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五頭龍に愛の微笑みを
無精髭の龍神様
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「おい、アマネ。そろそろ起きろ」
「お? もう着きましたか」
所は変わって友人町駅。アマネの妖怪研究事務所があるマイホームタウンだ。
二人は電車から降りて、改札を抜ける。服と髪に染み付いた潮の香りが、江ノ島を彷彿とさせる。前を見ると、左右に見える北口と南口から夕日が差し込んでいた。右側に見える南口の方が夕日の日差しが強い。
南口の階段を降りる途中でアマネが言った。
「んー。もう十八時半を過ぎてるのに明るいなあ」
彼女はぐぐっと背伸びをして、ふわあとあくびをかく。
「七月だからな。これからどんどん暑くなるぞ」
「露出の高い女の子が増えて、アッキーはうはうはですねえ」
「うるせえなあ」
野沢は話題を変えようと、空木の話を持ち出した。
「空木はちゃんとやっていけんのかね」
と、アマネはニコニコとした表情で、駅前のクレープ屋を指差した。
「アッキー! 明日のタカノフルーツパーラーに向けて模擬戦しようぜ」
「お前、デザートのことなんだと思ってんの?」
野沢の言葉には耳を貸さず、我先にと一人でクレープ屋へ走っていく。彼は後ろからゆっくりと追いかけた。
「アッキーはチョコバナナで良いよね? チョコレート党だもんね」
追いつくと、既に彼女は注文を終えていた。待ち遠しくてわくわくしているのか、声が弾んでいる。
「バッチリだ」
と、ここで彼女が野沢からの質問を返す。
「で、空木さんでしたっけ? 彼はもう大丈夫だと思いますよ。玉依姫命と五頭龍にケジメをつけたじゃないですか」
彼女は言いながら、クレープ屋を覗き込み、店員の手元を追いかけている。彼女はさらに言葉を続けた。
「腕を犠牲にしてでも、ちゃんと直接謝罪して。龍口明神社の御神体である木彫の五頭龍に如意宝珠を供えて。揃った夫婦に手を合わせて、江ノ島を守ることを誓ったじゃないですか」
「そうだな。……それにしても、人の成れの果ては恐ろしいな。巨大な顔だけとか正直、ちびりそうだった。霊力も尋常じゃなかったしな」
「でも、私は玉依姫命の気持ち分かるな」
玉依姫命の話に彼女は寂しく笑う。
「異物扱いされたら、誰でもああなりますよ。私だって人間なんだ、お前らの為に犠牲になってんだ。って思っちゃいますよ、やっぱり。
……ずーっとそれがしこりになって、やるせない気持ちを抱えて千五百年ですよ? むしろ人の原型を留めていただけ、すげえなあって思いましたね。アッキーがちびってる時にね」
「ちびってねえよ。ちびりそうって言ったんだよ」
「アッキーはさ」
ふいにアマネが意味ありげな視線を野沢に向けた。
「私をバカにする人がいたらどうする?」
「はっ! そんなやつがいたら、お前をバカにしなくなるまで、ネチネチと陰湿にイジメてやるよ」
野沢の言葉に、彼女は大きな声を上げて笑い、やがて嬉しそうに言った。
「アッキーらしいね」
「だろ」
「うん」
と、ここで「お待たせしました」の声。アマネがよそ行きの声で店員と受け答えする。
「はい、アッキーの」
「おう。サンキュー」
「……こっちこそ、いつもサンキュー」
アマネはクレープを頬張って、ふわりと笑った。彼女の言葉に目を白黒させる自分の龍神様を見つめながら。
「お? もう着きましたか」
所は変わって友人町駅。アマネの妖怪研究事務所があるマイホームタウンだ。
二人は電車から降りて、改札を抜ける。服と髪に染み付いた潮の香りが、江ノ島を彷彿とさせる。前を見ると、左右に見える北口と南口から夕日が差し込んでいた。右側に見える南口の方が夕日の日差しが強い。
南口の階段を降りる途中でアマネが言った。
「んー。もう十八時半を過ぎてるのに明るいなあ」
彼女はぐぐっと背伸びをして、ふわあとあくびをかく。
「七月だからな。これからどんどん暑くなるぞ」
「露出の高い女の子が増えて、アッキーはうはうはですねえ」
「うるせえなあ」
野沢は話題を変えようと、空木の話を持ち出した。
「空木はちゃんとやっていけんのかね」
と、アマネはニコニコとした表情で、駅前のクレープ屋を指差した。
「アッキー! 明日のタカノフルーツパーラーに向けて模擬戦しようぜ」
「お前、デザートのことなんだと思ってんの?」
野沢の言葉には耳を貸さず、我先にと一人でクレープ屋へ走っていく。彼は後ろからゆっくりと追いかけた。
「アッキーはチョコバナナで良いよね? チョコレート党だもんね」
追いつくと、既に彼女は注文を終えていた。待ち遠しくてわくわくしているのか、声が弾んでいる。
「バッチリだ」
と、ここで彼女が野沢からの質問を返す。
「で、空木さんでしたっけ? 彼はもう大丈夫だと思いますよ。玉依姫命と五頭龍にケジメをつけたじゃないですか」
彼女は言いながら、クレープ屋を覗き込み、店員の手元を追いかけている。彼女はさらに言葉を続けた。
「腕を犠牲にしてでも、ちゃんと直接謝罪して。龍口明神社の御神体である木彫の五頭龍に如意宝珠を供えて。揃った夫婦に手を合わせて、江ノ島を守ることを誓ったじゃないですか」
「そうだな。……それにしても、人の成れの果ては恐ろしいな。巨大な顔だけとか正直、ちびりそうだった。霊力も尋常じゃなかったしな」
「でも、私は玉依姫命の気持ち分かるな」
玉依姫命の話に彼女は寂しく笑う。
「異物扱いされたら、誰でもああなりますよ。私だって人間なんだ、お前らの為に犠牲になってんだ。って思っちゃいますよ、やっぱり。
……ずーっとそれがしこりになって、やるせない気持ちを抱えて千五百年ですよ? むしろ人の原型を留めていただけ、すげえなあって思いましたね。アッキーがちびってる時にね」
「ちびってねえよ。ちびりそうって言ったんだよ」
「アッキーはさ」
ふいにアマネが意味ありげな視線を野沢に向けた。
「私をバカにする人がいたらどうする?」
「はっ! そんなやつがいたら、お前をバカにしなくなるまで、ネチネチと陰湿にイジメてやるよ」
野沢の言葉に、彼女は大きな声を上げて笑い、やがて嬉しそうに言った。
「アッキーらしいね」
「だろ」
「うん」
と、ここで「お待たせしました」の声。アマネがよそ行きの声で店員と受け答えする。
「はい、アッキーの」
「おう。サンキュー」
「……こっちこそ、いつもサンキュー」
アマネはクレープを頬張って、ふわりと笑った。彼女の言葉に目を白黒させる自分の龍神様を見つめながら。
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