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第三話 女子高生とクラスメート
9、
しおりを挟む「はあ、はあ、はあ……!!」
どれだけ走ったのか分からない。息も切れて苦しくなってきた頃。
もう限界と足を止めて振り返る。
そこには誰も居なかった。
誰も、居ない。
前を見た。続く廊下に教室。
やはり誰も居ない。
誰も、居ない──?
どうしてだろう、これ程の騒ぎになってるってのに、どうして誰も居ないのだろう。
そしてここは一体どこだろう。
我に返って見て見れば、そこは見知ってるようで知らない場所だった。
教室の入り口に掲げられたプレートにはクラスが書かれている。それは確かに私が在籍する教室の近くだった。
「嘘!どうして!?」
私はかなり走ったというのに!階段を下りてひた走ったというのに!
そうだ、下りたのだ。
上がった覚えはない。
私は三階の教室から階段で下りた、確かに下りた!だというのに!
「どうして……三階のままなの?」
窓の外を見れば、確かにここは三階だった。
眼下に広がるのはグラウンド。
けれど、そこにもやはり誰も居なかった。教師も生徒も。
「そ、そうだ、先生──!」
パニックになって階段を下りたつもりになってたのかもしれない。
そう思って、私は目の前の階段を駆け下りた。職員室を目指して。
下りて下りて下りて──そして異常に気付く。
「──どうして!?どうして一階に着かないのよ!!」
下りた先の表示を見る。
3F
三階だ。
ならばと上がって、そして階数表示を見る。
3F
三階のまま!!
どうしてどうしてどうして!?
パニックになってキョロキョロ周囲を見回していた、その瞬間──
ズズズ……ズズズ……
奇妙な音にビクッと体が震えた。
それは背後から迫る音。
ズズ、ズズズ……
不気味な、何かを引きずる音。
ガチガチと歯が鳴るのを止められない。
私は生まれて初めて、真の恐怖に直面していたのだ。
恐い恐い怖い──けれど振り返らないわけにはいかない。
恐いから。怖すぎるから。だから振り返らざるを得ないのだ。
そうっと眼球を限界まで後ろに向けて。ゆっくりと首を動かす。
ゆっくりなのがじれったいのに、けれどバッと素早く振り向く事も出来ず。
その間にもズズズという音はますます近づいて……不意にピタリと止んだ。それはまだかなり後方。
離れた距離で止まった事に安堵を覚えながら、私はついに勇気を振り絞って後ろを見た!
視界は
赤い
「つぅ~かま~えた~~~~」
「──────!!!!!!」
!?!?!?!?!?!?
音は離れていたというのに!なのに!
私の背中に張り付くように佇むのは。
私の肩越しに私を覗き込むのは。
顔を真っ赤に染めた……誰のものかも分からぬ血で染まった顔で、ニタリと笑って言うのは。
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「あはあ~いい声だねえ~袴田さ~ん」
明美
だった。
腰が抜けてその場にへたり込む私を見下ろしながら、ニタニタと不気味に笑い続ける明美。
その右手にはベットリと血が付いた大鎌。
そして左手には。
「酷いなあ袴田さん。お友達を放って逃げちゃ駄目でしょ?ほら。大切なお友達だよ」
スッと差し出されるは、先ほど教室で蹴って見捨てたあの子の──首。
その光景に目の前が真っ暗になりかけた。いや、真っ赤、だろうか。
私はパニックになって、自分の頭を抱えて叫んだ。
「いやあああ!いや、いやあ!!」
「あらら~袴田さんったら、お漏らししちゃって~。高校生にもなってお漏らしなんて恥ずかし~」
「来るな、来るなああ!!」
「え~酷いなあ、いつも私は来ないでって言ってるのに。ちょっかい出してくるのは袴田さんの方でしょ?」
それは酷いよお。
そう言ってニタニタニタニタ。
気味の悪い笑みを絶やすことなく、明美は一歩近づいてきた。
私はへたり込みながら、お尻を引きずってどうにか後ろに下がる。
明美が一歩。私も後ろへ。
それを何度か繰り返した後、絶望が私を支配した。
背中が。
壁にぶち当たったのだ。
「ひ──!!」
明美は相も変わらず不気味な笑みを浮かべていた。
「逃げるなんて許さないよ。いつも私を虐めて遊んでるんだからさ。たまには……」
私にも遊ばせて?
明美はそうい言い放ち、おもむろに大鎌を振り上げたのだ!
それが振り下ろされた瞬間、私の命は消える。理解は出来ても体は動いてはくれなかった。動かす事が出来なかった。
誰か誰か誰か──!!
私は必死に祈る。生まれて初めて神に祈った。
誰か!助けて!!
その瞬間。
祈りが神に届いたのか。
不意に背後で扉が開く音がしたのだ。
ガラリ
壁だと思っていたのはどうやら教室の扉だったようで、背中をグイグイ押し付けていた私は突然支えを失って後ろに倒れ込んだ。
その直後。
ガッと大鎌が嫌な音を立てて地面に突き刺さった!──それは私がつい今しがたまで居た場所!!
「ひい!!」
「あら~はずしたか~」
呑気な声で再度大鎌を振り上げる明美を見つめる私に、その声は届いた。
「こちらへ」
誰!?
誰なの!?
分からなかった。
だがその声は発せられると同時に私の体はグイと引っ張られ。
バンッと扉が閉まるのと、明美が大鎌を振り下ろすのは同時だった。
ガンッと大きな音を立てて大鎌は扉に当たる。だが扉はビクともせずに明美を完全に締め出すのだった。
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