お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

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第五話 浮気男

3、

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 昨夜の一件のせいで一睡も出来なかった私は、昼頃まで布団でうだうだしていた。

 そこに1本の電話が。
 相手はまさかの克彦から。

 佳奈とラブホ一泊の後に電話してきたって事だよね。なんともふざけた奴だ。何て言ってやろうかと悩みつつ電話に出る。

『あ、早苗~?今日時間あるからさ、今からデートしない?』

 ときたもんだ。私の怒りと真逆な能天気な声に、イラっと来た。早苗ってのは私の名前ね。

 どうしたものかと悩んだが、電話で言うより直接言いたい。叶うならば1発引っぱたいてやりたい!

 そう思った私は了承の返事をして支度をするのだった。

 とは言え大したことはしない。いつもみたいにメイクを頑張ることもしなければ、服も至って平凡な格好だ。外に出て恥ずかしくない最低限のレベル。明らかに普段の気合い入ったデートスタイルとは異なっていた。

 だがそれでいい。どうせするのは別れ話だ。

 昨夜の少女の言葉がふとよぎってすぐに消える。

 いくらなんでもね……浮気されたくらいで殺すとか有り得ない。そんな事をしていては、世の中死人だらけだ。──悲しいかな、浮気をする者は男女問わず絶えることは無いのだから。

 とにかくビンタ。まずはそれだと気合いを入れて、私は部屋を出るのだった。




 待ちあわせ場所は大きなショッピングモールの中の、喫茶店。先に来ていた克彦が席から手を振っていた。

「お待たせ」
「いや。急に呼び出して悪かったな。予定が無くなってさ~」

 それはあれか。佳奈に用が出来たとかか。

 付き合って二年、毎週デートって事は無くなったが、時間が有れば会っていた。今日は友達と約束が、とか言ってたけど、友達とラブホに行くのかお前は。

 さてどう切り出したものか……悩んでいたら、克彦の携帯に着信が。

「悪い。ちょっと待ってて」

 言って克彦は席を立って外へ。

 何とはなしに私はコーヒーを頼む。克彦は昼食を食べてたようで、私のコーヒーを持ってくる際にそれらの食器は片付けられた。

 どういう風に言えばいいのかなあ……こんなとこでビンタってのもなあ……そんな事を考えていたら。

 克彦が慌てた様子で戻ってきた。

「悪い!仕事のトラブルが入った!」
「え、休みじゃないの?」
「おれの後輩が作ったソフトに不具合が出ちまったらしくてさ。客のクレーム対応しなきゃなんねーんだ!」
「……そう。仕方ないね……」
「ごめんな、埋め合わせはまたするから!」

 そう言い置いて、荷物を引っ掴んで克彦はバタバタと出て行ってしまった。

 私は拍子抜けしてコーヒーを一口。

 はたと気付く。

「え、私がお会計するの?」

 テーブルに残された克彦の伝票。
 私はそれを見て思いっきり顔をしかめてしまった。




 思えば克彦とはこういった事が多々あった。

 やれ財布を忘れただの、今月ピンチだの。

 一つ一つの金額は大したことはない。だがこの二年、克彦の代わりに様々なことでお金を出した合計金額は……ちょっとした額になっていた。

 勿論、克彦から返して貰ったことは無い。

 私も請求すればいいのだろうが、セコい女と思われるのも……

 そうしてこの二年、克彦を甘やかしすぎたツケがきたということか。

「私、都合のいい女になってる……?」
「そうね」

 ガタンッ!

 椅子が大きな音を立てて倒れた。周りの視線が集中するが、私は椅子から落ちた恥ずかしさよりも、恐怖から急いで立ち上がり。

 大急ぎで店を出た──




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