい!」
「ひどくない。ピンクは帰れ、すぐ帰れ」
「は~い、帰ります!ってなんでですのーん!」
ノリいいな。ボルドランに鍛えられたか。
ていうかさっき私が来たと知ったばかりで、よくこんな早くにポリアナを呼べましたね。
「ふふ~ミライッサ様が何を考えてるか分かりますよ~!じ・つ・は!ボルドラン様とイチャイチャしてました~!」
「ああさいで」
「さいでって!席を外してからなかなかボルちゃんが戻ってこないから探しに出たら、なぜか床に突っ伏して泣いてたんですもん。ビックリして踏んじゃいましたよ!」
ボルちゃんて!ビックリして踏んじゃったって!
どこから突っ込めばいいのか分かりませんよ!
でもいいなその呼び方。
「いいですねその呼び方、ボルドランて長いと思ってたんですよ。じゃあ私もそう呼びましょう。ボ」
「略しすぎだ!せめてルを付けろ!」
「じゃあル」
「二文字にして!」
「ボン」
「最初と最後かあ!!」
うっさいなあ。一文字でもありがたいと思え。妥協して二文字でも文句言うとか何様だ、ボ様か。
「じゃあ私もお前の事をミラと呼ぶぞ。そう言えばライラとかお前の友人達もそう呼んでたしな」
「殺意が半端ないです」
「殺意生まれるの!?そこまで!?」
勝手に愛称呼ぶのも腹が立つが、私の友達を呼び捨てにする事の方が腹が立つ。ライラもボより格下の伯爵家ではあるが、親しくも無い女性の名前を呼び捨てにするんじゃないわよ。
「一万歩譲って私をミラと呼ぶのは見逃しましょう。ですがライラを呼び捨てにするのは許しません。ボは男として最低の事をしてますよ」
「二文字!」
「ボンボンは男として屑ですよ」
「もう原型分からないし四文字だし最低どころか屑になってるし……」
叫ぶ気力も無くなったのか、最後の方は涙声になってきた。流石に可哀そうになってきたのでこのくらいにしておくか。
「ボルドラン、私の友人への呼び捨てはやめてください」
「わ、分かった……」
疲れ切った様子で頷くボルドラン。
私はそこで改めてワリアス様に顔を向けた。
「さて、どこまで話しましたっけ……」
「あ~……婚約解消の手続きはうちで進めるが、王家への説明に明日出向くということだったかな」
「そうですね。そう言えばどこから聞いたのか、先日早速王家の使いの方が我が家へ来られましたよ」
「さすが早いな……」
「そりゃまあねえ……」
互いに苦笑を浮かべる。ワリアス様に至ってはかなり凹んでいるご様子。まあ気持ちは分かるが……。
「お、王家!?どうして王家に説明に行かねばならないのですか兄上!?」
ギョッとしたのはボルドランだ。
まあ普通の貴族同士の婚約ならば、そこまでする必要はない。
だが残念ながら、『普通の貴族』ではないのだよ。そうなのだよ。
「おいミライッサ!お前何をしてくれた、何をしでかした!?なぜ王家が出てくる!?」
理解できない不安がのしかかってきたのだろう。ただの婚約解消だったはずなのに。それなのにそうではない不穏な空気を流石にボルドランも感じたという事か。
血相変えて私の胸倉をつかんで来た。
「放してください。女性に対して失礼ではありませんか?」
「お前にそんな配慮は必要ない!答えろ、お前と王家に何の関係があるんだ!?」
ギリギリと締め上げられて流石に苦しいな~と思っていたら。
ガッと、不意にボルドランの手を掴む存在が。
「──ボルドラン。貴様何をしている……」
「は、ハリー兄上!?」
ボルドランやワリアス様によく似た風体の、けれどワリアス様より若くボルドランより大人の……二人に比べて整った容姿をした男性。
侯爵家次男のハリー様だった。
「何をしていると俺は聞いてるんだ!」
「いだ!いだだだだ!兄上痛い!」
ボルドランの腕を捩じり上げ、私からその手が離れた瞬間。
あっという間にハリー様はボルドラン様を組み敷くのだった。
侯爵家次男ハリー様。
彼は三人の中で……いや、貴族の中でも最も優秀な剣士で……王家直属の騎士団の団長だった。
35
お気に入りに追加
1,483
あなたにおすすめの小説
王太子殿下が浮気をしているようです、それでしたらわたくしも好きにさせていただきますわね。
村上かおり
恋愛
アデリア・カーティス伯爵令嬢はペイジア王国の王太子殿下の婚約者である。しかしどうやら王太子殿下とは上手くはいっていなかった。それもそのはずアデリアは転生者で、まだ年若い王太子殿下に恋慕のれの字も覚えなかったのだ。これでは上手くいくものも上手くいかない。
しかし幼い頃から領地で色々とやらかしたアデリアの名は王都でも広く知れ渡っており、領を富ませたその実力を国王陛下に認められ、王太子殿下の婚約者に選ばれてしまったのだ。
そのうえ、属性もスキルも王太子殿下よりも上となれば、王太子殿下も面白くはない。ほぼ最初からアデリアは拒絶されていた。
そして月日は流れ、王太子殿下が浮気している現場にアデリアは行きあたってしまった。
基本、主人公はお気楽です。設定も甘いかも。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました
よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。
そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。
わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。
ちょっと酷くありません?
当然、ざまぁすることになりますわね!
【完結】前世を思い出したら価値観も運命も変わりました
暁山 からす
恋愛
完結しました。
読んでいただいてありがとうございました。
ーーーーーーーーーーーー
公爵令嬢のマリッサにはピートという婚約者がいた。
マリッサは自身の容姿に自信がなくて、美男子であるピートに引目を感じてピートの言うことはなんでも受け入れてきた。
そして学園卒業間近になったある日、マリッサの親友の男爵令嬢アンナがピートの子供を宿したのでマリッサと結婚後にアンナを第二夫人に迎えるように言ってきて‥‥。
今までのマリッサならば、そんな馬鹿げた話も受け入れただろうけど、前世を思したマリッサは‥‥?
ーーーーーーーーーーーー
設定はゆるいです
ヨーロッパ風ファンタジーぽい世界
完結まで毎日更新
全13話
婚約破棄を要求されましたが、俺に婚約者はいませんよ?
紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
長い外国留学から帰ってきたラオウは、突然婚約破棄を要求されました。
はい?俺に婚約者はいませんけど?
そんな彼が幸せになるまでのお話。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる