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第四話 箱庭の少年
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しおりを挟むそれはごく普通の一軒家だった。大きくも小さくも無い、少し古い感じの和風な家。だが、門扉から少し覗くと見える庭は、酷く荒れ果てていた。
人の気配は感じられない。
誰も居ないのか、それとも……。
──普通の人間なら何とも思わないただの家。
でも僕らは違う。僕らには分かるから。
家の中に、確かに何かが、誰かが居る気配を感じるから。
インターフォンを鳴らすことなく、お嬢様は門扉を開けて入って行った。僕も当然のように続く。咎める声は無い。
門扉を開けてすぐに玄関扉。うちのお屋敷とは大違いだ。──うちももう少し門扉から玄関が近ければいいのだけど。
などとどうでもいい事を考えているうちに、ガチャリとお嬢様は扉を開けて家の中へ。僕も続く。
鍵?そんな物は僕らには無意味だ。
だって僕らはここに居ないから。ここに居るけど居ないから。
そんな矛盾がある僕らは何処へでも行ける。──そして何処へも行けない。
お嬢様は靴のままズカズカと家の中に入り、グルリと全てを見て回った。やはり人は居ない。
見える範囲には居なかった。
「どこ?」
「あちらですね」
互いに無駄口はきかない。問いの意味を瞬時に理解した僕は、指で方向を示した。[それ]の気配を探る能力は、僕の方が遥かに上だから。
僕が示した方向を疑うことなく、お嬢様はスタスタと歩き。
二階の一番奥の部屋でピタリと止まった。
「ここ?」
「ええ、そこです」
そこは何も無い部屋だった。他の部屋には家具も有り、人の気配が感じられた。なのに、なぜかここだけは何もなかった。有るのは閉じられたカーテンのみ。
「変ね」
「そうですね、入り口がありませんね」
ここは恐らく気配を感じて外から見上げていた場所だ。
だが外から見た構造では、もっとこの部屋は広いはず。
なのにとても狭く、窓が一つだけであとは壁に囲まれていた。ということは──
「この先に有るわよね?」
そう言ってお嬢様はコンコンと壁を叩いた。
「有りますね」
僕は静かに頷く。
「そ。じゃあ入りましょ」
そう言ってお嬢様は壁に触れた。それだけで。
視界は一変する。
どこかに入る方法はあるのかもしれないけれど、探すのも面倒。先ほども言ったが僕らは何処へでも行けるのだ。隠し扉を探す必要は無い。
そうして。
僕らは壁の向こうへと──隠された部屋へと入るのだった。
そこは狭い空間だった。おそらくは一部屋を、先ほどの何もない部屋とこちらとで分断したのだろう。
そのお陰で狭い。窓も無く、とても暗い、何も見えない。そして酷い悪臭。
あまりお嬢様を長居させたくないな──そう思って顔をしかめた瞬間。
「誰?」
暗闇から、声がした。
僕はスッと手を出す。念じればすぐ、ボッと掌に炎が生まれた。
「ひいっ!!」
それに驚き悲鳴を上げる存在。炎が照らす先に、それは居た。
何とか逃げようとして必死に体を壁に付ける姿──恐怖に顔を歪ませるのは、紛れもなく人。少年、だった。
僕らの外見よりも幼い、小さな子供。ガリガリに痩せ細り、骨と皮だけのような──異常な容態の子供、だった。
子供の様子に目を細め、酷い悪臭に顔をしかめて僕は室内を見回した。
ハッキリ言って何も無い。いや、一枚のボロボロの毛布が見える。そして床のあちこちに転がるのは──
「お嬢様、あまり歩き回らないでください。踏んだら汚れます」
「歩き回るほどのスペース無いわよ」
「屁理屈はいいですから」
眉間に皺を寄せてお嬢様を睨むと、軽く肩をすくめた。了承ととっていいのだろうか。
「こんにちは、私はリアナ。こちらは執事のリュートよ」
このような状況でも動じることなく、お嬢様は淡々と挨拶をする。
骨と皮だけのまるで骸骨のような少年は──果たして少年なのか少女なのか判別しかねるが──、ボロボロの服をギュッと掴みながら、まだ怯えていた。
そんな少年にお嬢様はニッコリ微笑む。
そして問うた。
「あなたの望みは何?」
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