ネイキッド・タートル

水辺右京

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冒頭

闇夜

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 闇夜を一人の男が走っていた。
 男の顔は苦痛で歪み、額からは大粒の汗が流れていた。
 歯を食いしばり、今にも倒れそうな己の体に鞭を打つ。
 男の心と身体はもはや同一性を保っていなかった。
 裸族である男は可能な限り裸でいる必要があったが、彼に敵対する者に容赦のない仕打ちを受けたのだった。
 それは己の意思を持つ洋服。
 普段はナノ単位の粒子だが、人の体内に取り込まれると意思を持って衣服を形成する。
 裸でいたい彼の意志とは別に、一瞬でも気を抜けば服を着させられる。
 そんな極限の状態であるにも関わらず、彼は走っていた。
 彼が守りたいもののために――。
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