お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
22 / 64
第五話 浮気男

1、

しおりを挟む
 
 
「嘘、でしょ……?」

 放心状態で呟く私の言葉を耳にする者は居なかった。

 仕事帰りの人でごった返す繁華街は、金曜ということもあっていつも以上の賑わいを見せている。
 ガヤガヤと騒々しい人混みの中に恋人を見つけたのは、本当に偶然だった。だがその偶然に感謝し、追い掛けた私は直後絶望を味わうこととなる

 人の多さゆえ、なかなか彼に追いつけずにいたところで、急に彼が立ち止まった。

 今だ!と思って近付いた私の目に飛び込んできたのは──親友の佳奈の姿だったのだ。

 佳奈に手を振るのは、私の恋人、克彦。
 
 可愛くめかし込んだ佳奈は笑顔で克彦に近付いて、当然のように腕を組むのだった。

 二言三言会話を交わし、とある方向へと歩いて行く二人。その先にあるものを、私は知っている。

 いわゆるラブホ街、だ──

「嘘、でしょ……?」

 そして冒頭のセリフへと繋がるのだ。

 嘘だ嘘だ嘘だ。きっとその方向に用事があるだけで、別にラブホに入ると決まったわけじゃないんだ。

 じゃあどうして仲良く腕を組んでるんだ?
 今夜は忙しくて会えないって言われてなかったっけ?

 怪しい点はてんこもりだというのに、私は一縷の望みをかけて、二人の後をこっそりつけて行った。

 もしこれでホテルに入らなかったら……その時は、何食わぬ顔で偶然を装って二人の前に──

 などという私の計画は脆くも崩れ去った。仲良くラブホに入っていく二人の後姿を見て。

「真っ黒かあ……」

 まさか克彦が浮気するとは思わなかった。
 まさか親友の佳奈と浮気するとは思わなかった。

 二重の裏切りに、さすがにショックがでかい。

 繁華街から離れ、静かな住宅街をトボトボとあてもなく歩いていた私は、偶然見つけた公園へと立ち寄った。何となしにブランコに腰掛け項垂れる。

 これから一体どうすべきか。

 決まってる。
 克彦とは別れる。佳奈とは絶縁する。

 そう、決まってるはずなのに。

 涙が出るのは悲しいからか悔しいからか。

「結婚の話まで出てたのに……」

 そうなのだ。ここ最近、克彦は『俺達そろそろじゃないかな?』なんてことをよく言うようになったのだ。

 それが嬉しくて佳奈に報告したら『良かったじゃない、おめでとー!』なんて言って喜んでくれてたというのに……。

 その裏で、二人して私のことを笑っていたのだろうか。馬鹿にしていたのだろうか。

 ……考えてたらだんだん腹が立ってきた。

 私は勢いよく立ち上がった。ブランコがガシャンと音を立てる。

「も、絶っっっ対!許さない!!」
「じゃあ殺しちゃう?」
「そう、ころ……殺すう!?」

 物騒な言葉にギョッとなって周囲を見回した。キョロキョロ見回すも人影はない。

 ふと、視界の隅に映るのは……キイキイと音を立てて揺れるブランコ。私が座ってたのは先ほど立ち上がった勢いで、まだ少し揺れている。

 だがその隣は。

 誰も居ないのに。
 風も無いのに。

 なぜか勢いよく揺れていたのだ!

「ひ……!な、なんで!?」

 まるでよくある投稿心霊映像のような状況に、腰を抜かしかけたその時。

「こんばんは」
「ひゃああああ!?」

 今度は耳元で声がして、いよいよ私は本気で腰を抜かすのだった。



しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...