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第四話 箱庭の少年
3、
しおりを挟む望みは何か。
普通ならこの状況に関して色々質問するのだろうが、僕らには──お嬢様にはそんなもの無意味だ。聞かなくても大体の事は分かる。分かってしまう。僕たちに隠し事が出来る人間など居ないのだから。
だから全てを端折って問うたわけだが。
子供は何を言われてるのか分からず、ただただ怯えて口を閉ざした。
言葉が分からないのだろうか?
そう思ったが、最初に『誰?』と言葉を発したことを思い出す。だからある程度は会話が出来るはず。多分。
「望みは何?」
頑なに口を開かない少年に向かってお嬢様は根気よく問い続けた。
こればっかりは本人の口から言わせなければならない。でなければ契約は為されない。呪いは発動しないのだ。
ニコニコと微笑み続けるお嬢様──これはどこの美少女だ。彼女の本性を知らなければ誰もが騙されてしまう程に美しい笑みは、けれど作り物であることを僕は知っている。
だがそれに気付けない目の前の少年は、やはり騙された。ややあって、壁から体を離し、体を引きずるようにして近づいて来たのだ。
僕は万が一の為に身構える。
「望みは?」
ニッコリと微笑みながらまたも問えば。
「──ここから出たい」
ようやく少年は言葉を口にした。とてもしわがれていて、およそ子供の声では無かったけれど。力なく、か細くて聞き取りにくいが、それでもハッキリと少年は望みを口にしたのだ。
「ここから出て?それで?」
「ご飯食べたい、お風呂入りたい、お外に出たい、遊びたい、お腹空いた、気持ち悪い、しんどい、歩きたい、走りたい、食べたい、飲みたい、お空が見たい……」
堰を切ったように次から次へと紡がれる望み。それは同じことを繰り返しつつも、延々と流れ出てきた。
「どうしてそうしないの?」
「お父さんが許さないから。お母さんがここに居ろって言うから。だから、だから僕……」
少年はやはり少年だった。
きっと普通の体調ならポロポロ涙を流すのだろうが、少年の体内に余分な水分は無いのかもしれない。涙声なのに、その目からは何も流れ出る事は無い。
「お父さんとお母さんが憎い?」
その問いに、少年は迷わず頷く。
「お父さんとお母さん嫌い?」
コクンコクンと頷く。
「お父さんとお母さんに居なくなって欲しい?」
コクンッ
少年は最後に一度大きく頷いて。
そして項垂れたまま、動かなくなった。それだけで体力を使い切ってしまったかのように。
「そう」
一言呟いて、お嬢様は少年の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
目の前の少年からチロリと視線を横にして。そこに転がってる物を確認して。そしてまた少年を見る。
「だから……殺したの?」
その言葉に、ピクリと少年の肩が震えた。
顔が上がる。その目は──目だけが異様にギラギラと光っていた。
「居なくなって欲しいから、両親を殺したの?」
そう言って、お嬢様はコンッと側に転がっていたものを……恐らくは少年のどちらかの親の頭蓋骨を、軽く叩いた。
手が汚れますよ、とお嬢様に近寄ろうとした僕の足元で、カランと骨が渇いた音を立てる。
少年は目をギラギラさせたまま。
ニタリ
そんな音が聞こえそうな、不気味な笑みを浮かべるのだった──
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