4 / 18
4、
しおりを挟む「ミライッサ、ボルドランと婚約解消するんだって?」
帰宅後自室でくつろいでいたら、扉をノックする音。そして入って来た人物は、開口一番私に聞くのだった。
「お兄様、ノックへの返答を聞いてから入ってくださいな」
もし私が下着姿だったらどうするんですか。妹なんぞに欲情しないってか、そういう問題ではない、思春期の妹に殴られ……違った、嫌われますよ。あとお兄様の婚約者に兄はデリカシーがない駄目男って報告しますよ。大好きな婚約者様に嫌われてもいいんですか嫌ですよね。
「妹が脅迫する!」
「脅迫ではありませんよ、至極まともなお願いです」
泣き真似する兄は放置が一番。
私は目の前に置かれた紅茶を一口飲む。う~ん、少しぬるくなってきたなあ。
「お嬢様、熱いお茶をお持ちしましょうか?」
「それもいいけど……フルーツジュースが欲しいかな」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
頭を下げて、優秀なメイドは退室していった。
「婚約解消というか……強引に破棄したいと言ってきたんですけどね」
目の前の椅子に勝手に座る兄に今度は何も言わずに。私は事の顛末を兄に話すのだった。
まあ当然というか。
こめかみに青筋立てる兄が目の前に登場する、というわけですね。
「おのれボルドラン……馬鹿のくせに我が愛しの妹を振るとは……身の程知らず甚だしい!馬鹿のくせに!」
「まあ馬鹿ですからね、こんな馬鹿な事できるのも馬鹿だからなんでしょう、馬鹿のくせに馬鹿だから馬鹿でしょう馬鹿なんです」
「何活用だそれは」
「馬鹿活用ですね」
とりあえず馬鹿と付けておけばそれ即ちボルドランとなる。
そんな日も近いかもなあ。
「我が家は確かに格下の伯爵家だが……表向きはそうだが、その実態は……あの馬鹿は知らないのか?」
「知らないんじゃないですかね?」
どう考えても真実を知ってるとは思えない傍若無人な振る舞い。
あれはきっと『真実』を知らないんだろう。誰も教えてないのだろうか?
知ってるべきことを知らないボルドランに首を傾げたが。
「まあ馬鹿ですからね」
「そうだな、馬鹿だからな」
全て馬鹿で片付くのだった。
不意に、扉をノックする音がした。
「どうしたの?」
「お嬢様にお客様です」
「──そう。早かったわね」
客の名前は告げられていない。
だが誰かなんて容易に想像できる。
私はゆっくり立ち上がって、兄と共に客間へと向かうのだった。
※ ※ ※
「ミライッサぁぁ!見よ、この傷を!」
ウンザリしたくなるくらいに大きな声で私を呼ぶのは……もういいよね、なボルドラン。
いつも通りの学園で、彼は今日は階段手すりを指さしていた。
私は額に手を当てながら、一応聞く。
「今度は何ですか、ボルドラン様」
「聞いて驚け見て驚け!この傷はポリアナが落ちかけた時に付いた傷だ!」
「ああ、あの階段から落ちかけた事件」
「そうそうそれだ!別名ミライッサがポリアナ突き落としちゃった事件だ!」
「酷いセンスの別名ですね」
「誰が聞いても分かるようにだ!」
誰が聞いても嘘くさいわ!
は~とため息ついてたら、ライラに肩を叩かれた。
その豊満な胸に顔をうずめて泣きたい。怒られるからやらないけど。
「何度も言いますが、私はそのような事はしてません。婚約破棄は承諾しましたでしょう?もういいじゃないですか」
ウンザリした顔で言ったら。すんごい情けない顔で見られてしまった。なんだその顔は。笑って欲しいのか。
「しょ、しょ、しょ……!」
「ショートカット」
「ショートケーキ」
「ショートアッパー」
「しょーもない」
「「「ミラ、さすが!」」」
しょ、しょ……ってボルドランが言うから。
友人二名とライラが彼の言おうとしてる事を当てようとしたのだが、どうやらハズレだったので最後に私も言ってみた。ら、友人達に褒められた。さんきゅーさんきゅー!
「しょーもなくないわ!」
キャッキャ盛り上がってたら、顔を真っ赤にしてボルドランが手すりをバンッと叩いた。
──叩いて、手を押さえながらうずくまった。大丈夫ですか?頭が。
「しょ、承諾したって承諾したって……!私との婚約が無しになってもいいのか?」
「構いませんと何回言ったら分かるんですか」
「嘘だろ!?」
「本当です!」
「マジ!?」
「大マジ!!」
「嘘だああっ!」
何なんですかもう!
「ポリアナさんがいいんでしょ?だから私と別れたいんでしょ?」
「ま、まあそうなんだが……」
「だったらいいじゃないですか。何が問題なんですか」
「泣いて縋ってくるだろ!?」
まだ言うのかそれ。
ウンザリというより、いい加減憐れになってきた。
「泣いて縋りません。あとポリアナさんを突き落としてもいません」
どっかにいってしまった階段突き落とし事件の話を戻して否定しておいた。
「嘘だあ……私のこと、好きだったくせにぃ~」
「いつどこで誰が何とどうしてそうなった」
「あらミラ、それ何かのゲームに使えそうですわね!」
「いつどこでゲーム!いいですわね、いいですわね!」
またも友人達とキャッキャ盛り上がってたら。
「ゲームとか言うなあぁ!!」
また手すりをブッ叩いて手を押さえてうずくまるのだった。
ほんと、大丈夫ですか?
頭が。
36
お気に入りに追加
1,485
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とっても短い婚約破棄
桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。
「そもそも婚約ってなんのこと?」
***タイトル通りとても短いです。
※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢の私が婚約破棄?いいでしょう。どうなるか見ていなさい!
有賀冬馬
恋愛
マリアンヌは悪役令嬢として名高い侯爵家の娘だった。
そんな彼女が婚約者のシレクサ子爵から婚約破棄を言い渡される。
しかし彼女はまったくショックを受ける様子もなく……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ざまぁなんて、おかしいですわ!!
紫宛
恋愛
第2王子殿下が侯爵令嬢を婚約破棄しようとしていた。
だが、そこに『待った』の声がかかる。
『待った』の声を掛けたのは、思わぬ人物だった。
タイトルと内容にズレ有り、迷走中。
4月28日
3話、第1王子→第2王子に変更。更に、王太子になる→王太子になる予定に変更しました。誤字の報告ありがとうございます。
※タイトル変更※
ざまぁなんて、おかしいですの!!
⇒ざまぁなんて、おかしいですわ!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。
あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。
その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。
シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。
その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。
そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。
ざまぁ展開のハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる