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しおりを挟む「お姉様!」
「え、何?」
「お姉様は醜いんですから大人しくしててください!私が全て貰います!」
どういう理屈なのそれ。
開いた口が塞がらないとはこの事かしら。
私もマシュー様も、ただただ呆れてポカンとなってしまった。それをどう解釈したのか。ビリアがドンと私を押しのけてマシュー様の前に出たのだ。
その強さに負けて、私は床に尻もちをついてしまった。「ラナリア!」と驚いてマシュー様が名前を呼ぶも、ビリアが邪魔で近づいて来れない。
「ほら、マシュー様。こんな弱っちいお姉様よりも。私の方が妻に相応しいと思いません?」
「──き、さま……」
「ああ、照れてらっしゃるのですね。そんな貴方も愛しいですわ。ほらマシュー様、姉よりふくよかで美しい私がお相手して差し上げますよ。まずは誓いのベーゼを……むっふ~」
「ひいいい!!!!」
たまらず悲鳴を上げるマシュー様。どんどん近付いて来るビリアを押しのける事が出来ず、もう涙目だ。
「マシュー様!」
慌てて立ち上がろうとするも、ドレスの裾が絡まって邪魔をする。ああ、鬱陶しい!
そうこうしてるうちに、ビリアの顔がズンズンとマシュー様に近付いている。急がなければ!
焦れば焦る程、ドレスは絡まり足も絡まり、うまく立てない……。
誰か、誰かマシュー様を……
助けて!
その願いは唐突に届く。
ゴンッと鈍い音が響くと共に、ビリアがマシュー様から引きはがされたのだ!
「いっだ……」
「この馬鹿者があ!!!!」
お父様だ。
騒ぎを聞きつけて走って来たのか、肩で息をしながら父がビリアの頭を思い切り殴ったのだった。
痛みに頭を抱えるビリア。そんな彼女の首根っこを容赦なく引っ掴むお父様。
ホッと胸を撫で下ろしていたら、目の前に手が差し出されたのでその主を見上げた。
「マシュー様」
「ラナリア……大丈夫か?」
心配そうに覗き込んでくるその瞳に安堵して。
私はギュッとその手を握り立ち上がった。
「マシュー様!マシュー様こそ大丈夫ですか?」
「ああ。どうにか……大丈夫だったよ」
それは貞操に関する事かしら。ご無事で何よりです。
安心した私はそっとその体に寄り掛かる。それを優しく受け止めてくれるマシュー様に、私は嬉しくて涙が出そうになった。
だがまだ終わってない。
私は賑やかな背後を振り返った。
そこでは……
「この馬鹿娘が!姉の婚約者にせまるとは何を考えてる!?」
「だって!お姉様より絶対私の方が相応しいと思うんです!」
ギャイギャイと親子喧嘩が繰り広げられていた。
ビリアが足で床を蹴る。
──ドスンッと床が揺れた。いや、建物全体かしら?
揺れながらお父様が叫ぶ。
「まずはその厚化粧をどうにかしろ!ピエロか!」
「白い肌の方が美しいんです!」
「白すぎるだろ!チークも……もうそれチークじゃないだろ!赤丸になってるじゃないか!」
「この丸がいいんですよ!頬が赤いのって魅力的でしょうが!」
「赤じゃなく馬鹿に見えるわ!あともう少し痩せろ!ちょっとラナリアを小突いたつもりだろうが、完全に張り手になっとる!王子もお前に潰されそうになっとったじゃないか!」
ビリアはとってもふくよかだ。別にそれが悪いとは言わないけれど、地面を揺らしながら歩くのはちょっと……せめて揺れない程度には痩せた方が健康にいいんじゃないかしら?と思わなくもない。ビリアがそれでいいなら、とあまり強く言ったことは無いが。
そしてちょっとメイクが独創的だ。それも本人が良いなら……と言わなかったけれど。
どうも鏡を見ないでやってるらしく、濃いし、ところどころ歪んでたりする。軽くホラー。
知らぬは本人ばかりなり。
まあ……ビリアが良いなら(以下略
「お姉様は軟弱すぎるんですよ!マシュー様は私がお守りします、むんっ!」
「むんっ!じゃねえわあ!!!!」
ブヨブヨだけど太く逞しい腕で力こぶを作るビリア。
それに対して涙ながらに突っ込む父。
あとは父に任せて、私とマシュー様は二人きりの時間を過ごしましょう。そっと私達はその場を離れるのだった。
後日。
ビリアに全身鏡をプレゼントしたら……屋敷中に悲鳴が響き渡った。
人のこと言う前に、貴女が鏡を見ようね……。
~fin.~
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