お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
53 / 64
第六話 少女と狼犬

23、

しおりを挟む
 
 
 それはまるで人形のように美しい少女だった。
 ──どうして人形のようだと思ったのか。

 作られたように整いすぎた顔立ちのせいか。
 滅多と見る事のない金色の髪のせいか、それとも青い瞳のせいか。

 どこかで見た事あるような服を着ているからか。

 だが見目麗しいその少女に目を奪われたのは確かだった。真里亜も美しいが、それとはまた異なる美しさを持った少女に興味を惹かれた。その瞬間、真里亜の存在を一瞬でも忘れてしまった自分が居た。

 だが近づく事を恐れてしまう自分が居る。
 なぜだか分からないが、作られたような美を持った少女に、足は動くのを拒んだ。

「き、きみは誰だ……?なぜここに?」

 近づけない代わりに問いかける。微かに震えたのはなぜか。
 少女の青い瞳が細められたのはその直後。

 クルッと体ごとこちらを向いた瞬間、声ならぬ悲鳴を上げて、また腰を抜かして尻もちをつく。

「な──な……!!」
「あら、どうしたの?」

 小首を傾げて少女が一歩近づく。
 その瞬間、月明かりが彼女を煌々と照らし出した。その真っ赤に染まったドレスに、血塗られた顔を!!
 木陰に居る時は分からなかった。こちらを振り向いた時はとても綺麗だと思ったのに。

 だが今、こちらへと近づく少女は恐ろしいものでしかなかった。

「ひ、ひい!近づくな!」

 ズリズリと後退してステッキを振り回して牽制するも、少女は意に介していない。スタスタと躊躇なく近づいてくる。

「やめ、来るな……!」
「あら酷い。娘に対してあんまりではありませんか?」

 ねえお父様。

 その言葉に。
 思考が一瞬停止してしまった。恐怖を忘れる。

 何だと?今少女はなんと言ったのか?

 娘?
 お父様?

 では、では目の前の少女はまさか──

「真里亜、なのか……?」
「まあ!ふふふ……」

 恐る恐る聞いてみれば、一瞬驚愕に瞳が見開かれ。
 すぐに弾けたように少女は笑い出したのだ。おかしくて仕方ないというように。
 延々と笑い続け。

 急にピタリと止まる。

「そんなわけないでしょ」

 氷のような冷たい声。そして瞳。
 それを聞いた瞬間、見た瞬間、心臓が鷲掴みにされるような感覚に襲われた。

「──!!」
「私が真里亜?そんなわけないでしょうが。あなた先ほど見たでしょ?屋敷の中で。あの女の成れの果てを」

 その目で、確かに。
 見たのでしょう?

 少女はそう言って、またも可笑しそうにクスクスと笑うのだった。

 何を言ってるのだ、この女は。
 真里亜を?屋敷の中で?
 それは先ほど見た、化け物のことだろうか。もう一人の娘の方では無いかと思った、あの化け物のことだろうか。

「な、何言って……」
「信じたくない?でもお姉様はあなたに救いを求めてるわよ。ほら……」

 言われた瞬間、背中にズンッと重みがかかった。

「!?」

 なんだ!?
 振り返ろうとしたその耳に、声が届く。

「だずげで、おどざま……」
「ひいい!?」

 指の欠けた手が肩に回される。
 耳に生温い吐息がかかった。

 見たくない、絶対に振り返りたくない!

「た、助け……」
「助けて欲しいのはお姉様の方ですってよ」
「馬鹿な!この化け物が真里亜だって!?そんなわけあるか!」

 必死で否定する私の姿を、さも滑稽であるかのように少女は笑う。フフフと笑う。

「何がおかしい!そもそもお前は何だ!一体何者で、なぜここに居る!?ここは私の屋敷だぞ!」

 恐怖が振り切ったのか、だんだん湧き上がる苛立ち。
 背中に化け物の重みを感じながら、私は怒りをぶちまけた。

「誰か!おい!誰か居ないのか!?」

 呼べど叫べど、変わらず誰も来ない事にも怒りを感じた。
 役立たずどもめ!皆まとめてクビにしてくれる!!

 そう思った時だった。
 ガサリと音がした。

 誰か来たのか!?

 期待して音のした方を見て。
 直後に絶望へと変わる。



 
しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...