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9、
しおりを挟むスパーンッ!!
「お城に到着ですわよーーーー!!!!」
ガタンと音を立てて馬車が止まったかと思えば、コンマ1秒で開かれる扉。あれ、横開きだっけこの馬車?効果音おかしくない?
首を傾げつつ、馬車の扉を開けたミルザ王女が立つ外へと出た。ミルザ王女が来てからはいつもコレだから、今更驚かないのだ。──背後のドス黒いオーラを纏ってる方の気配に身震いするのも、いつもの事だ。恐い恐い。
いつもは王太子が先に降りて私をエスコートしてくださるのだが、それをミルザ王女が妨害するので、私が先に降りるようになった。これももう慣れた。だがやはり殺気を背後に感じるのには慣れない。だから怖いっつーの。
前を見れば、表面上はニコニコ顔のミルザ様。多分内心は凄い悪態ついてる……と思いたくないが思う。一応私も貴族ですからね、有象無象の悪鬼住まう貴族の中に生きてきましたからね。仮面つけてるかどうかくらい、直ぐに分かる。
よく見れば、ミルザ王女の弧を描く唇の端が引きつってる。カルシス様とは別の意味で恐い恐い。女の嫉妬、恐い。
というか、ミルザ王女は一体何しにこの国に来たのだ?学びたくて来たんじゃないの?ついでに男ゲットを目論んでるって?やだ恐い。
本日何回目かの恐いを心の内で呟いて、私は地面に足をつけた。
次いでカルシス様も。もう黒いオーラも殺気も感じられなくなっていた。その変わり身は流石と言うべきか。
振り返って彼の顔を見ようとして、衝撃によろける。
「痛っ!!」
「カルシス~!今日も疲れたわね、まずはお茶しましょ、甘いお菓子食べましょ!それから甘~い時間を私と過ごしましょ~?」
お菓子よりも何よりも甘ったるくて胸焼けしそうな声を出すミルザ王女は、カルシス様に腕を絡ませてその顔を覗き込むのだった。ちなみに私はミルザ王女に思い切り突き飛ばされて、地面に手をついた状態だ。痛いっつーの。
流石に慌てて皆が助けに来るけれど、当のミルザ王女は知らん顔。グイグイとカルシス様を引っ張って行くのだった。おーい。
呼んでも無駄か。
仕方ないなあと私はメイドに引っ張ってもらい立ち上がる。汚れた制服をパンパンと叩いて、心配そうに見つめるメイドにニッコリ笑顔を向けるのだった。
大丈夫だよ。そう聞こえない声を乗せて。
そう、大丈夫。
従者たちもミルザ王女も誰も気付いてない。
だけど私には分かる。
ミルザ王女と困り顔の笑顔で話すカルシス様。
その瞳の奥の氷のように冷たい光。私にだけは見える。
──ミルザ王女、明日の朝日を拝めるかなあ……。
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