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第六話 少女と狼犬
26、※グロ注意
しおりを挟む突き刺すような殺気。全身が総毛立つ。ザワリと空気が変わった。少女の怒りは頂点に達しようとしていた。
「貴方は──どこまでも……!!」
「ひ──」
肌を突き刺すような殺気。それを感じて言葉を失い、蒼白になる存在を少女は汚物を見るような目で見て。
そしてスッと手を伸ばすのだった。
「り、里亜奈……?」
「私はもう里亜奈ではありません」
「なんだと?」
「里亜奈という存在は居なくなりました。ここに有るは人形に宿った魂のみ」
「何を言って……」
「もうお前の娘、里亜奈はどこにも居ない」
だからお前を助ける存在はどこにも居ない。
「真里亜」
里亜奈が指さす先、呼ばれた背中の存在がピクリと動くのを感じた。話してる間、どの化け物も動く事は無かったというのに。
金髪の少女の言葉に、反応が返ってきた。
「貴女にあげる。貴方達にあげる。そのオモチャ──好きにしていいわ」
「里亜奈!?」
「里亜奈ではないと言ったでしょう?」
その言葉を最後に、少女はクルリと踵を返して歩き出した。山の奥へと向かって。振り返る事はもう無かった。
「里亜奈!待て!父を置いて行くのか!?私を見殺しにするのか!?」
「……」
「貴様……!!ただで済むと思うな!許されると思うなよ!覚えていろ、もっともっと苦しめてやる!お前を今まで以上に苦しめてやるからな!!それが嫌なら父を──」
「おどうざまあ……」
尚も言い募ろうとしたが、その言葉は遮られることとなる。
背後の真里亜が、ツツツ……と少ない指で顔を這うのだ。
「──!ま、真里亜……?」
「おとうざまあ……真里亜、目が見えないの、無くなっちゃったの」
「そ、そうか。真里亜、放して……」
見えないの、真っ暗なの、目が無くなっちゃったの。
「お父ざま、何でも欲しいのがあれば言いなざいって言っでだでしょ?何でもくれるって言ってたでじょ?」
だから。
ね?
「お父様の目、頂戴?」
「ひ──!!」
グジュリ。
指がめり込む感触。それを目に感じ、激痛に襲われる。
「ぎいあああ!!」
叫びながら、視界の隅に映るのは──押し寄せるように群がって来た化け物の数々だった。
「儂は鼻を!」
「俺は耳だ!」
「指を!」
「手を!」
「腸を!」
「心臓を!!」
どんどん伸びて来る手。手の無いものは歯で。口で。足で。そして。
ブチッ
右の視界が奪われた。
ブチッ、ブチュリ……
左の視界も奪われた。
見えなくなった世界で襲い来る激痛の数々。
舌を奪われても歯を奪われても手足がもがれても──内臓を奪われても。
最後の最後まで。
最期まで、叫び続けることしか出来ない──
※ ※ ※
屋敷の方から聞こえる叫び声を耳にしながら、私の心はとても穏やかだった。
忌まわしく呪わしい男の最後の断末魔を聞いたせいか、少し高揚感を感じつつも落ち着いていた。
山の奥の奥。
今まで来た事も無いくらいに奥。
私の足元には、大人の頭サイズの石が置かれていた。少し盛り上がった土の上に、無造作に。けれど丁寧に。
そっと石の側に、先ほど摘んだ花を置いた。小さな白い花を。
「終わったわ、正人」
その下に眠る存在にそっと声をかけた。
終わった。全て終わった。これからどうするかなんて知らない、分からない、考えたくもない。
そっと目を閉じて。
私はペタリと地面に座り込んだ。
石に手を置く。
「このまま……朽ち果てるまで、ここに居ようかな」
「おじょ、さま……」
「ごめんね、リュート。私のせいで……」
心配そうに覗き込んでくる存在に謝れば、彼は横に首を振った。
「一緒に」
「一緒に居てくれるの?」
問えばコクリと頷かれた。
「そう……」
眠る正人のそばで、私とリュートも朽ちるまで共に。
それもいいのかもしれない。
そう思って、目を閉じた。
声が聞こえたのはその瞬間。
「望みは叶ったかな?」
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