お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
44 / 64
第六話 少女と狼犬

14、※グロ注意

しおりを挟む
※グロ注意
 
 
「ぎゃあああ!やめて、やめてくれえええ!」
「ひい!お、お助けください、お助けを!」
「やめてくれ、俺には家族が!子供が……!!」
「逃げろ!化け物だ、逃げろおお!!」

 叫んで逃げ惑う使用人達。腰が抜けて泣き叫ぶ者。鋤や鍬を構えてかかってくる者。ブツブツと呟き続ける気の触れた者。
 ──無言で横たわる屍の数々。

 屋敷内は今や阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 その中を、穢れなき私が優雅に歩みを進める。

 泣き喚く者に向けて手を横に薙ぎ払った。それだけでその者の首は床へと落ちる。ゴトンという音が小気味よい。

 クワを振りかぶってきた者は嘲りの目を向けてやる。
 そして難なくクワを避けた後──その腕を掴み、引きちぎった!

 悲鳴を上げて床を転げまわる男。
 ああなんて……

「なんて脆いのかしら。まるで人形みたいね」

 人形のように簡単に手がもげてしまうなんてね。いえ、もしかしたら本当に人形なのかも?

「確かめてみましょ」

 そう言って、私は男の逆の手を掴んで──引きちぎった。
 ああ、やっぱり簡単に壊れる。

「あなた、人形でしょ?」

 確認するように、右足を引きちぎった。当然のように左足も。
 簡単にブチッブチッと切れてしまう手足。ああ、やはりこれは人形だわ。

 あれも人形。
 私はそばで床に蹲るメイドの腕も引っ張ってみた。

ブチッ

「ひぎい!」

 変な悲鳴を上げる人形ね。

「人形がそんな汚い声を出したら駄目よ」

 不快に思って、その口に手を突っ込んだ。

「あが──!?」
「人形はしゃべっちゃ駄目」

ブチイッ!!

 舌を引き抜いた。そうすると人形は悶絶しながらも黙り込んだ。そうよ、人形は話さない方がいいわ。

 静かになった人形に興味を失った私は、廊下をまた進む。

 これも人形。
 あれも人形。
 次々と現れる人形を壊し続けて、ひたすら歩いた。

 そして一階へ降りて進むうちに、ようやくその人に出会えた。探し求めたその人を、ようやく私は見つけたのだ。

「お姉様」
「ひい!!」

 真里亜が、そこに居た。数人の使用人に囲まれて、目に涙を溜めた姉が。ガタガタ震えながら、私を見ていたのだ。

 そんな顔しないでよお姉様。立った二人きりの姉妹でしょう?

 だからねえ、お姉様。

「遊びましょうよ、お姉様」
「いや!来るな!来るな化け物!!」
「──酷いわ、そんな言い方しないで」

 傷ついたわ、私とても傷ついたわ。
 ねえ怒ったのよ私。とても怒ってるのよ。

 だからお姉様、私と遊んでよ。

 姉を守ろうと飛び掛かってくる人形をまた潰す。
 血潮が飛び散る中で、姉はとても綺麗な朱に染まっていた。
 私は汚れない手を伸ばす。

ブチュッ
グチュッ

 人形が足元でどんどん潰れていく。それを気にすることなく私は歩みを進めた。

 紙のように白くなった姉の肌に、血の赤は良く似合う。

 その頬に私は手を伸ばした。

「ひ……あ……」

 そっとその頬を撫でる。
 ──とても、冷たい。
 きっとこれは姉の心の冷たさだ。冷酷な姉には体温なんてないんだ。それはまるで人形のように──

「お姉様まで人形なんて!」

 突然沸いた怒りにまかせ、私は思い切り爪を立てた!

「あひい!」

 醜い悲鳴を上げて姉が飛びのいた。

 私の爪に残る姉の皮膚。
 抉れた頬の姉。
 流れる血が、とても美しかった。

 ああ、もっと──

「もっと、その血を見せて、お姉様」

 私と同じものが流れる、その血を。

 もつれる足を必死に動かして逃げようとする姉を、私は掴まえた。その腕をガッと掴む。

「ひい!は、離して!助けて!」
「遊びましょうよ、お姉様!」

 いつもみたいに!
 私をいつもいたぶって遊んでいたじゃない!
 だから私もそうやって遊びたいのよ!
 お姉様で遊ばせてよ!

 口に手を伸ばし。

「ふひ!?」
「お姉様の歯、可愛いわね」

 ブチッ!

「ほごお!?」

 ブチッブチッ!

 気持ちいいくらいに歯が抜ける。少し力を入れただけで、姉の歯が──全て、抜けた。
 それらをしげしげと眺めて
「なんだ、大して綺麗じゃなかったわ」
 すぐに興味を失って捨てた。

 歯は綺麗じゃなかった。じゃあその舌はどうかしら?

 いつもいつも私に酷い言葉を浴びせた、その口の内部……舌は、綺麗かしら。

 ガッと口を掴んで舌を引っこ抜いた。

「あああああ!!」

 汚い悲鳴。
 手に乗せて見た舌は、先ほどの使用人と変わらなかった。ちょっと小さいくらい。

「──面白くない」

 それもベッと床に投げ捨てた。

 面白くない、面白くないわ。
 お姉様は私を虐めていつも楽しそうだったというのに。
 どうして私は楽しくないのかしら?

 床でピクピク痙攣してる姉の指を持つ。

「ひ、は……」

 まだ意識がある姉が何か言ってるけど、気にせずにその指を──折った。ペキッと。

「──────!!!!」

 全ての指を折ったら、ビクビク震えてのけぞって……姉は動かなくなった。気絶したのだろうか?

「いやだお姉様、気絶しちゃ何も見えないじゃない。見ないなら……要らないわよね?」

 要らない物は撤去するに限る。

 私はそう言って、姉の瞼をこじ開けて。
 その眼球を奪うのだった……。



しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...