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第三話 女子高生とクラスメート
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しおりを挟む(ちょっと臭いのよ、近づかないで!)
(弁当なんて要らないだろ?砂でも食ってろよ!)
(あ~むしゃくしゃする!おい、一発殴らせろ!)
(なんだ、こんな問題も解けないのか?お前に勉強教える意味はないな)
(どうして生きてるの?空気を無駄にしてるの分からないわけ?)
(あんた地味だからさあ、体操服を派手にしといたげたわ!ペンキまみれで綺麗になったでしょ?)
(もういいから。とっとと死んでよ)
毎日毎日……浴びせられる罵声に言葉の暴力、肉体への直接な暴力、陰湿ないじめ。
何がきっかけだったかなんて忘れた。いや、分からない。気付けば始まっていたから。
高校入学時は期待に満ち溢れていたというのに……。
友達も出来て順風満帆だと思っていたのに。
なのに気付けば私の周りには誰も居なかった。
私を汚い目で見て嫌がらせをする人間しか存在しなくなっていた。
教師もまた、私を見下し馬鹿にし……。
死ねばいいと言われ続けて。
虐められて。
それでも学校に通ったのは、母に申し訳なかったから。
早くに父を病で亡くし、幼い私を女手一つで育ててくれた母。
その母のおかげで高校に入れたというのに。
虐められて行きたくない、なんて言えなかったのだ。
けれど暴力は日に日に酷くなり、痣を作って帰れば当然心配されてしまった。
そのうち母は真実に気付くだろう。
心配をさせたくないと思ったのだ。
私のせいで、母に心配かけて辛い思いをさせたくないと思ったんだ。
(早く死ねよ!)
毎日言われた。
(そうだそうだ、早く死ね!)
浴びせられ続けた言葉。
だから、私は今夜決行しようと思う。
母は悲しむだろう。
母だけが悲しんでくれるだろう。
でもきっと私は生きていちゃいけないのだ。
私が死ねば母は解放される。
生活は楽になる。
きっと母は幸せに──
そうして私は一歩踏み出そうとした。
まさにその瞬間。
「何してるんですか?」
突然声をかけられたのだった。
「え!?」
「動いたら落ちちゃいますよ。危ないじゃないですか」
バッと振り返れば、フェンスの向こうに人が居た。
嘘!だって今は真夜中。こんな時間に人が居るわけ──
「いやあ驚きましたよ。学校前を通りかかったら屋上に人が居るんですもん。お化けかと思っちゃいました!」
アハハ~。
そう言って屈託なく笑うのは……少年。
暗闇の中で見える髪はやはり黒い。
だがその目だけは異質な光を放っていた。
笑うその瞳は──金色に光っていたから。
お化け──その言葉に恐怖するのはむしろ私の方だ。
もしかして……幽霊?
いやでも待って、幽霊って目が金に光るもの?そもそも私って霊感ないよね?どうしてこんなにシッカリ見えてしかも話せてるの?
混乱が混乱を呼んで私はパニックになっていた。
「お嬢様がどうしても食べたいって言うからコンビニスイーツ買いに出たんですが……結果良かったですよ。貴女を見つけましたから」
だがその言葉に冷静になる。
コンビニスイーツ。
その現実的な言葉で私の心も落ち着いた。
そうか、真夜中に買い物に出て、偶然屋上に居る私を見たんだ……。グダグダ悩んでたから結構な時間が経過してたんだな。
その事実に気付いた私は、早くしないと他にも目撃されるかもしれないと動こうとした。
「だから危ないですって」
が、その動きはまたも彼によって止められてしまった。
金網フェンスの向こうから、ガッと服を掴まれてしまったのだ。
「は、離してよ!」
「嫌です。離したら飛び降りるでしょ?」
「そうよ、だから邪魔しないで!」
「邪魔はしたくありませんが、僕としてはこのまま帰ったら夢見が悪いですからねえ」
そんなこと知らないわよ!
何も見なかったことにして去っててくれれば良かったのに!
最初は幽霊かと思って感じた恐怖は、いつの間にか苛立ちへと変わっていた。
どうして放っておいてくれないのかと。
「放っといてよ!みんな私なんか死ねばいいと思ってるんだから!お母さんだって……私が居なくなればきっと楽に……」
「本当にそう思ってるんですか?」
最後まで発する事が出来なかった私の言葉に、彼は静かに問うた。
「本当に、死ねばいいと?それで全て解決すると?お母さんは喜ぶと思ってるんですか?」
改めて聞かれると言葉に詰まってしまう。
クラスメートの陰湿な虐め。
死ねばそれからは解放されるだろう。
だが母は。もしかしたら。
「お母さん、貴女が自殺しちゃったら苦しみませんか?」
「──!!」
その言葉がとどめとなった。
ポロポロと零れ落ちる涙。
「じゃあどうしろって言うのよ!」
拭う事もせず、私はただ叫んだ。
「学校に行かないとお母さんに心配させてしまうし、高校はちゃんと卒業しないとって思うし!でも毎日酷い虐めに遭って苦しくて悲しくて……もう、生きてるのも辛いのに!それなのに!」
どうしたらいいのよ!
嗚咽混じりの叫びを黙って聞いていた少年は。
叫んで泣きじゃくる私を見つめた後、小さく溜め息をついた。
「とにかく」
「?」
「まずはこちらに戻って来てください」
「それでどうにかなるって言うの?」
頑張れなんて言われたくない。
頑張らなくていいとも言われたくない。
何も知らないくせに。
この苦しみを、痛みを知らないくせに。
「僕と一緒に来てください」
「は?」
意外な言葉に一瞬で涙が引いてしまった。
まさかこの少年。
自殺願望のある私ならカモになると思って、お持ち帰りを考えてるのか?
ちょっと引いた私に彼は苦笑して言った。
「僕が住んでるお屋敷の主──お嬢様がきっと力になれると思いますから」
「お嬢様?」
平凡な庶民である私には縁のない単語に首を傾げてしまった。
言われて見ればと改めて少年の姿を認識した私は、彼が漫画でよく見る執事っぽい服をしてる事に気付いた。
つまり、彼はお金持ちのお嬢様の執事とかしてるのだろうか?そんな漫画のような話が私の身に関わってこようとは……!
状況も忘れてちょっとワクワクしてしまったのは……所詮は女子高生ということです。
少年はゆっくりと頷いた。
「ええ、お嬢様がきっと貴女の望みを叶えてくださいます」
「望みを叶える?」
そう復唱する私に、少年はニッコリ微笑んで静かに頷くのだった。
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