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第三話 女子高生とクラスメート
6、
しおりを挟むどうやって帰ったのか覚えてない。ただ、気付けば自室のベッドに横たわっていた。目覚ましの音で目覚めた時、見れば服はそのままだった。
昨夜の出来事は本当にあったのだろうか……。
夢だったのかもしれない。そう思いそうになるくらい、現実味がない。
だが不意に、蘇る言葉に一気に目が覚めた。
(貴女の恨み、しかと復讐してあげる。でもその代わり──)
青い目の少女の声が耳元でした気がした。それくらい生々しい言葉の記憶。
バッと起き上がって周囲を見るも、見慣れた部屋には誰も居なかった。
あれは夢では無かったのだ。そう思い深々と息を吐き。
私は壁にかけられた制服に手を伸ばすのだった。
今日は平日。学校があるから──
「あら、おはよう。……顔色悪いけど、大丈夫?」
階下に降りれば、もうスーツを着た母と出くわした。正社員で働く母の出勤は早い。
「おはよう。大丈夫だよ。ちょっと寝不足なだけ」
「そう?──ねえ明美」
いつもの出勤時間となった。直ぐに出ると思った母は、けれど一旦私を振り返って声をかけてきた。少し心配そうに。
「この前は青あざ作って帰って来たし、最近顔色悪いいこと多いし……あなた本当に大丈夫なの?」
その言葉にギクリとなる。
母は気付いていない。だが、気付きそうになってる事に焦りを感じた。
私の為に頑張ってくれてる母に、学校での虐めについて言えるわけがなかった。
言えばきっと学校には行かなくていいと言ってくれるだろう。
だが苦労して入ったそれなりの名門校。出ればそこそこ良い所へ就職も出来るだろう。うちの経済状況では大学や専門学校に行く余裕は無い事は明白だ。だからこそ、良い高校を出て就職へ繋げねばならないのだ。
学校を休むのも辞めるのも嫌だった。それくらいなら死んだ方が良いと思い詰めた結果の行動が昨夜だ。
「大丈夫だよ」
だから私に出来るのは、ニッコリと微笑んで母を安心させる事だけだった。
「そう?ならいいのだけど……」
そう言って、母は出勤していった。
どんなに忙しくても、母は私の身を案じてくれる。その事だけが私の救いだった。
それでも、私が死ねばきっと楽になるだろう。
そこまで思い詰めてしまった私の昨夜の行動は、きっと間違ってるのだろう。母を苦しめるだけの身勝手な行動。残される母の気持ちを何も考えてない。
そうだ、私は身勝手なんだ。
ならば。
身勝手ついでに私を虐めた連中へ復讐してもいいのではないだろうか?
なぜか急にムクムクと目覚めだした感情を。
私は不思議に思う事無く受け入れるのだった。
※ ※ ※
「あっれ~?性懲りも無くまた来たの~?」
学校に着いて靴箱に向かった私は、早速聞きたくも無い声を耳にした。
振り返れば、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる女子三人。その中央に立つ子がスタスタと近付いてきた。私は動けない。
グイと襟を引っ張られ、思わず「ぐ……!」と声が漏れるも、相手は気にする風も無かった。
私の耳元に唇を寄せて彼女は囁く。
「もうあんたの居場所なんて無いんだからさあ。来んなよ」
そしてパッと体を離して、またニコリと笑まれた。
「だから早く帰れ。いや、いっそ死ねよ」
去り際に肩を思い切り掴んで、彼女を含めた三人はクスクス笑いながら去って行った。
私はジンジン痛む肩を撫でてから。
持っていた紙袋から上履きを出して──靴箱に入れておけば捨てられてしまうから──履くのだった。
「負けない……」
ポツリと呟かれた言葉は、誰にも届かない。
チャイムが鳴り、皆が席に着く中で。
私はいつもの自分の机の前で途方に暮れていた。
入って来た先生が訝し気に私を見た。
「どうした山岸。なぜ座らない」
「え、えっと……」
座りたいけど座れない。
なぜなら椅子が無いから。
教室に入って直ぐに気付いた。クラスメートのニヤニヤ笑う顔に、クスクス笑いながら交わされる会話。その視線の先には。
私の机があった。汚い落書きがなされ、中にはゴミが突っ込まれてる、いつも通りの私の机。
だがいつもと違う光景が一つ。
そこに椅子が無かったのだ。座るべきそれが。無い。
こんなベタなことするんだなあ。
どこか他人事のように思ってるうちにチャイムが鳴って先生が入ってきたのだ。
どうしたものかと思ってると眉根を寄せる先生。
「早く座りなさい」
「椅子が無いので……」
この先生は、私の敵ではない。だが味方でもない。生徒に関心のないタイプの先生だ。
正直に椅子が無いと言えば、ますます眉間の皺が増えた。
「何を言ってるんだ!なぜ椅子がない!?」
そんなの私が聞きたい。どこへやったのかと。だがどうせ答えはないし、どうしようもない。空き教室から取って来る時間も無かったのだ。
ハ~ッと大きく溜め息をつく先生。仕方ないので椅子を取ってこようとしたら。
「椅子、ここにありまーす!」
と、男子生徒がヘラヘラ笑いながら指さす先には。
その生徒の後ろに何故かある椅子。
「なんだ有るじゃないか!ふざけてないで早く座りなさい!」
そう怒鳴られて仕方なしにその椅子を取りに行って。
椅子を見て、愕然とした。
座るべき場所に、ビッシリと画鋲が貼られていたのだ。
なんて手の込んだ嫌がらせを……!
「何してる、早く座りなさい!」
イライラが頂点に達したかのように、青筋立てる先生を見て。私はどう説明したものかと思い悩んだ。
「ほら、山岸さん、早く座りなよ~!」
「あたしが椅子持ってってあげるから」
「ほらほら」
これは先ほど靴箱で会った女子三人。
やめてと言う間もなく腕を引かれ、椅子を運ばれ。
「ほら!」
「ぎゃ!!」
ドンと押されて椅子に押さえ込まれる。
激痛が走る──!!
あまりの痛みに飛びあがった私は。
鞄を引ったくって教室を飛び出すのだった!
背中に怒鳴る先生の声と。
上がるクラスメートの嘲笑。
痛むお尻。
溢れる涙。
(許せない許せない許せない!)
泣きながら心が叫ぶ。
(みんな、みんな……死んでしまえ!!!!)
私は全てを呪いながら、ただ走るのだった──。
その直後。
ピシリと空間にヒビが入るのを。
私は見ることはなかった。
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