お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

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第五話 浮気男

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「嘘、でしょ……?」

 放心状態で呟く私の言葉を耳にする者は居なかった。

 仕事帰りの人でごった返す繁華街は、金曜ということもあっていつも以上の賑わいを見せている。
 ガヤガヤと騒々しい人混みの中に恋人を見つけたのは、本当に偶然だった。だがその偶然に感謝し、追い掛けた私は直後絶望を味わうこととなる

 人の多さゆえ、なかなか彼に追いつけずにいたところで、急に彼が立ち止まった。

 今だ!と思って近付いた私の目に飛び込んできたのは──親友の佳奈の姿だったのだ。

 佳奈に手を振るのは、私の恋人、克彦。
 
 可愛くめかし込んだ佳奈は笑顔で克彦に近付いて、当然のように腕を組むのだった。

 二言三言会話を交わし、とある方向へと歩いて行く二人。その先にあるものを、私は知っている。

 いわゆるラブホ街、だ──

「嘘、でしょ……?」

 そして冒頭のセリフへと繋がるのだ。

 嘘だ嘘だ嘘だ。きっとその方向に用事があるだけで、別にラブホに入ると決まったわけじゃないんだ。

 じゃあどうして仲良く腕を組んでるんだ?
 今夜は忙しくて会えないって言われてなかったっけ?

 怪しい点はてんこもりだというのに、私は一縷の望みをかけて、二人の後をこっそりつけて行った。

 もしこれでホテルに入らなかったら……その時は、何食わぬ顔で偶然を装って二人の前に──

 などという私の計画は脆くも崩れ去った。仲良くラブホに入っていく二人の後姿を見て。

「真っ黒かあ……」

 まさか克彦が浮気するとは思わなかった。
 まさか親友の佳奈と浮気するとは思わなかった。

 二重の裏切りに、さすがにショックがでかい。

 繁華街から離れ、静かな住宅街をトボトボとあてもなく歩いていた私は、偶然見つけた公園へと立ち寄った。何となしにブランコに腰掛け項垂れる。

 これから一体どうすべきか。

 決まってる。
 克彦とは別れる。佳奈とは絶縁する。

 そう、決まってるはずなのに。

 涙が出るのは悲しいからか悔しいからか。

「結婚の話まで出てたのに……」

 そうなのだ。ここ最近、克彦は『俺達そろそろじゃないかな?』なんてことをよく言うようになったのだ。

 それが嬉しくて佳奈に報告したら『良かったじゃない、おめでとー!』なんて言って喜んでくれてたというのに……。

 その裏で、二人して私のことを笑っていたのだろうか。馬鹿にしていたのだろうか。

 ……考えてたらだんだん腹が立ってきた。

 私は勢いよく立ち上がった。ブランコがガシャンと音を立てる。

「も、絶っっっ対!許さない!!」
「じゃあ殺しちゃう?」
「そう、ころ……殺すう!?」

 物騒な言葉にギョッとなって周囲を見回した。キョロキョロ見回すも人影はない。

 ふと、視界の隅に映るのは……キイキイと音を立てて揺れるブランコ。私が座ってたのは先ほど立ち上がった勢いで、まだ少し揺れている。

 だがその隣は。

 誰も居ないのに。
 風も無いのに。

 なぜか勢いよく揺れていたのだ!

「ひ……!な、なんで!?」

 まるでよくある投稿心霊映像のような状況に、腰を抜かしかけたその時。

「こんばんは」
「ひゃああああ!?」

 今度は耳元で声がして、いよいよ私は本気で腰を抜かすのだった。



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