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しおりを挟む妹が婚約者を頂戴と言ってきてから数日後。
今度はマシュー様がやって来る日となった。私は今朝からソワソワだ。待ち遠しくて。
同じ学園に通ってるとはいえ、学年が違うだけでこんなにも会えないものだと入学して直ぐに理解した。理解して凹んだのも、今は懐かしき思い出だ。
学園で会えずとも、休日にはお互いに行き来して会う事が出来るのだから、十分幸せ。互いに忙しい身……特にマシュー様は卒業が迫り、私以上に忙しい日々を送っておられる。贅沢を言っては罰が当たるというもの。
が、やはり不安がある。
その原因は言わずもがな、妹の存在だ。
「はあ……」
「どうしたラナリア。溜め息なぞついて。王子が来られるのに、そんな顔をしては可愛くないぞ」
何気ない父の言葉にグサッとくるものがある。デリカシーの無い男性はモテませんよ!……まあ、お父様はお母様とラブラブだから、モテる必要ないのかもしれないけど。でも娘から嫌われる。男親にとって、娘に嫌われる事ほど悲しい事はあるまい。
いつもなら、そんな父に強く言う私だったけど、流石に今日はそんな気になれなかった。
何も言わない私を不審げに見る父。──何か言って来ると思いながら先ほどの発言をしてるんですか。それはそれで大問題です。
「お父様」
「な、なんだ!?」
くるか!?とビクッと震えあがって身構える父。そんな父を冷ややかに見ながら、私は自分の頬に手を当てて問うた。
「私って……醜いですか?」
「まあ普通だと思うぞ」
率直なご意見ありがとうございます!
「……お父様とは一週間口をきかないことにします」
「何でだあ!!」
床に崩れ落ちる父を踏みつけて私は部屋を出た。向かう先は、自分の部屋だ。
ちょっと今の自分の姿をもう一度見直そうと思って。マシュー様に会うのに、恥ずかしい格好をしてないだろうか?そう確認するためだ。恋する乙女は大変なのです。
そうして部屋に向かう途中。
玄関ホールのそばを通りかかった所で……声が聞こえた。
「あはは、ビリアは面白いね」
「いえそんな。マシュー様こそ。博識で楽しいお話を聞かせていただきましたわ」
あはは。うふふ。
楽し気な会話に足が止まる。
そしてホールに目をやって……眩暈がした。
もうマシュー様が到着された事に焦りを感じ。
その腕に、なぜかビリアが自身のそれを絡ませてる事に……眩暈と共に怒りを感じるのだった。何をやってるの!?
「マシュー様!?」
「ああラナリア!早く会いたくて、予定より早く来てしまったよ。……良かったかな?」
少し申し訳なさそうに。けれど頬を赤らめて階上にいる私を見上げながらそんな事を言われては……責めることなど出来ましょうか!
階段を下りて王子の前に着く頃には、さすがにビリアの腕は離れていた。だが先ほど見たものを忘れる事は出来ない。
(王子は……ビリアの方がタイプなのでしょうか)
父に言われずとも、私は実に平凡な顔をしてる事は理解している。だがそれでも王子が私を好いてくれてるから。だからこそ頑張って着飾ってるし、出来るだけ可愛くなろうと日々努力している。
「あの、マシュー様……」
「ねえマシュー様あん」
思い切って聞いてみようか。そう勇気を出して彼の顔を見上げて名を呼んだ瞬間。
甘ったるい声を出して、ビリアがそれにかぶせてきたのだった。
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