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第六話 少女と狼犬
23、
しおりを挟むそれはまるで人形のように美しい少女だった。
──どうして人形のようだと思ったのか。
作られたように整いすぎた顔立ちのせいか。
滅多と見る事のない金色の髪のせいか、それとも青い瞳のせいか。
どこかで見た事あるような服を着ているからか。
だが見目麗しいその少女に目を奪われたのは確かだった。真里亜も美しいが、それとはまた異なる美しさを持った少女に興味を惹かれた。その瞬間、真里亜の存在を一瞬でも忘れてしまった自分が居た。
だが近づく事を恐れてしまう自分が居る。
なぜだか分からないが、作られたような美を持った少女に、足は動くのを拒んだ。
「き、きみは誰だ……?なぜここに?」
近づけない代わりに問いかける。微かに震えたのはなぜか。
少女の青い瞳が細められたのはその直後。
クルッと体ごとこちらを向いた瞬間、声ならぬ悲鳴を上げて、また腰を抜かして尻もちをつく。
「な──な……!!」
「あら、どうしたの?」
小首を傾げて少女が一歩近づく。
その瞬間、月明かりが彼女を煌々と照らし出した。その真っ赤に染まったドレスに、血塗られた顔を!!
木陰に居る時は分からなかった。こちらを振り向いた時はとても綺麗だと思ったのに。
だが今、こちらへと近づく少女は恐ろしいものでしかなかった。
「ひ、ひい!近づくな!」
ズリズリと後退してステッキを振り回して牽制するも、少女は意に介していない。スタスタと躊躇なく近づいてくる。
「やめ、来るな……!」
「あら酷い。娘に対してあんまりではありませんか?」
ねえお父様。
その言葉に。
思考が一瞬停止してしまった。恐怖を忘れる。
何だと?今少女はなんと言ったのか?
娘?
お父様?
では、では目の前の少女はまさか──
「真里亜、なのか……?」
「まあ!ふふふ……」
恐る恐る聞いてみれば、一瞬驚愕に瞳が見開かれ。
すぐに弾けたように少女は笑い出したのだ。おかしくて仕方ないというように。
延々と笑い続け。
急にピタリと止まる。
「そんなわけないでしょ」
氷のような冷たい声。そして瞳。
それを聞いた瞬間、見た瞬間、心臓が鷲掴みにされるような感覚に襲われた。
「──!!」
「私が真里亜?そんなわけないでしょうが。あなた先ほど見たでしょ?屋敷の中で。あの女の成れの果てを」
その目で、確かに。
見たのでしょう?
少女はそう言って、またも可笑しそうにクスクスと笑うのだった。
何を言ってるのだ、この女は。
真里亜を?屋敷の中で?
それは先ほど見た、化け物のことだろうか。もう一人の娘の方では無いかと思った、あの化け物のことだろうか。
「な、何言って……」
「信じたくない?でもお姉様はあなたに救いを求めてるわよ。ほら……」
言われた瞬間、背中にズンッと重みがかかった。
「!?」
なんだ!?
振り返ろうとしたその耳に、声が届く。
「だずげで、おどざま……」
「ひいい!?」
指の欠けた手が肩に回される。
耳に生温い吐息がかかった。
見たくない、絶対に振り返りたくない!
「た、助け……」
「助けて欲しいのはお姉様の方ですってよ」
「馬鹿な!この化け物が真里亜だって!?そんなわけあるか!」
必死で否定する私の姿を、さも滑稽であるかのように少女は笑う。フフフと笑う。
「何がおかしい!そもそもお前は何だ!一体何者で、なぜここに居る!?ここは私の屋敷だぞ!」
恐怖が振り切ったのか、だんだん湧き上がる苛立ち。
背中に化け物の重みを感じながら、私は怒りをぶちまけた。
「誰か!おい!誰か居ないのか!?」
呼べど叫べど、変わらず誰も来ない事にも怒りを感じた。
役立たずどもめ!皆まとめてクビにしてくれる!!
そう思った時だった。
ガサリと音がした。
誰か来たのか!?
期待して音のした方を見て。
直後に絶望へと変わる。
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