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 プルプルと震えてる王様の怒りは多分頂点に達してると思います。噴火五秒前かしら。

「あい分かった……」

 だがそこはさすが王様。必死に冷静を保った!伊達に頭が光ってない!──これは心の声ですから。さすがの私も声に出して言うほど命知らずではありません。

 王様は顔を赤くしながらも、努めて冷静にバカップルを見た。

「ボルドラン、お前には失望した。兄二人ほどではなくとも、お前もそれなりに頑張ってくれると思ったのだがな」

 頑張って学年底辺の学力を維持してましたね。

「いや……兄二人が優秀でも、その弟が優秀になるとは限らない事はワシも分かっている。過度な期待はしなかった。普通で良かったのだ。普通にミライッサ嬢と結婚してくれていたなら、何も問題無かったというのに……」
「いやあポリアナの方が魅力的だったもんで……こう、胸とか」

 王様の怒りをまだ理解してない馬鹿が、照れ照れと頭掻いてますよ。そしてそれは私への挑戦状か?あ゛?

「……ミライッサ」
「え、あ、はい!」

 いきなり呼ばれて、慌てて姿勢を正して返事をした。

「そなたは改めてハリーと婚約という事で良いのだな」
「はい、何の不満もございません。お優しいハリー様でしたら、私は安心です」
「ハリーもそれで良いのだな?」
「はい。俺は……ずっと彼女が好きで誰とも婚約しませんでしたし。同い年の方が良いだろうとボルドランが婚約者に決まった時には、弟の顔を往復ビンタしようかと思ったくらいです」
「安心してください。先日私が往復ビンタしました」
「流石ミライッサ!ますます惚れる!」

 いやあそんな、照れるわあ……。

 私達がとんでもない事実をサラッと言ってるからだろうか。

 ボルドランはしばしポカンとした顔で黙って聞いていたが。
 不意にハッとなって、割り込んで来た。

「ちょちょちょちょちょっと待って、ちょっと待ってください!」
「なんだボルドラン、邪魔をするな」
「いや兄上、今の話は何ですか!?兄上とミライッサが婚約!?聞いてませんよ!」
「そりゃ聞いてないだろう。話してないからな」
「聞いてないよ~!」
「話してないよ~!」

 やっぱ兄弟。ノリが似てるな。

 でもハリー様は幼い頃から知ってるけれど、優しくて大好きだったから、正直嬉しい。今はまだ兄のような存在だけど……きっと『好き』の種類が変わる日も遠くない。

 そう、むしろ実の兄より好きだ。

「難点を無理に上げるとしたら、お兄様と仲いいってことくらいですね」
「なんだそれ。ミラ、ハリーが俺と仲良くて何が問題なんだ?」
「だって変態お兄様と仲いいなんて、大丈夫かなと思ったり思わないようで思ったり」
「妹の兄への不信感泣ける!」

 よよよと泣き真似する兄は放置しておこう。

「ミライッサ、それは心配するな。俺は仲が良いと言うより見張り役だ。ケインの変態を止める役目だ」

 ケインってお兄様の名前ね。念のため。

「なるほど、では安心ですね!」
「妹と親友が酷い!そしてそんな親友が義理の弟になるとか!」
「よろしく頼むぞ、あ・に・う・え」
「やめて、俺を兄と呼ばないで!」

 確かに仲いいなこの二人。
 そうか~こんど兄の婚約者に報告しておこう。兄の変態を止めれるのは婚約者様だけではなく、もう一人居ますよ~って。ちなみに兄の変態っぷりがどんなものなのかは、本人の名誉のために伏せておきます。

「み、ミライッサ……」

 やいのやいのと賑やかに話していたら、すっかり存在忘れてた人物が小さな声で名を呼んで来た。返事はしないで顔だけ向けると、なんか泣きそうなボルドランが目の前に。

「ボルドラン?」
「で、では本当に私との婚約は破棄でいいのだな?」
「いいも何も、今正式に書類を交わして婚約は解消されましたでしょ?何を言ってるんですか」

 まだ現実が理解出来ないのだろうか。

「嘘だ!」

 だが理解出来てなかった様だ。
 いきなり血相変えて私の腕を掴んで来た。

「嘘だ嘘だ嘘だ!お前は俺のこと好きだったはずだろ!?婚約破棄は嫌だって泣いて縋るはずだろうが!」

 まだ言うか~まだそれ言うか~。

 もう白い目で見るしか私には出来なかった。

「いい加減にしてくださいよ、ボルドラン」
「だってだってだって、私は優秀でイケメンでモテモテ男なんだぞ!優良物件なんだぞ!それを簡単に手放すとか……お前、頭おかしいんじゃね!?」
「お前がおかしいんじゃね!?」

 何言ってんのこの人!もう恐いわ!

「いい加減にせぬか!」

 収拾つかなくなってきたなと思っていたところで。
 王様の鶴の一声でボルドランは沈黙を余儀なくされた。

「もう良い!其方たちは百害あって一利なしの存在だ!ボルドランは僻地で修行し直せ!」
「えええええ!?」

 僻地で修行。まあ左遷みたいなものやね。良かったねえ、学園やめれるよ!

「そしてそこのピンク!」
「え!?あ、ポリアナちゃんでっすよ」

 完全に傍観者してたポリアナは、いきなり呼ばれてビックリしていた。うん、チョコ床に落ちたよ。

「お前は男爵家から追放だ!庶民として生きていけ!あとチョコ落とすなああ!!」
「はい~~~~~!?」

 ビックリしすぎてチョコ全落ちしてるし。王様王冠落として頭光らせてるし。

 こうして。

 騒々しい婚約解消の手続きは終了したのだった。

 ボルドランとポリアナは、仲良く消える事が決定した。バンザイ!

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