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第三話 女子高生とクラスメート
2、
しおりを挟む私の望みとは何なのか。
ハッキリしてるようでボンヤリしたそれを、『お嬢様』とやらが叶えてくれる。
それこそ漫画か何かのような怪しい話に乗ったのは、やはりどこかで私は救いを求めていたのかもしれない。
──死にたくないと思ってるのかもしれない。
呆然としながら私はフェンスの向こうへと戻り、屋上を出て、気付けば少年と共に見知らぬ道を歩いていた。
学校から駅までを歩くだけの私は、この辺の地理に疎い。
ちょっと裏道に入られてしまえば、もう戻る事も出来ない状況となってしまった。必然に、私は少年の後に付いて行くしかない。
結構な距離を右へ左へと移動する。
いい加減疲れてきたな……息が上がってきた頃に、唐突にそれは現れた。
角を曲がる少年を慌てて追いかけて曲がった私の目の前に現れたのは──
「うわ、でっか……!」
思わず声が漏れる程に大きな門。そして壁。
その向こうに佇むは巨大な……洋館、だった。
学校からかなりの距離を歩いてきたし、私はこの近辺の人間ではない。
だがそれでもこれ程の洋館……どうして今まで知る事が無かったのだろう。そう不思議に思える程に大きなそれは、夜の闇も相まって、何だか不気味な佇まいだった。
「大きいでしょう?」
「う、うん……」
そんな私の反応に見慣れてるのか、少年はクスリと笑ってから門に手をかけた。
電動式──ではないのだろう。
少年が力を込めると同時に、門は動き出した。
ギギギ……と。
重々しく、不気味な音を立てて。
・・・・・・
・・・・・・
これは、本当に大丈夫なのだろうか?
「さあどうぞ」
ニッコリ微笑んで私を呼ぶ少年。
だが私はそれに素直に従って入ってもいいのだろうか?
どう見ても、これはホラー映画の様相になってきたぞ。
このまま屋敷に囚われ、行方不明──なんて洒落にならない。
私はどうしても足を踏み出すことが出来なかった。動けなかった。
一瞬キョトンとした少年だが、私が怯えてるのが分かったのだろう。困ったように眉を下げながら、近づいて来た。
「怖いですか?」
「──ちょっぴり」
本当は物凄く恐い。
だが見た目小学生程度の少年に対して、高校生の私が恐いなどと言いにくい。
引きつった笑みで強がってはみたが、意味は無いようだった。
「まあ本当なら昼にお呼び出来たら良かったんですけどね。昼なら怖くないと思いますから。ただ、貴女を見つけたのがこの時間ですからねえ……。昼間に出直してきますか?」
出直す。
一瞬そうしたいと頭をよぎったが、直ぐに却下する。
一晩経てばきっと私の決心は鈍るだろう。
自殺しようとした今夜──この不思議な状況は今だけしか起こり得ないとなぜか思ってしまう。
だからこそ、私は逃げるわけには行かなかった。出直すなんて選択肢は排除するしかなかった。
……何より、一人でここへ来れる自信が無かったから、という理由もあるのだけど。
私は静かに首を横に振った。
「ううん……大丈夫。キミの言うお嬢様に会いたいから。行くわ」
自分に言い聞かせるように強い心持で言葉を発し。
一つ頷いて私は少年の後を付いて行くのだった。
門を通り過ぎ、広大な庭を踏みしめる。
その背後で。
ガシャンと門が閉まる音だけが周囲に響くのだった。
少年は目の前を歩き。
門は電動では無いはずなのに。
けれど私はそれを不思議には思っても、原因を追究したい、振り返りたいと思う事は無かった。
前だけを、少年の向こう、そびえ立つ屋敷だけを目にしながら、ただ歩くのだった。
ギイイイイ……
これまたホラー映画で有りそうな嫌な効果音と共に、屋敷の扉は開いた。
かなりの大きさなのに、小さな少年がそっと手を振れただけで開く。……ひょっとしなくても、実は電動仕掛けなのかもしれない。
古さと新しさを兼ね備えた洋館。
何だか観光スポットにしたら良さそうだなと考えてしまう自分を滑稽に思いながら、私は中へと入った。
「うわ……」
思わず感嘆の声が響く。
玄関ホールはとても広く、左右に甲冑が置かれ、豪華な花が大きな花瓶に活けられていた。
天井には大きなシャンデリアがほのかに光を照らし、壁掛け証明は炎が揺らいでるように見えた──が、それはロウソクを模した照明具なのだろう。それでもユラユラと揺れる様はまるで本物のようだ。
正面には二階へと続く、立派な螺旋階段。
映画や絵物語で見るような世界が、そこにはあった。
いや、本当はこういったお屋敷は実際に存在するのだろう。現に目の前に在る。だがこの日本でこんなお屋敷をお目にかかる機会など──庶民の私にはきっと一生無いものと思っていたのに。
人生どう転ぶか分からないな。
幻想的な世界に居ながら、私はぼんやりとそんな事を考えていた。
その時だった。
「あー!リュート!やっと帰って来た!遅いわよ!!」
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