お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
14 / 64
第三話 女子高生とクラスメート

11、

しおりを挟む
 
 
「とんだ下衆が居たものだわ」
「な……」

 下衆ですって!?

 ふざけんなと少女を殴ろうとしたところで、また少年が前に出た。今度は私の手を掴む。

「は、放しなさいよ!」
「リュート、そのまま」

 手を放せと力を入れるものの、なぜか少年の手はビクともしなかった。むしろ、より一層力が込められて……

「い、痛い!放して、放してよ!」

 ギリギリと締め付けられるような痛みに悲鳴を上げるも、けれど力が緩められる事はなかった。次第に指先が紫に変色してくる。

「あなたには同情の余地はない」

 コツコツと足音が響く。

「あなたのような下衆は生きる価値はない」

 足音が止まり、少女は私の横に立つ。

「この……!」

 掴まれてるのと反対の手を向けるも、それもまた少年にいとも容易く掴まれてしまった。

 両手が完全に封じられて、私に出来るのは睨む事だけ。

「あなたには」

 ゾッとするような冷たい響きの声が、聞こえた。
 バッと目を向ければ。

 空のように青い瞳は──今や氷のような冷たさをたたえている。

「あなたには……死こそが相応しい」

 それが始まりだった。
 いや、終わりなのかもしれない。

 ボッと音がした。

「な、なに……!?」

 音のした方を見ようとしたが、両手を封じられたままで思うように視線を向けられない。

 必死に目を動かす……すると、視界の片隅で赤い色が見えた。

 血ではない。
 これは、この色は……

「あなたは火遊びもお好きなようだから。私がお手伝いしてあげるわね」

 そう言って、クスクスと少女は笑う。
 不意に両手が解放されて、勢いでつんのめり、床に転がった。直後、私の目に映ったのは。

 ゴオオオオ……

 もの凄い勢いで燃え広がる炎、だった。
 カーテンから始まったその炎は、一気に周囲を食い尽くす!

「きゃあああ!?熱い、あっつい……何よこれ、どうして火が……」

 飛んでくる火の粉から守るように手を顔の前に持って来るも、あまりの勢いに何ら意味を成さなかった。

「あっははは!綺麗ね、リュート、とても綺麗だわ!!」
「ええお嬢様、炎はお嬢様の金髪によく映えます」
「あらリュート、それを言うならあなたの金の瞳に映る炎もまた美しいわ」
「恐縮です」
「ふふふ」

 熱い熱い熱い!炎がどんどん迫って来る!
 なのにどうして二人は平気なの!?どうして炎はまるで二人を避けるかのように燃えてるの!

 どうして私にだけ炎が向かってくるの!?

「いやあ!」

 いよいよ炎が私の全身に襲い掛かろうとしたその瞬間!
 私はたまらず廊下へと飛び出した!

 のだが。

 ドンッと何かにぶつかり、私はまたも床に倒れ込んだ。

 何!?なんなのよ!
 ぶつかった物に苛立ちを感じて睨んだ瞬間。
 私は全てを後悔した。

「あはあ!出てきたあ!!」

 それは明美だった。
 乾いてこびりついた血をそのままに、嬉しそうに大鎌を握る明美。

「ひい!」

 倒れた私は結局炎が舞い上がる教室に戻った状態。
 廊下に逃げるには大鎌持った明美を退かさなければいけない。

 前に明美。後ろに炎。
 どうすればどうすればどうすれば……!?

「た、助け……」

 最後の頼みと振り返った先。視線の先には、まるでそこだけ別世界のような二人が、炎の中で悠然と立っていた。
 炎はやはり二人を避けている。

「助けて……」
「どうして?」

 助けを請う私の言葉を、けれど少女は首を傾げて拒絶する。

「遊びなのでしょう?全て、遊び。明美さんは遊んでるのよ。あなたが彼女にした事も遊びだったのだから。助ける必要がどこにあるの?」
「そ、そんな……!」
「自分の犯した罪を後悔しなさい」

 後悔して。
 そして。

「「死ね」」

 言葉がハモった。
 誰と誰が?

 考えずとも分かる。

 視線の先の少女と。

 そして背後の──

 後ろに視線を戻した私が目にしたもの。

 それは至福の笑みを浮かべる明美が、大鎌を振り下ろす様だった──




しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...