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「ディアナ!?やめろ、飲むな!」

 血相変えて私からカップを奪うカルシス様。そんなに飲みたかったの?でもごめんなさい。もう──

「全部飲んでしまいました」

 そう言って私は空になったカップを逆さ向けた。一滴したたり落ちるのみ。見事に飲み干しましたよ。

 毒……にしては甘かったなあ。
 未だ変化を感じないのに首を傾げてたら、ガッシと両肩を掴まれてしまった。誰にって、カルシス様にだ。

「ディアナ!ディアナ!?」
「は、はいはい、聞いてますよ」
「大丈夫か!?体に異常は!?君はいつも異常状態だけど、いつもと違う異常を感じてないか!?」

 その余計な一言は不要じゃない!?心配するなら普通に心配してよ!

 余計な一言は、幼馴染のアイラルの机の引き出しにでも仕舞っておくとして「ちょっとやめてよ」じゃあポルスの……「俺の引き出しは写真で満杯だ」なんの写真だよ!……仕舞えなかったので心の片隅に追いやって後で涙するとします。

 気を取り直して。
 どうしてそんな事を聞くのだろう?首を傾げてしまった。

「異常は有りませんが……どうしてそんな事を聞くんですか?」

 私の問いに一瞬口ごもるカルシス様。だが、思い詰めたように……いつもの建前なホンワカ王子の仮面脱いだ、真剣な顔を向けてきた。

「カルシス様?」
「もしかしたら……毒が入ってるのではないかと思ったんだ」
「毒ぅ!?」

 思わず叫んでしまった。ザワリと場にどよめきが走る。

 毒……どうしてカルシス様は……知ってるの?

「え、ひょっとしてカルシス様、知ってたんですか?」

 ミルザ王女が怪しげな薬を手に入れた事。
 そう問えば頷かれてしまった。えー、そうなんだ!

「王家には影で動く者が居る事、知ってるだろ?彼らが教えてくれた」
「あ~……」

 そういや居たね。王家に牙剥く存在をいち早く見つける、それも彼等の仕事でした。すっかり忘れてたわ。

 え、じゃあ何、私飲み損?

「カルシス様、私飲み損ですか?」
「僕は毒に耐性つけてるからね。飲んで毒かどうか判別しようとしてたんだ。……飲み損だね」
「飲み損かあ!」
「馬鹿だなあ」

 ええ、ええ、どうせ馬鹿ですよ!馬鹿なりに王子を守りたかったんです!

 と、ちょっと不貞腐れてたら頭を撫でられた。

「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
「別に?命がけで守ってくれるほどに僕の事、愛してくれてるんだなと思っただけさ」
「──!お、王子を守るのは当然です!」
「ふ~ん、そうなの~?」

 ええい、ニヤニヤしながら顔を近づけるな!

 グイグイ必死で押し返してたら、ポルスが「王子、人前ですよ」と助けてくれた。さんきゅう!

「何よ何よ、一体何なのよ!毒ですって!?そんなわけないでしょ、失礼ね!」

 ワヤクチャやってて忘れてたけれど、その声に我に返る。あ、そうだ、ミルザ王女忘れてた!

 見れば真っ赤になってプルプル震えてる。あ~っと、ウッカリしてた。せっかく穏便に済ませようと思ったんだけど、これはまずいかな……?

 どうやら毒でもなんでもなく、本当にシロップだったのだろう。私の体に異常は無い。なのに私は王女が用意したお茶を飲み。カルシス様は毒が~……とか不穏な発言しちゃったし。

 外交問題に発展するかな?

 ビクビクしてたら、スッとカルシス様が前に出た。

「ごめんねミルザ、ちょっとした誤解があったみたいなんだ」
「誤解?私が毒を盛るとでも思ったの?そんなわけないでしょ!!」

 だよねえ。カルシス様の事、大好きっぽいもんねえ。
 今思えば、流石に毒は無いわな。

 では一体あの液体は何だったんだろう?
 今回入れたのは、違ったようだけ……ど……

ドクンッ

 その時だった。

ドクンッドクンッ

 心臓が飛び出すかと思った。
 急激に体が熱くなる。

「かは──!!」

 苦しい。
 息苦しい。

 私はむせるように息を吐いて、その場に蹲るのだった。

「ディアナ!?」

 カルシス様の焦る声が、どこか遠い──




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