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第五話 浮気男
9、
しおりを挟む「え──!?」
驚愕に目を瞠り、私は慌てて周囲を見回した。だが視界は全て闇に彩られ、右も左も何も見えない状態だ。
「な、何これ……一体どうなってるの!?」
叫んでも、答えてくれる声は無かった。
どこまでも広がる闇。私の声だけが響く、何も無い空間。
歩いて走って、けれど何処にも出なかった。闇が続くだけ……。
不安で体が震えだした、その時だった。
その二人は不意に現れた。私の眼前に。
その美しく眩しい金髪を持った少女と、金眼を持った少年。
その二人が。闇の中に現れたのだった。
少女は呆れたような顔で私を見て、パサリと肩にかかった髪を払いのけた。
「言うなって言ったのに」
「え、な、何を──」
「誰にも内緒だと言ったでしょう?」
戸惑う私に、少年はゆっくりと……噛み締めるようにその言葉を口にする。
「僕らの事は内緒。けして誰にも言ってはいけない──約束したのに、貴女は言ってしまったのですね」
これは契約。
二人は克彦の命を奪い。
私は誰にも言わない。
契約は絶対。必ず履行されなければならない。
けれど私はその契約を破ったのだ。
佳奈に言ってしまったのだ。
「じゃ、じゃあ……契約は反故になるの?克彦は……」
もしかして、生き返るの?
有り得ないけど、この二人ならどんな事でもやってのけそうで。
死人が生き返るかもしれない事に、知らずゾッとした。
だが少女は苦笑する。
「そんなわけないでしょ。契約違反には、それ相応の罰を受けて貰う事になるだけよ」
それだけ言って、少女は私に背を向けた。
「罰?罰ってそれは一体……」
なんなの?
そう問うより早く、少女の姿は闇へとかき消えた。
「え!?ちょ、ちょっと……!!」
「この空間はですね、ちょっと特殊でして」
驚く私を尻目に、少年は淡々と説明する。
「空腹にもならなければ眠気も感じない。生理現象が起こりません」
「そ、それで……?」
「それだけです」
ゴクリと唾を飲む私に、少年はあっけらかんとそう言ったのだ。
これはただの闇。
何かが出てくるでもない。何があるでもない。
何もない、ただの闇──
「貴女は永遠にここで生きてください」
「はあ!?え、永遠!?永遠って……どれくらい!?」
「永遠は永遠ですよ」
驚く私に、少年は呆れたように言ってのけた。さも当然のように。私の疑問を馬鹿にしたように。
「心配しないでも人間には寿命があります。あなたの寿命がくれば自然と死ぬことができます。ただ、それまでは──」
そこで一旦言葉を止めて。
私に背を向けて、肩越しに振り返り私の顔を見て少年は言った。
「ずっとこの闇の中です。気が狂う事も許されない。貴女は死ぬまでこの闇の中で生き続けるのです」
それが罰。
約束を破った罰なのだと。
少年は言って、徐々に姿が薄くなっていく。
それに慌てた私は、少年に駆け寄った!
「待ってよ!この闇に死ぬまで!?そんなの、そんなのって……!!」
死ぬより恐ろしいことじゃない!
そんな私に少年はただ黙って微笑み。
そして姿を消すのだった。
「待ってよ、ねえ待って!謝るから!ごめんなさい私が悪かったわ!だからお願いよ、こんな場所に一人にしないで!死ぬまでこんな所になんて嫌よ!お願い助けて、お願いよ!!」
だが少年も少女も、誰も。
闇の中に現れる事は無かった。
私は、茫然と闇の中でただ立ち尽くす。
「お願いよ……」
呟きが、闇に呑まれて消えた──
※ ※ ※
「まったく、約束も守れないなんてね」
プンプンという表現が合いそうな顔で、リアナは文句を言う。そんな彼女に黙って紅茶を出すのは執事のリュートだ。
「仕方ないですよ。ああいう人間は一定の確率で現れるものです」
怒りを抑えようと紅茶を一口飲んだリアナは、ほうと息を吐いた。
「約束は、守らないといけないのよ……」
「そうですね」
どこか悲し気な表情のリアナに。
それ以上何を言うことも無く、リュートは静かに側に佇むのだった。
~第五話 浮気男 fin.~
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