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7、※三人称
しおりを挟む「う、う~ん……痛い……」
頭を押さえながら、侯爵家当主のテリーは目を開いた。
痛む頭を振りながら、どうにか思考をハッキリさせようとしたところで……状況を理解して言葉を失った。
「え。ここどこ?」
先ほどまで居たはずの侯爵家屋敷──その古くとも趣のある立派な室内とは程遠い、寂れた室内にギョッとして目を見開いた。
一体ここはどこのボロ部屋か。そう思えるような見すぼらしい場所だった。床板がところどころ浮き、窓は割れたのを補修されるも隙間風が酷い。ガタガタと揺れている。自身が寝ていた寝台は、ただの箱のような物で実に寝心地悪く、体の節々が痛くなってしまった。
「ここは……本当に何処なんだ?」
呆然として立ち上がったテリーは、窓の外を見て絶句する。
「何処だよここ!?」
何処だ何処だと連呼する彼の眼下には、見知らぬ街並みが映るのだった。
何が起きたのか理解出来ずに窓に張り付いていると、不意に部屋の扉が開いた。
慌てて振り返るテリーは、そこに佇む存在にまたも目を見開く。
「エリス!?」
「おはようございます、テリー様」
そう言ってニッコリと微笑むのは、紛れもなくテリーの妻であるエリスだ。
「エリス!これは一体!?どうしてさっきまで屋敷にいたはずなのに……そもそもここは何処なんだ!?」
「驚くのも無理はありませんが落ち着いてください。ここですか?ここはですね……」
そうして告げられた土地名にまたもテリーはギョッとなる。
それはとてつもなく遠い地、異国の地、見知らぬ地、だったのだ。
「な、なぜそんな場所に……!?」
「ここがテリー様の新しい家になるからです」
「はあ!?」
突然何を言い出すんだ!
そう叫ぶテリーに対し、エリスは落ち着いた態度を崩さなかった。そしてスッと一枚の紙を取り出した。
「こちらはですね、侯爵家前当主様からの通達になります」
「前当主って……父上からの?」
「はい」
頷いてエリスはテリーにそれを渡す。
奪い取るように紙を受け取ったテリーは、書類に目を通し……一気に青ざめるのだった。
「な、な……そんな馬鹿な!嘘だ、こんなのは嘘だ!こんな馬鹿げた話あるか!」
「馬鹿げてはおりません、嘘でもありません。全てはテリー様、貴方の行いにより生じた結果なのです。判は本物ですし、この書類は前侯爵様直々に屋敷に持って来られました。私が対応し受け取りましたので間違いありません」
「だって、だって……そんな、そんな馬鹿な……!」
信じられない、信じたくない。
そんな思いから紙をグシャリとテリーは握りつぶした。それを冷めた目でエリスは見やる。大事な内容の書かれた書類だが、所詮それは複写されたもの。大切な原本は別に保管してあるので慌てる事はない。
「ご安心ください。ここにはあなたの愛人達も一緒に来ていますから。侯爵家の財産を食いつぶした彼女達には、ちゃんと返済していただかないとね」
「な、彼女達も!?ど、何処にいるんだ!」
「さあ?縁があればそのうち会えるのではありませんか?彼女達も色々分散してお仕事に就いてますから。食事処に宿屋や雑貨屋、武器屋……まあ色々な職務に就いてますから、会う事もあるでしょう」
言葉を失うテリーに、伝えるべきことは終わったと。仕事は終わったとばかりにエリスは背を向けた。
「ま、待ってくれエリス!ここまで来たって事はキミも俺に未練があるのだろう!?だったら一緒に戻ろう!愛人が気に入らなかったというのならもう二度と他に女はつくらない!キミとだけ一緒にいるから!キミだけを愛するから!」
「……残念ですがテリー様。その言葉は三年前に聞いて既に裏切られております。私はもうあなたを信用する気はありません」
「そんな!エリス、待って……!」
「ちゃんとお仕事は用意してありますから。港での荷運びという重労働ではありますが、頑張れば出世も有り得ますよ。何も無い状態から頑張って這い上がってごらんなさい。それだけの実力をお持ちなら、もしかしたら侯爵家に戻れるかもしれませんよ?」
エリスはそう言い置いて、今度こそ背を向けて部屋を出るのだった。
立ち尽くすテリーに、最後の言葉だけを残して。
「さようなら」
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