山吹アマネの妖怪道中記

上坂 涼

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どろろんサウンドサイキッカー

名コンビ?

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 深夜の廃校。緑樹高校。二本の懐中電灯の明かりが四方八方に行き交っていた。
 ここ友人町は最近になって都市開発がようやく進み始めた。これまで停滞していた友人町は、少子高齢化の影響で小中高それぞれの合併が進んだ。高校については町にあった四つの高校のうち、二校が廃校となり、現役なのは陽光高校と月夜高校である。

 寂れた校舎に野沢の怒号が響き渡る。
「そんなバカな話があるか! このイカレ女! そこをどけこのやろう! 俺はもう帰る!」
「本当に死ねとは言ってはいないではないですかっ! 死ぬフリをしてくれと言っているんです!」
「あのなあ! 『屋上から飛び降りてください』だなんて普通に考えて、飛び降りたら死ぬんだよこのあんぽんたん!」
 アマネは片手の平を口に当てた。
「え、飛べないんですかあ? 天狗は飛べるのに」
「俺は人間だっ! お前わかってて言ってるだろそれ」
 ぱかっとキャリーバックを開けるアマネ。
「ほらほらー。一千万だぞー? これさえあれば、数年は働かずに食っちゃ寝できるぜー?」
 ぐっと唇を噛む野沢。
「何か死なないようにする工夫はないのか。飛び降りる場所にマット敷くとか」
「出来る限りリアリティを追求しないと、幽霊は出てきてくれないので却下デスネ」
「帰る!」

 身をひるがえして帰ろうとする野沢を、アマネが慌ててシャツの袖を掴んで引き止める。
「まあまあ、ひとたびお待ちを! マットは却下ですが、他がダメとは言っておりません」
「じゃあどうするんだよ」
「私が天狗の力で、野沢さんをギリギリで拾いますっ」
 アマネ、ぐっとガッツポーズ。
「はあ? 無理に決まって……」
 野沢が振り返ると、アマネがさっそく宙に浮いていた。準備万端といった面持ちである。
「……」
 彼は口をつぐんだ。じぃっと彼女の次の動向を静観していると、キャリーバックをひょいと持ち上げ、チラリチラリとキャリーバックの中身を見せつけてきた。
「……ああもうわかったよ! もし失敗したら一生お前を呪ってやる」
「お安い御用です!」

 緑樹高校三階。渡り廊下。二つの懐中電灯の明かりが、数メートル先の暗闇を一点に照らしている。
「ほう。だから今回は幽霊なのか」
「はい。もちろん妖怪には会いたいけど、彼らは警戒心が強くて滅多なことでは人の前に姿を現さないんです。一方、幽霊は一匹狼や自由人が多くて。比較的に会いやすいんです。ゆえに普段は幽霊に焦点を絞って、父親の手がかりを探ってる」
 懐中電灯を顎に当てて、幽霊のフリをするアマネ。

「で、山に住んでた時は妖怪やら幽霊がわんさか、おとっつぁんのところにやってきてたんだ。おとっつぁんって『妖霊界の相談役』っていうポジションで偉い人だったみたいで。……まあ、とにかく、その記憶から妖怪と幽霊が繋がっているというのが分かったんだ。だから幽霊を探して父親について知っていることを聞き出す事を続けてる。それと併せて、妖怪の居場所や弱みを聞き出したりもしてる。大半は口を割らないか、全く知らないかのどちらかだけどな」
 野沢が新しい煙草に火をつけた。
「なるほどな。んで、いざ情報収集してみれば、何かしら事情を知る幽霊と妖怪はお前のことを避けていることが分かったと」
「去年の夏。心霊スポットで有名な緑葉荘に住む幽霊を脅かして聞き出しました。父親が私を真相から遠ざけているらしいんです。全くなんでなのやら。……とにかくそういうワケがあるので、電車に飛び込むような命を顧みないアッキーが必要なのです」
 彼は煙をふかし、アマネの肩を小突いた。
「そこまで事情を聞かされたらしょうがないわな。俺も父親の真意が気になってきたし。手伝ってやるよ」
 アマネがあっはっはと嬉しそうな笑い声をあげる。
「やったぜ! さらに私の相棒になるのは如何です? なってくれればいろんな『妖技』を教えちゃいますぜ?」
 野沢にぐっと身を寄せるアマネ。野沢はそんなアマネの視線から目を逸らして、小さく答える。
「……まあ考えといてやる」

「おっ! アッキー! 誰かいましたよ!」
 と、唐突に声を張り上げたかと思いきや、アマネがバタバタと暗闇の角に消えていった。
「こんな寂れた廃校に誰かいるわけないだろうが。肝試しに来る物好きでも寄り付かねえっての」
「アッキー! 逃げろおおお!」
 と、暗闇の角からアマネがこちらへと駆け寄ってきたかと思いきや、そのまま野沢を通り過ぎていく。
「どうしたってんだ天狗様。妖技とやらで撃退したら良いだろ」
「今日は羽団扇をもってきていないんだっ! あれが無いと大人数相手は無理! とにかく後ろ! 後ろ!」
「あぁ?」
 のろりと後ろを振り向くと、サッカーのユニフォームを着た大勢の男たちが猛スピードでこちらに迫ってきた。
「うおおおおお!? つかどうして俺にも見えるんだ!?」
「私の側にいるからですよっ! 個人差はありますが!」
「冗談じゃねえ!」

 とっさに身を翻し、アマネの隣に並ぶ野沢。
「なんなんだよあいつら! ざっと見ても百人はいるぞ!?」
「あっはっは! きっと初戦敗退とかした部員たちの集まりじゃないですか? これだから廃墟巡りは面白い!」
「んなアホな!」
 アマネが後ろにチョンチョンと指をさす。
「アッキー。気づきましたか?」
「何がだよ」
「一人だけ生きてる人間がいますね」
「え、まじかっ!」
 ばっと首だけ後ろに向ける。すると先頭の中心に、大量のお饅頭を胸に抱えたまま、ひいひい言いながら、涙を流しているサッカー部員がいた。
 顔を前に戻して、アマネに声を掛ける。
「おい、なんか『助けて』と言いたげな顔してるぞ」
「ですねぇー。まあひとまず一階まで降りて、グラウンドを目指しましょ!」
 親指を突き立てた右手を差し出し、妙案我にアリ! と言いたげなドヤ顔を決めたアマネを、野沢は冷めた表情で見つめた。
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