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第三話 女子高生とクラスメート
5、
しおりを挟むまずそこからですか──!
と思わなくもないが、そう言えば名乗る事もなく、ただ紅茶を頂いていたなと自身の無礼を思い出し、まずは詫びた。
そして名乗る。
「私は山岸明美といいます。高校一年生です」
「そう。私はリアナ。こちらは執事のリュートよ」
屋敷に入った直後に二人の名前は聞いていたが、改めて紹介されて頷く。当然そうだろうとは思っていたが、やはりそうなのだろう。二人は日本人ではない。
となると、この屋敷の主であるリアナの両親は、外交関係か何か凄いお仕事でもしてるのだろうか。
こんな大きな屋敷の持ち主なのだ。さぞや大物なのだろう。だが、だからこそ忙しくて家を不在しがちなのかな?
先ほども感じた違和感。この屋敷には、他に人の気配がない。
いくら何でも子供執事に自分の娘を預けて大丈夫なのだろうか?
学校は?
聞きたいことは数多あるけれど。
なんだか踏み込んではいけない雰囲気に、私は黙る。
「アケミね、それでアケミ。貴女は何を望むの」」
「お嬢様、いきなり呼び捨ては失礼ですよ」
「あ、私は別に構わないので」
傍から見れば妙な感じだろう。
明らかに子供な少女に呼び捨てにされ。
そんな彼女や少年に敬語を使う女子高生。
だが嫌な感じはしなかった。むしろそれが当然のような……?
「日本人って面倒ね」
「お嬢様が無礼なんです」
いや、私本当気にしないので。そう思いながら、二人の関係に何となく納得するものがある。
我儘お嬢様に、振り回されてると思いきや、言うべきことはハッキリ言う執事。
意外にうまく行ってるのかもしれない。だからこそ、親は放任なのだろうか。
「で、アケミさんは何をお望み?」
かろうじて『さん』が付け加えられたところで。
私はポツポツと話し始めた。
学校での虐めの事実を。
どれほどの苦痛を受けたかを。
自身の境遇を。
そして。
死にたいと思ってる事を。
こんな子供に話したところでどうなるわけでもないというのに。
誰かに聞いて欲しかったのか、私の口は止まることなく全てを話した。
最後に死にたいと思ってるくらいに苦しい事を伝えて。
私は吐息と共に、口を閉じた。
話しすぎて喉がカラカラだ。
すると、それを読んでいたかのように、新しい紅茶が目の前に差し出された。
いつの間に──リュート少年が部屋を出て新しい紅茶を持ってきたことに気付かない程に、集中して私は話していたのだろうか。
ホウと息をついて紅茶を頂く。
先ほどと同じ──いや、先ほどよりもその美味しさが染みた。またホウと息を吐いた。
カップを置いて、リアナお嬢様を見た。少女はソファに肘をついて私を見ていた。しばしの沈黙。
ややあって。
彼女は足を組み、自身の膝に肘を置き、手の平に顎を乗せて私に言った。
「で、そいつらをどうしたいの?」
「え──」
どうしたい。
私は彼らをどうしたいのか。
問われずともいつも考えていた。
どうして私ばかりこんな目に遭わねばならないのか。
どうして私なのか。
どうしてあんな酷い事が出来るのか。
憎いと思った。
虐めに加担する奴らも、見て見ぬフリをする奴らも。
死ねばいいのにと思った。
苦しめばいいのにと思った。
でもそれでは私も奴らと同じだと思って……思って……心に蓋をした。
きっと、虐められる私にも悪いとこがあるんだと思って。
「苦しめばいいのにと思った?」
「え」
「同じ思いをすればいいのにと思った?」
「それは……」
心が見透かされたような気がして、言い淀む。
思ってはいても、改めてそうやって言葉にされると、何だか凄く自分が悪い気になってくる。
「そんな事を思う自分もまた、連中と同じだと思った?」
「う……」
「自分にも悪いところがあるんじゃないのかと思ってる?」
完全に見透かされている。否定しても意味が無いと頷くしかなかった。
それにリアナはクスクスと笑う。歪んだ笑みだった。
「馬鹿ねえ。どうして被害者は加害者を思いやるのかしら。どうして自分も悪いと思うのかしら」
少女は深々と溜め息をつく。心底呆れたように。
「そんなわけないでしょ」
そしてキッパリと否定した。強い声で。眼差しで。
「虐められる方に原因がある?例えそうだとしても虐める権利なんて誰にも無い。あるわけがない。誰もが罪を犯して生きている。清廉潔白な人間なんてこの世に存在しないのだから」
だから虐める方が全て悪い。
リアナお嬢様はそうハッキリと言って。
そしてグッと顔を前に出して私の目を覗き込んだ。
「さて、貴女はどうしたい?」
「わ、私は……」
復讐したい。死にたいと思ってしまうほどに苦しまされた復讐を。
けれどそれでは、私も彼らと同じなのではないか?
「気にしなくていいわよ」
だがまたも私の心を読むように、彼女は安心させるかの如く笑みを浮かべて言う。
「先にやったのは相手。貴女はそれを返すだけよ。貰った物に対してお返しするのは当然でしょう?だから貴女は気に病むことはない。何て言うのかしらね、こういうの?自業自得?」
リアナお嬢様はそう言って、リュートを見た。少年執事は静かに頷く。
それに満足げな笑みを返して、少女はもう一度私を見た。
「それに実行するのは貴女じゃないから。全て私に任せればいい。私が貴方の恨みを晴らしてあげる」
「でも、そんなこと貴女が……貴女にさせるべき事じゃないわ」
どう考えても年下の……子供に頼むべき事では無いのだ。そして何より矛盾している。奴らは私を虐めた。それに対して私が復讐するならともかく、彼女が動くのはお門違いと言うものだ。
そう思ってやはり復讐なんて駄目だと言おうとしたところで。
彼女はニッコリと……邪気のない可愛らしい笑みで言うのだった。
「構わないのよ。だって私は人じゃないから……人の理に縛られない存在だから」
だから貴女の代わりに復讐してあげる。
そう言って笑む彼女に。
私は何と返したのか、覚えていない──
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