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しおりを挟む「ストレスが半端ない」
本日の学園終了後。ただいま下校中でございます。
私は今日も今日とて、王妃教育という名目で、けれど実際は王太子の相手9割をすべく王城に向かう。いつもこうやって王太子の馬車に同乗するのだ。
さすがにこれにはミルザ王女は付いて来ない。というか、自国の従者たちに、自分とこの馬車に有無を言わさず押し込まれてるからだ。さすが自国の王女の扱いに長けてらっしゃる。こちらの馬車に乗ろうとする王女を、チャチャッと自分らの馬車に乗せる手腕はなかなかのものだ。
そうしてようやく王女から解放されたカルシス様。
第一声がこれ。
「でしょうね」
同情しますよ。
心を込めて言えば、いきなりスックと立ち上がるカルシス様。走行中の馬車内での移動は、危険ですからおやめください。と言う間もなく、どっかと横に座られてしまった。
でもって。
ドサッ
「重い!」
「うるせー。ちょっと俺に肩を貸せ。減るもんでもないだろうが」
「色々とすり減りそうです」
「そうか、胸だけはそれ以上減らすなよ」
「セクハラとして訴えてもいいですか?」
「お前と結婚してくれるような奇特な奴は俺以外居ないし、今後も一生現れないぞ。それでもいいのか?」
「それは切実な問題ですねえ」
「なら我慢しろ」
そう言って、カルシス様は私の肩に頭を乗せたまま目を閉じる。
ややあって、スースーと寝息が聞こえ始めた。
ひょっとしなくても、ちゃんと眠れてないのかな。
学園でミルザ王女の突撃に遭い、お城でも息を抜く間もない。
──それは結構、非常に、まずいんじゃないでしょうか。
肩に視線を向ければ、少し苦し気に眉根を寄せてるカルシス様が見えた。もうちょい顔が見たいなと思って首を動かせば、フワリと当たる髪。
気のせいか、少し傷んでる気が……。
そっと手を伸ばしてその髪に触れようとした瞬間。
ガッシとその手を掴まれてしまった。
「うえ!?」
「なに人の髪を触ろうとしてるんだよ」
「いいじゃないですか触るくらい。減るもんじゃなし」
「減る」
「それはつまりアレですか、髪が減るという事はハゲ……」
「不吉な事を言う口はこれか?ん?」
「ひゅひはへん、ひょーはんへふ、ハフヒフはははふっほフハフハへふ(すみません、冗談です、カルシス様はずっとフサフサです)」
ビローンと頬を伸ばさないで、痛い!
必死でごめんなさいと謝ってたら、ブハッと笑われてしまった。失礼な。
「フハッ!やっぱお前と居ると楽しいな!」
「それは良かった、私は頬が痛いです」
やっと解放されたホッペをさすって憮然とする。が、内心は嬉しいんだ。私の前だけは本来の彼で居てくれること、私にだけ本当の彼を見せてくれること。そして私と共に居る事を楽しんでくれる彼の笑顔が大好きなのだ。
とは言わないけどね。なんか色々恐いので。
黙って頬を撫でてたら、その手をとられた。
「?」
「赤くなってる」
「貴方が引っ張ったからでしょうが」
「そうだな」
そこは『悪かったよ』じゃないの!?絶対謝らないわね、この俺様が!
ジトッと睨みつけながらそう思ってたら、その顔が徐々に近づいてくるのに気付く。
あ、これは……
この後何が起こるのか理解した私は。
そっと目を閉じる。
──頬よりも真っ赤になりながら。
貴重な二人きりの時間は、甘い甘いものとなる。
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