お嬢様と少年執事は死を招く

リオール

文字の大きさ
上 下
10 / 64
第三話 女子高生とクラスメート

7、

しおりを挟む
 
 
「あらあら、随分楽しそうな事をしてるのね」
「お嬢様ご自身は全然楽しそうに見えませんが」
「当然よ、楽しくないもの」

 少し右後方で恭しく頭を垂れるリュートをギロリと睨みつけて、リアナは吐き捨てるように言った。
 反吐が出る。そんな汚い言葉が出そうになるのをグッとこらえ、眉間に皺が寄る。

 突如空間が裂け、廊下に現れた二人。
 その目には、泣きながら走り去る明美がうつっていた。
 二人はその背中を黙って見送る。声をかける必要は無い。これからする事に、彼女は必要ない。寧ろ居ない方が良い。

「さてと」

 明美の姿が完全に見えなくなったところで、リアナは呟く。
 バサッと無造作に、肩にかかった金の髪を払いのけ。リアナは目の前の教室に目を向けるのだった。

 スッと右手を上げて教室を指さす。

「始めましょうか」

 それが合図。
 全てが始まる合図。

 その直後、どこからともなく黒い靄が現れて。

 教室を包み込むのだった。





※ ※ ※





 私──袴田結衣は、明美が教室を飛び出すのを見て、クスクスと漏れる笑いをこらえる事が出来なかった。

 あの馬鹿女、性懲りもなく学校に来るんだもの。まあおかげで、椅子に施した仕掛けが無駄にならなかったのだけど。

 あれは何とも虐めがいがあると思う。どれだけやっても、懲りずに学校に来る。

 いい、オモチャだわ……。

 虐めるのに理由なんて無かった。何となく、気に入らない。それだけ。
 明美が完全に学校に来なくなれば、また他の獲物を見つけるだけ。全ては私の退屈しのぎだった。

 でもみんなだって楽しそうに笑いながらやってるからいいじゃない。みんなを楽しませてる私って、なんて素敵なのかしら?

 ウットリという形容が合うような笑みを浮かべながら、私は次の計画を練るのだった。

 さあ、次は何をしてやろう?
 あいつはこのまま学校に言わないだろうから──それは確信──もっと過激にしても良いかもしれない。

 そろそろ自殺でもするんじゃないかと思ってたけど、どうやらまだ粘るようだし……。
 まだ遊べそうだ。

(そうだ、スカートに火でもつけてやろうかしら?)

 少しくらい火傷させてもいいかもしれない。
 顔は流石に目立つので発覚の危険があるけれど、足くらい構わないだろう。もし学校や親に話したとしても──クラス全員であいつがタバコを吸ってたとか何とか言って、自分でスカートを燃やして火傷したんだと言えばいい。

 あいつ一人の証言より、クラス全員の証言の方が強い。
 所詮学校は──大人は、馬鹿ばかりだから。

 そうだ、そうしよう。

 私は新たに思いついた案に満足して。
 出て行った明美にもう関心の無くなった教師が始める授業に、意識を向けるのだった。




 突如静寂が破られる。
 ガラッと扉が開く音がしたけれど、どうせ明美が戻ってきたのだろうと誰も気にも留めなかった。

 だが。
 状況は直ぐに変わる。

 最初に異変に気付いたのは、教室後方に座る男子生徒だった。

「ひい!?」

 ガタンと椅子が倒れる音と共に、響く悲鳴。
 何事かとクラス全員の視線が向いた。

 その瞬間。

「うわ!?」
「きゃあ!?」

 あちこちから悲鳴が響きわたった。

(何?)

 私は怪訝な顔でそちらを見て。

 教室後方の存在に目を見開くのだった。

「あ、明美……!?」

 そう、先ほど出て行ったはずの明美がそこに立って居たのだ。

 なぜかその全身は黒い服で覆われて。まるで死神のようで……。

 右手には。

 死神が持つような、大鎌が握られていたのだった──




しおりを挟む
『第4回ホラー・ミステリー小説大賞』に参加しております。気に入っていただけましたら投票いただけると幸いです。宜しくお願いします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲

幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。 様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。 主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。 サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。 彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。 現在は、三人で仕事を引き受けている。 果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか? 「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

SP警護と強気な華【完】

氷萌
ミステリー
『遺産10億の相続は  20歳の成人を迎えた孫娘”冬月カトレア”へ譲り渡す』 祖父の遺した遺書が波乱を呼び 美しい媛は欲に塗れた大人達から 大金を賭けて命を狙われる――― 彼女を護るは たった1人のボディガード 金持ち強気な美人媛 冬月カトレア(20)-Katorea Fuyuduki- ××× 性悪専属護衛SP 柊ナツメ(27)-Nathume Hiragi- 過去と現在 複雑に絡み合う人間関係 金か仕事か それとも愛か――― ***注意事項*** 警察SPが民間人の護衛をする事は 基本的にはあり得ません。 ですがストーリー上、必要とする為 別物として捉えて頂ければ幸いです。 様々な意見はあるとは思いますが 今後の展開で明らかになりますので お付き合いの程、宜しくお願い致します。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...