お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

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第一話 お嬢様と少年執事

お嬢様と少年執事

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 もう嫌だ!
 どうしてお父さんとお母さんは差別するの!?

 お姉ちゃんは確かに勉強も運動も出来て優秀だけど!
 でも私だってお父さんとお母さんの子供なのに!

 お姉ちゃんは何でも望みを叶えて貰った。

 私は何も叶った事がない。

 今日は私の誕生日だ。なのにお父さんとお母さんは、お姉ちゃんだけを連れて外食しに行った。

 私は……何もない。
 家の物を勝手に食べれば、お母さんに殴られるから。

 私は空腹のお腹をさすりながら、こっそり持ち帰った給食のパンを食べるのだった。──今は夏休みで、これはもうとっくにカビが生えてしまったけれど。それでも食べざるを得ない。

 毎日毎日、私はお父さんに怒鳴られ、お母さんにこき使われ、お姉ちゃんに馬鹿にされ。

 そして三人ともに暴力を振るわれていた。

 昨日、お姉ちゃんが帰宅するなり、ムカついた事があったと私を殴った。私はお姉ちゃんの気が済むまで殴られてなければならない。抵抗すれば、お父さんやお母さんにも殴られるから。

 でも結局、仕事で嫌な事があったというお父さんにも殴られたけど。

 ズキズキと痛む体。

 パンを食べ終わってもまだなお鳴るお腹に溜め息をついた時だった。

 不意に、玄関チャイムが鳴ったのだ。

 時間は20時。来客があるには少し遅い。宅配便か何かだろうか?
 勝手に出ては怒られるので、私は無視をすることにした。

 だが、一向にチャイムの音は鳴りやまない。

 仕方なしに、私は動きにくい体を引きずって玄関へと向かった。

 未だに鳴り続けるチャイム。
 玄関扉の向こうに人影が見えた。

「ど、どなたですか……?」

 か細い声でそう言った瞬間。
 ピタッとチャイムは鳴りやんで。

 直後、有り得ない事が起きた。

 カチャリと音を立てて、扉が開いたのだ。

「え、なんで……」

 両親は、自分が勝手に外に出れないように必ず鍵をかける。それも小学生の自分では届かないような高い場所にまである。

 なのに、なぜか扉は開き。

 キイイ……と、音を立てて開いた向こう。
 そこに立ってる人物を見て、私は息が止まりそうになった。

「こんばんは」

 それはまるでお人形。
 キラキラ綺麗な金髪に、空のような青い瞳。
 真っ白な肌に形の良い赤い唇。

 どれも本当にお人形のように整った美少女。

 私と同じくらいの彼女は、フワフワのスカートを優雅につまんでお辞儀したのだ。

「貴女を助けに来たわ」




「どうぞ、温まりますよ」

 二人は当然のように私の部屋に入った。
 そう、二人。

 お人形のような少女の後ろには、これまた子供──男の子。漫画で見た執事みたいな姿をした子。

 その子はどこからともなくカップを取り出し、どういうわけか、湯気の立つお茶をカップに注いだのだ。

「ま、魔法……?」

 この二人は魔法使いなのかもしれない。それならこの不思議な事態も理解できるというものだ。

 私の驚きに、少女も少年も優雅に微笑むだけ。

「ケーキもありますよ」

 そう言って、少年執事はお皿に乗ったショートケーキを差し出した。

 一瞬迷ったけれど。

「どうぞ」

 少女の促しと同時に、私はそれに貪りついた!
 行儀悪いとかそんな思いは浮かばない。

 初めて食べたケーキはとても甘くて……本当に美味しくて。

 食べながら、私は涙を流したんだ。




「両親と姉が憎い?」

 食べ終わって口を拭いたところで、少女が問うた。

 私は何も考えずに頷いた。

「そう」
「お父さんもお母さんもお姉ちゃんも大嫌い」

 きっとあの三人も私が嫌いだ。

 今のままではいつか殺される。
 おそらく、夏休みが明ければ学校にも行かせてもらえないだろう。だって体中痣だらけだ。

 景気が悪くなってきて、お父さんは仕事が厳しいらしい。お母さんはパート先の会社がつぶれた。
 ピリピリしてる両親のせいで、姉も何だか不機嫌だ。

 毎日毎日。
 殴られ続ける日々。

「私、きっともうすぐ殺される……」

 祖父母はもう亡くなって居ない。助けてくれる存在は居ない。

 私が死んだら家族は泣いてくれるだろうか。

 ──いや、きっと笑うんじゃなかろうか。そう、思える。

「三人が居なくなればいいのにって思う?」
「────うん……」

 それは素直な気持ちだった。

 あの人たちに期待する時は既に終わった。もうあの人たちへの情は無い。

「死んで、欲しい……」

 そうしなければ私が死ぬ。

「そう」

 簡潔に答えて、少女は立ち上がった。

「では殺してあげましょう」
「え!?」

 あまりに簡単に言うのでびっくりして私も立ち上がる。

 殺すって……そんなことしたらお巡りさんに捕まっちゃう!

 私の考えてる事が分かったのだろう。
 少女はニッコリと微笑んだ。

「大丈夫よ。貴女には何ら咎は行かないから。というか、誰も殺人だなんて思わないから。安心して眠りなさい」

 その言葉を最後に、私の視界は暗転した。




※ ※ ※




「んもう!どうしていつものお店じゃないの!?」
「そうは言ってもねえ、いつものお店はちょっとお高いから……」
「給料前だからね、我慢しておくれ」

 ち!稼ぎが減るだなんて両親も使えないわね!このままいけば私の一流高校進学も危ないんじゃないの?

 ああ腹が立つ!

 そんな時はどうするか。
 決まってる、『あいつ』を殴るに限るんだ。

「なんかムカつくからあいつを殴ってこよーっと」

 わざわざ言ってみるが、両親も笑って頷いた。きっと自分たちもやるつもりなんだろう。

 フンフン♪と鼻歌を歌いながら階段を上る。
 あいつの部屋をバンッと乱暴に開く。

 いつもならビクッと怯えた顔でこちらを見るのだが。

 だが今夜は違った。

 なぜか妹は部屋の電気もつけずに、真ん中で突っ立ってるのだ。

「うわ、ビックリした!何やってんのよあんた、キモイわね!」

 そう言って、私は壁のスイッチに手を伸ばす。

 カチッ

「──あれ?」

 だが明かりはつかなかった。

「何よこれ、切れてるの?」

 そんな事にお金をかけれないと親が照明器具を取ったのだろうか?首を傾げながら廊下に顔を向けたその瞬間!

「ぐえ!?」

 ガッと首に手が伸びて、凄い力で締め付けられた!

「な、なに……」

 必死に目を向けると。

「ひ──!!」

 私を締め付ける腕。
 その先には──妹。

 目が真っ赤に染まり、耳まで口が裂けてニヤリと笑う。

 だが確かに妹だった。

 妹が容赦なく私の首を締め上げる。それはおよそ小学生の力では無かった。

「や、やめ……」

 必死でもがき、その腕を引っ掻く!だがどれだけやってもその力は緩むことはなく、視界が真っ赤に染まり出した。
 失禁する。
 体がガクガク震える。
 それでも締め上げる力は消えることはなく。

 私の視界が真っ暗になる直前。

 階下から、両親の悲鳴が聞こえた気がした──




※ ※ ※




「先生、行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい!みんな道に気を付けてねー!」

 紅葉が視界を染める季節。
 私と同じ施設に入ってる小学生は、みんな元気に学校へと向かった。

 あの日──両親と姉は、首を吊って死んでるのを発見された。父が会社に来ず、連絡もとれない事を不審に思った会社の人が警察に連絡したのだ。

 生き残ったのは、部屋で死にそうなくらい衰弱した私だけ。

 私は虐待の事実が公になって、同情された。
 両親と姉の自殺理由は不明だが、生活苦ではないかと噂されて終わった。

 私は身寄りの無い子が集まる施設に入った。
 最初は不安だったけれど、とても優しい先生に、同じく家族から受けた傷を持った子供たちと一緒に居る事で、私の心は徐々に癒されていった。

 あの夜、出会ったあの少女と少年。

 あの二人は一体何なのだろう。
 私には分からないし知る術もない。

 でもハッキリと分かる事がある。

 彼女たちが私を救ってくれたのだと。

 彼女たちのおかげで今の幸せがあるのだと。

 満面の笑みを浮かべながら、私は学校へと向かうのだった──。




※ ※ ※




「三人か」
「そ。まずまずの下衆でしょ?」
「小物と言えばそれまでだが、まあ無いよりはマシだろう」
「厳しいわねえ」
「そんなものだ」

 ニヤリと笑う黒装束の男。

 それを見てため息をつくのは、人形のような金髪碧眼の美少女。そして無表情の執事服を着た少年。

「呪いの力は順調か?」
「まだ慣れないけど、ま、なんとかね」
「結構。この調子で贄を捧げるように」
「そしたら望み、叶えてくれるのよね?」
「二言はないさ」
「二言はない、ねえ……どれくらい贄を捧げればいいのかの説明もしてくれないのに」
「小物ばかりだからな。どれくらいとは言い切れんさ」
「これで小物とか。貴方にとっての大物ってどんなのよ」
「聞きたいか?」
「結構よ」

 不貞腐れたような少女の様にクククッと男は笑って。

 そして去る。
 かき消えるように。
 霧のように。

 それを少女はとある場所に置かれたソファに座りながら、驚く事もなく見つめるのだった。

 そして後ろを振り返る。

「さてと」
「はい、お嬢様」
「次は見つかった?」
「はい、お嬢様」

 問う少女に。
 頷く少年。

 それを見て、少女は無邪気な笑みを浮かべ……立ち上がるのだった。




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