お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
56 / 64
第六話 少女と狼犬

26、※グロ注意

しおりを挟む
 
 
 突き刺すような殺気。全身が総毛立つ。ザワリと空気が変わった。少女の怒りは頂点に達しようとしていた。

「貴方は──どこまでも……!!」
「ひ──」

 肌を突き刺すような殺気。それを感じて言葉を失い、蒼白になる存在を少女は汚物を見るような目で見て。

 そしてスッと手を伸ばすのだった。

「り、里亜奈……?」
「私はもう里亜奈ではありません」
「なんだと?」
「里亜奈という存在は居なくなりました。ここに有るは人形に宿った魂のみ」
「何を言って……」
「もうお前の娘、里亜奈はどこにも居ない」

 だからお前を助ける存在はどこにも居ない。

「真里亜」

 里亜奈が指さす先、呼ばれた背中の存在がピクリと動くのを感じた。話してる間、どの化け物も動く事は無かったというのに。
 金髪の少女の言葉に、反応が返ってきた。

「貴女にあげる。貴方達にあげる。そのオモチャ──好きにしていいわ」
「里亜奈!?」
「里亜奈ではないと言ったでしょう?」

 その言葉を最後に、少女はクルリと踵を返して歩き出した。山の奥へと向かって。振り返る事はもう無かった。

「里亜奈!待て!父を置いて行くのか!?私を見殺しにするのか!?」
「……」
「貴様……!!ただで済むと思うな!許されると思うなよ!覚えていろ、もっともっと苦しめてやる!お前を今まで以上に苦しめてやるからな!!それが嫌なら父を──」
「おどうざまあ……」

 尚も言い募ろうとしたが、その言葉は遮られることとなる。
 背後の真里亜が、ツツツ……と少ない指で顔を這うのだ。

「──!ま、真里亜……?」
「おとうざまあ……真里亜、目が見えないの、無くなっちゃったの」
「そ、そうか。真里亜、放して……」

 見えないの、真っ暗なの、目が無くなっちゃったの。

「お父ざま、何でも欲しいのがあれば言いなざいって言っでだでしょ?何でもくれるって言ってたでじょ?」

 だから。
 ね?

「お父様の目、頂戴?」
「ひ──!!」

 グジュリ。
 指がめり込む感触。それを目に感じ、激痛に襲われる。

「ぎいあああ!!」

 叫びながら、視界の隅に映るのは──押し寄せるように群がって来た化け物の数々だった。

「儂は鼻を!」
「俺は耳だ!」
「指を!」
「手を!」
「腸を!」
「心臓を!!」

 どんどん伸びて来る手。手の無いものは歯で。口で。足で。そして。

ブチッ

 右の視界が奪われた。

ブチッ、ブチュリ……

 左の視界も奪われた。

 見えなくなった世界で襲い来る激痛の数々。

 舌を奪われても歯を奪われても手足がもがれても──内臓を奪われても。

 最後の最後まで。

 最期まで、叫び続けることしか出来ない──



※ ※ ※



 屋敷の方から聞こえる叫び声を耳にしながら、私の心はとても穏やかだった。
 忌まわしく呪わしい男の最後の断末魔を聞いたせいか、少し高揚感を感じつつも落ち着いていた。

 山の奥の奥。
 今まで来た事も無いくらいに奥。
 私の足元には、大人の頭サイズの石が置かれていた。少し盛り上がった土の上に、無造作に。けれど丁寧に。

 そっと石の側に、先ほど摘んだ花を置いた。小さな白い花を。

「終わったわ、正人」

 その下に眠る存在にそっと声をかけた。

 終わった。全て終わった。これからどうするかなんて知らない、分からない、考えたくもない。

 そっと目を閉じて。
 私はペタリと地面に座り込んだ。
 石に手を置く。

「このまま……朽ち果てるまで、ここに居ようかな」
「おじょ、さま……」
「ごめんね、リュート。私のせいで……」

 心配そうに覗き込んでくる存在に謝れば、彼は横に首を振った。

「一緒に」
「一緒に居てくれるの?」

 問えばコクリと頷かれた。

「そう……」

 眠る正人のそばで、私とリュートも朽ちるまで共に。
 それもいいのかもしれない。

 そう思って、目を閉じた。
 声が聞こえたのはその瞬間。

「望みは叶ったかな?」

 


しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...