上 下
4 / 4

4、

しおりを挟む
 
 
「お姉様!」
「え、何?」
「お姉様は醜いんですから大人しくしててください!私が全て貰います!」

 どういう理屈なのそれ。
 開いた口が塞がらないとはこの事かしら。

 私もマシュー様も、ただただ呆れてポカンとなってしまった。それをどう解釈したのか。ビリアがドンと私を押しのけてマシュー様の前に出たのだ。

 その強さに負けて、私は床に尻もちをついてしまった。「ラナリア!」と驚いてマシュー様が名前を呼ぶも、ビリアが邪魔で近づいて来れない。

「ほら、マシュー様。こんな弱っちいお姉様よりも。私の方が妻に相応しいと思いません?」
「──き、さま……」
「ああ、照れてらっしゃるのですね。そんな貴方も愛しいですわ。ほらマシュー様、姉よりふくよかで美しい私がお相手して差し上げますよ。まずは誓いのベーゼを……むっふ~」
「ひいいい!!!!」

 たまらず悲鳴を上げるマシュー様。どんどん近付いて来るビリアを押しのける事が出来ず、もう涙目だ。

「マシュー様!」

 慌てて立ち上がろうとするも、ドレスの裾が絡まって邪魔をする。ああ、鬱陶しい!
 そうこうしてるうちに、ビリアの顔がズンズンとマシュー様に近付いている。急がなければ!

 焦れば焦る程、ドレスは絡まり足も絡まり、うまく立てない……。

 誰か、誰かマシュー様を……

 助けて!

 その願いは唐突に届く。

 ゴンッと鈍い音が響くと共に、ビリアがマシュー様から引きはがされたのだ!

「いっだ……」
「この馬鹿者があ!!!!」

 お父様だ。
 騒ぎを聞きつけて走って来たのか、肩で息をしながら父がビリアの頭を思い切り殴ったのだった。

 痛みに頭を抱えるビリア。そんな彼女の首根っこを容赦なく引っ掴むお父様。

 ホッと胸を撫で下ろしていたら、目の前に手が差し出されたのでその主を見上げた。

「マシュー様」
「ラナリア……大丈夫か?」

 心配そうに覗き込んでくるその瞳に安堵して。
 私はギュッとその手を握り立ち上がった。

「マシュー様!マシュー様こそ大丈夫ですか?」
「ああ。どうにか……大丈夫だったよ」

 それは貞操に関する事かしら。ご無事で何よりです。

 安心した私はそっとその体に寄り掛かる。それを優しく受け止めてくれるマシュー様に、私は嬉しくて涙が出そうになった。

 だがまだ終わってない。
 
 私は賑やかな背後を振り返った。

 そこでは……

「この馬鹿娘が!姉の婚約者にせまるとは何を考えてる!?」
「だって!お姉様より絶対私の方が相応しいと思うんです!」

 ギャイギャイと親子喧嘩が繰り広げられていた。

 ビリアが足で床を蹴る。
 ──ドスンッと床が揺れた。いや、建物全体かしら?

 揺れながらお父様が叫ぶ。

「まずはその厚化粧をどうにかしろ!ピエロか!」
「白い肌の方が美しいんです!」
「白すぎるだろ!チークも……もうそれチークじゃないだろ!赤丸になってるじゃないか!」
「この丸がいいんですよ!頬が赤いのって魅力的でしょうが!」
「赤じゃなく馬鹿に見えるわ!あともう少し痩せろ!ちょっとラナリアを小突いたつもりだろうが、完全に張り手になっとる!王子もお前に潰されそうになっとったじゃないか!」

 ビリアはとってもふくよかだ。別にそれが悪いとは言わないけれど、地面を揺らしながら歩くのはちょっと……せめて揺れない程度には痩せた方が健康にいいんじゃないかしら?と思わなくもない。ビリアがそれでいいなら、とあまり強く言ったことは無いが。

 そしてちょっとメイクが独創的だ。それも本人が良いなら……と言わなかったけれど。
 どうも鏡を見ないでやってるらしく、濃いし、ところどころ歪んでたりする。軽くホラー。

 知らぬは本人ばかりなり。
 まあ……ビリアが良いなら(以下略

「お姉様は軟弱すぎるんですよ!マシュー様は私がお守りします、むんっ!」
「むんっ!じゃねえわあ!!!!」

 ブヨブヨだけど太く逞しい腕で力こぶを作るビリア。
 それに対して涙ながらに突っ込む父。

 あとは父に任せて、私とマシュー様は二人きりの時間を過ごしましょう。そっと私達はその場を離れるのだった。

 後日。
 ビリアに全身鏡をプレゼントしたら……屋敷中に悲鳴が響き渡った。

 人のこと言う前に、貴女が鏡を見ようね……。




 ~fin.~



 
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

pajan
2023.11.23 pajan

う~む、王子に謝罪を求めるばかりか、許可無く触ろうとした時点で「処刑」は確定事項なのですが。
いくらコメディ要素が強いと言っても、筋を通さなければお話になりません。
大黒柱の無い家を建てるのと同じです。

解除
hiyo
2022.02.02 hiyo

短めなのにとても楽しいお話でした。
自分の事って自分では余り判らないものかも~ですね。

読ませて頂いて有難うございました。

リオール
2022.02.09 リオール

こちらこそお読みいただきありがとうございました。
そうなんですよね~、自分のことってホント見えない!(^_^;)

解除
とまとさん
2022.01.18 とまとさん

ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔ꉂꉂ🤣𐤔𐤔𐤔𐤔𐤔
最初から、鏡が部屋にあれば
そんなに太らなかったのでは?
面白かった。

リオール
2022.01.18 リオール

ありがとうございます!
なぜに部屋に鏡の一つも無かったんでしょうねえ(;・∀・)

解除

あなたにおすすめの小説

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。

しげむろ ゆうき
恋愛
 キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。  二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。  しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。