3 / 8
3、
しおりを挟む『3』という数字には魔物が潜むと言う。
「初耳です」
付き合って三週間、三ヶ月、三年……という節目には不思議と別れの危機が訪れるという魔物。
「初耳ですなあ」
実際私とテリーは結婚して三週間で初喧嘩をし「お皿が飛んでましたな」、三ヶ月頃にテリーの帰宅頻度が激落ち「もはや呼び捨てですな」、三年の今、一緒に過ごす時間はほとんどないときてる「旦那様の顔、忘れてしまいましたなあ」。
「……ユーシア、いちいちうるさいわよ」
「これは失礼。どうも年寄りはツッコミが多くてなりませんな」
ツッコミの多い年寄りとか聞いた事ないし!
ただこんなユーシアだからこそ、私の気持ちは救われてるのかもしれない。でなきゃもっとドロドロした気持ちで恨みつらみを抱いて生活してたと思うの。──まあ、十分すぎる程に恨んでるけどね。
「はあ……最初の喧嘩は最終的にはラブラブして終わったのになあ」
たしか『俺が悪かったよハニー』『ダーリン、あたしこそごめんなさい』という実に殴ってやりたくなるような馬鹿ップルな終わり方をしたんだっけ。……本当に自分を殴りたい。いっそ地面にめり込みたい。そして旦那様は顔が変形するほど殴りたい。地獄に落とし込んでやりたい。
あの頃は良かったと思う時期もとうに終わった。
いい加減未来を見据えて動かねばならない時期に今は差し掛かっている。
「さてどうしたものかしら……」
本当は考えるまでもないのだ。とっとと離婚して実家に戻るか修道院に入るなりすればいい。それが心の平穏である事は確かだ。
だが……
「ねえユーシア」
「はい奥様、なんでございましょう?」
書類の山からペラリと一枚とって、判を押したところでユーシアに渡す。それを受け取ってユーシアは書類を確認しながら返事をしてきた。
私は次の書類を一枚取ってから──
「私がこの家を出たら、あなたどうする?」
と問うのだった。
その直後──!!
「それだけはあああっ!!奥様、それだけはご勘弁を!我々を見捨てないでくださいぃ!!!!」
書類の山にスライディングタックルきたこれ!!
バサバサッと凄い勢いで山が崩れたんですけど!?どうすんのこれ!
しかしユーシアは気にすることなく、山が無くなった机に突っ伏して、額をこすりつけながら机の上で土下座せん勢いで叫ぶのだった。
「今奥様に出て行かれてしまいますと確実に仕事が回らなくなってしまいます!そうなればこの侯爵家は元より、侯爵領に住まう民も全て滅びへの道を辿る事となるでしょう!どうか我らを見捨てないでください奥様!老い先短い老いぼれの最後の願いでございます、後生ですからどうか出て行くのだけは!奥様!奥様あぁぁっ!!」
「わ、分かった分かった、分かりましたから!出て行かないから!出て行かないからあぁぁっ!」
「そうですか。それでは次にこの書類にサインをお願いします」
「……」
切り替えはっや!
とりあえず散らばった書類、山に戻してよね。
87
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説

あなたとの縁を切らせてもらいます
しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。
彼と私はどうなるべきか。
彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。
「あなたとの縁を切らせてください」
あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。
新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。
さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ )
小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください
ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。
やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが……
クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。
さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。
どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。
婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。
その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。
しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。
「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!
Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。
最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。
しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。
不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。
ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

さようなら、あなたとはもうお別れです
四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。
幸せになれると思っていた。
そう夢みていたのだ。
しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる