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3、

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 『3』という数字には魔物が潜むと言う。

「初耳です」

 付き合って三週間、三ヶ月、三年……という節目には不思議と別れの危機が訪れるという魔物。

「初耳ですなあ」

 実際私とテリーは結婚して三週間で初喧嘩をし「お皿が飛んでましたな」、三ヶ月頃にテリーの帰宅頻度が激落ち「もはや呼び捨てですな」、三年の今、一緒に過ごす時間はほとんどないときてる「旦那様の顔、忘れてしまいましたなあ」。

「……ユーシア、いちいちうるさいわよ」
「これは失礼。どうも年寄りはツッコミが多くてなりませんな」

 ツッコミの多い年寄りとか聞いた事ないし!

 ただこんなユーシアだからこそ、私の気持ちは救われてるのかもしれない。でなきゃもっとドロドロした気持ちで恨みつらみを抱いて生活してたと思うの。──まあ、十分すぎる程に恨んでるけどね。

「はあ……最初の喧嘩は最終的にはラブラブして終わったのになあ」

 たしか『俺が悪かったよハニー』『ダーリン、あたしこそごめんなさい』という実に殴ってやりたくなるような馬鹿ップルな終わり方をしたんだっけ。……本当に自分を殴りたい。いっそ地面にめり込みたい。そして旦那様は顔が変形するほど殴りたい。地獄に落とし込んでやりたい。

 あの頃は良かったと思う時期もとうに終わった。
 いい加減未来を見据えて動かねばならない時期に今は差し掛かっている。

「さてどうしたものかしら……」

 本当は考えるまでもないのだ。とっとと離婚して実家に戻るか修道院に入るなりすればいい。それが心の平穏である事は確かだ。

 だが……

「ねえユーシア」
「はい奥様、なんでございましょう?」

 書類の山からペラリと一枚とって、判を押したところでユーシアに渡す。それを受け取ってユーシアは書類を確認しながら返事をしてきた。
 私は次の書類を一枚取ってから──

「私がこの家を出たら、あなたどうする?」

 と問うのだった。

 その直後──!!

「それだけはあああっ!!奥様、それだけはご勘弁を!我々を見捨てないでくださいぃ!!!!」

 書類の山にスライディングタックルきたこれ!!
 バサバサッと凄い勢いで山が崩れたんですけど!?どうすんのこれ!

 しかしユーシアは気にすることなく、山が無くなった机に突っ伏して、額をこすりつけながら机の上で土下座せん勢いで叫ぶのだった。

「今奥様に出て行かれてしまいますと確実に仕事が回らなくなってしまいます!そうなればこの侯爵家は元より、侯爵領に住まう民も全て滅びへの道を辿る事となるでしょう!どうか我らを見捨てないでください奥様!老い先短い老いぼれの最後の願いでございます、後生ですからどうか出て行くのだけは!奥様!奥様あぁぁっ!!」
「わ、分かった分かった、分かりましたから!出て行かないから!出て行かないからあぁぁっ!」
「そうですか。それでは次にこの書類にサインをお願いします」
「……」

 切り替えはっや!
 とりあえず散らばった書類、山に戻してよね。



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