158 / 162
第五章 パラレル
第159話 OVER
しおりを挟む
『アルファ。ディスィズ・エコー。オーバー』
ガッ。
『ディスィズ・アルファ。エコー、どうした? オーバー』
ガッ。
『|マルタイの車両、後方1キロを追尾する車両あり。指示を仰ぐ。オーバー』
ガッ。
『エコーチームで追尾車両の情報調査。その後報告。オーバー』
ガッ。
『エコー、コピー』
トランシーバーの送信ボタンを押すたびに発する短いノイズがイヤホンを通じて耳を刺す。
朧です。
現在我々は、華名咲さんの警護及びMSの施設内を調査するために潜入中。複数のチームで対応している。
当然、華名咲さんが現在乗車中の車両についても我々の目が離れることはない。
華名咲さんは、今回の重要なマルタイ――つまり警護対象――であり、我々は命に換えても彼女の身を守り、MSが関与していると思われる特許絡みの一連の事件の情報を探る使命を帯びている。
取り分け一連のMS絡みの案件には、先々代の無念を晴らす意味もあるので十一夜家が総力を上げて取り組む覚悟だ。
そして、何よりもうひとつ。この華名咲のお嬢さんは圭にとっても特別な女性のようだ。
あの日頃高校生とは思えない冷静さと、時にふてぶてしくさえある圭が、彼女のことになると珍しいくらいに熱い。我々にとって感情に支配されることはご法度だが、逆に圭には多少はそういうところがあった方が良さそうに思える。
何しろあの子のことは幼い頃から目をかけてきたのだ。
まだ小学生の時分にあんなことがあって、すっかり性格が変わってしまったが、最近の彼を見ていると、あともうちょっとで一皮むけそうな気がする。
あんなことというのは、少女だったあの子が少年になったのだ。
それで圭は、元々自分でMSのことは調査していたようだが、いくら我々でもひとりでできることは限られている。奇しくも今回十一夜が総力を上げて取り組むことになり、格段に調査は進みだした。
そうこうしているうちに、調査班から件の追尾車両に関する情報が送られてきた。
車両の所有者の情報はもちろんのこと、その家族構成どころかクレジットカードの使用明細から戸籍に至るまで、あらゆるデータというデータにアクセス可能な専門チームだ。
データは分析チームにも共有されるので、集まった情報はすべて分析・解析が行われ、策定チームによるプランニングの礎ともなるので非常に重要だ。
もうすぐ華名咲さんたちが現着するので、わたしも一足先に潜って仕込みをしておこうと思う。
現場は機械警備が基本のようで、常駐の門番が二人いるのが窺える。離れた位置から外塀を一周して、防犯カメラの死角や人目につかない場所を確認する。
現在わたしは単独行動中だが、侵入ルートを決めて、モバイルデバイスの専用アプリを使って自分の位置情報をチームに共有する。
塀に近づき、中の様子をスコープカメラで確認するが人はいないようだ。
自分の身長より高い塀だが、鍛錬している我々にとってどうということはない。いっきに飛び越えて建屋まで走る。
どうやらボイラールームらしい。鍵がかかっているが、いざというときには一時退避するのに良いだろう。このタイプの施錠に使える万能キーを試してみる。
ピンシリンダーの形状に合わせてキーウェイ(鍵のギザギザ)がフィットするようにできている優れものだ。
問題なく解錠できることを確認し、施錠しておく。
次に本館の非常階段を上がりながら各階の出入口の解錠が可能か確認していくが、特に問題もなく屋上まで上がった。いや、屋上へはよじ登ったと言うべきか。
屋上には監視カメラもなく、我々のようなものからすればずさんな警備体制と言うよりない。
さて、そろそろ内部を散策してみるとするか。
屋上の出入口も解錠して階下を降りる。人気はないようだ。
スタッフの休憩室か。現在は誰もいないようなので覗いてみることにする。
奥の角のスペースにはPCデスクと古めのデスクトップPCが据えられている。USBポートに端末を接続してあとは解析班が黙っていてもやってくれるのでこのまま時間が許す限りはこのまま放置だ。
更衣室のロッカーも念のためひとつひとつチェックしていく。これも任務にためであり、おかしなことを考えたりはしない。本当だ。
と、そこへ車両の追跡チームから到着を知らせる無線が入る。いよいよか。
わたしは建物の中を徘徊しながら頭の中に入っている図面とすり合わせていく。
華名咲さんの方も上手くやっているようだ。
おや、これは。足は止めずに華名咲さんたちの様子に注意を注ぐ。
別の人物が登場したようだが、招かれてきたわけではないようだ。
さて、そろそろいい頃合いか。先程のPCの部屋まで戻ってUSBポートに接続していた機器を外す。
『ディスィズ・エコー。全チームへ。確認しました。追尾していた車両の所有者と思われます。本人の自己紹介通り中野恵美子、45歳。夫は早慶大学教授の中野等、60歳』
一応最低限の情報を華名咲さんにも伝える。
しばらくやり取りに耳を傾けていると、どうやらこの中野という女性もMS関係者らしいが、油田という人物とはどうも考えが違うようだ。
『ディスィズ・チャーリー。アルファへ追加情報あり。オーバー』
恐らく中野という女性についての追加情報だろう。
『チャーリー。ディスィズ・アルファ。追加情報頼む。オーバー』
『中野恵美子と油田修巳ですが、それぞれ対立する派閥に属する関係ですね』
なるほど。会話を聞いていても察することができる。あまり仲が良いとは言えそうにない。
『しかし奇妙なことに、この二人、男女の関係でもあります。オーバー』
何だと? ということはダブル不倫か。まったくもう、けしからん。何ていかがわしい連中だ。
宗教が聞いて呆れる。
あまり高校生に聞かせたい関係ではないな。まぁ、現時点でわざわざ教える理由も特になさそうか。
しかしこの中野という女。かなり挑戦的だな。
華名咲さんが席を外した。
残った二人は時々お互いに引き下がれと言い合っているが、激昂するような事態に発展することはない。この辺りの加減が、そういうことなのだろう。
華名咲さんから、警備についての情報を得たと連絡が来る。我々からしたらここの警備状況などあってないようなものだが、使える情報は多いに越したことはない。
どうやらメモとして持っているようなので、トイレに置いてもらうように伝える。
なら先にトイレに向かうか。
『ディスィズ・チャーリー。アルファへ。オーバー』
ん? 何かまた追加情報でもあるのか。
「チャーリー。ディスィズ・アルファ。どうした? オーバー」
『マルタイの学校の教師、木下優子が来ています。恐らくマルタイのところへ向かっていると思われ、心拍数の上昇を確認。オーバー』
木下優子が? 一体何の用だ。
離れた場所から対象の体温や心拍数を検知する特殊なカメラを使っているのだ。
「ディスィズ・アルファ。一旦そのまま見守る。オーバー」
『コピー』
心拍数の上昇が見られるということは、興奮状態にある可能性が考えられる。MS信者であることは分かっているが、今日は一体どういう関わりだ?
そう思って音声を通して様子を窺っていると、生徒に手を出すなとかなりの興奮状態で乱入してきた。
どうやら危害を加えるためではなく、自分の生徒を守ろうとやってきた様子だ。
熱心なMS信者ということで敵対的な関係かと踏んでいたが、どうやら一概にそうとも言えないらしい。
木下優子は中野恵美子の指示で連行されていったようだ。
トイレでメモを改修後、近くの点検口から天井裏に上がった。
木下優子の状況を確認するためだ。
天井自体は意外と脆いのでうかつに体重をかけると踏み抜いたり、重みで天井が下がったりする。そのため点検口を開けて潜入時の我々のマストアイテムである携帯型のワイヤーフックを天井裏の丈夫なハリや軽天にかけて上る。
図面を思い浮かべて連行されるとしたらどこか推察する。
天井裏は結構広い作りで移動しやすい。推察に基づいて移動すると、すぐに荒い声が聞こえてきた。
ビンゴだ。
天井にに小さな穴を開けてマイクロスコープで室内を窺うと、木下優子が後ろ手に縛られ無理やり注射されるところだった。恐らく睡眠系の薬物だろうと思うが、すぐに気を失うように意識を手放した。
我々も手段を選ばない方だが、この連中は薬物についてちゃんと理解した上で使っているのだろうか。
十一夜は伝統的に薬物については徹底的に教え込まれているので間違うことはまずない。
薬物の使用は本当に専門知識がないと危険だということを分かっているのだろうか。
華名咲さんがかなりお冠のようだ。一応落ち着かせるか。
木下優子が現状眠らされているだけだと伝えると、ある程度落ち着いたようだ。実際は縛られて眠らされているが、わざわざ教えてやる必要はないだろう。
しばらくは食事会の様子を音声で確認しつつ、天井裏を移動しながら各部屋に降りては物色した。
本格的な捜査は、夜になって人気がなくなってからだ。
そうこうしている間に、会食はどうにか終わったようで華名咲さんは帰路につくことになった。
彼女のことは追跡チームに任せてわたしはこの後もこちらに待機だ。
再び木下優子がいる部屋の上まで移動してしばらくすると、どうやら彼女を運び出す様子だ。
下手なことはできないはずだが、彼女をどうするつもりだろうか。待機中の別チームに後を追わせることにする。
「ディスィズ・アルファ。チームブラボーへ、木下優子の追跡任務を命ずる。オーバー」
ガッ。
『ディスィズ・ブラボー。木下優子の追跡、コピー』
さて、長い夜になりそうだ。
――――――――――――――――――――――――
※1 アルファ、エコー:無線でのやり取りで聞き違いや聞き漏らしがないよう、フォネティックコードと呼ばれる言い回しを採用している。各アルファベットには無線通信用のフォネティックコードが割り当てられている。Aはアルファ、Bはブラボー、Cはチャーリー、Dはデルタといった具合に全てのアルファベットに対して設けられている。
※2 オーバー:やはり無線通話時に使われている。「どうぞ」の意味。会話がまだ続き返答を待っているという意味を含む。英語のOver。
※3 コピー:了解を意味する英語のCopy thatを略した言い方。無線使用時にわざわざこうして一部英語を使用しているが、本当は別に「了解」とか「どうぞ」で構わない。朧さんが率いる部隊では全てこれで統一されている。朧さんが色々とかぶれているためである。
ガッ。
『ディスィズ・アルファ。エコー、どうした? オーバー』
ガッ。
『|マルタイの車両、後方1キロを追尾する車両あり。指示を仰ぐ。オーバー』
ガッ。
『エコーチームで追尾車両の情報調査。その後報告。オーバー』
ガッ。
『エコー、コピー』
トランシーバーの送信ボタンを押すたびに発する短いノイズがイヤホンを通じて耳を刺す。
朧です。
現在我々は、華名咲さんの警護及びMSの施設内を調査するために潜入中。複数のチームで対応している。
当然、華名咲さんが現在乗車中の車両についても我々の目が離れることはない。
華名咲さんは、今回の重要なマルタイ――つまり警護対象――であり、我々は命に換えても彼女の身を守り、MSが関与していると思われる特許絡みの一連の事件の情報を探る使命を帯びている。
取り分け一連のMS絡みの案件には、先々代の無念を晴らす意味もあるので十一夜家が総力を上げて取り組む覚悟だ。
そして、何よりもうひとつ。この華名咲のお嬢さんは圭にとっても特別な女性のようだ。
あの日頃高校生とは思えない冷静さと、時にふてぶてしくさえある圭が、彼女のことになると珍しいくらいに熱い。我々にとって感情に支配されることはご法度だが、逆に圭には多少はそういうところがあった方が良さそうに思える。
何しろあの子のことは幼い頃から目をかけてきたのだ。
まだ小学生の時分にあんなことがあって、すっかり性格が変わってしまったが、最近の彼を見ていると、あともうちょっとで一皮むけそうな気がする。
あんなことというのは、少女だったあの子が少年になったのだ。
それで圭は、元々自分でMSのことは調査していたようだが、いくら我々でもひとりでできることは限られている。奇しくも今回十一夜が総力を上げて取り組むことになり、格段に調査は進みだした。
そうこうしているうちに、調査班から件の追尾車両に関する情報が送られてきた。
車両の所有者の情報はもちろんのこと、その家族構成どころかクレジットカードの使用明細から戸籍に至るまで、あらゆるデータというデータにアクセス可能な専門チームだ。
データは分析チームにも共有されるので、集まった情報はすべて分析・解析が行われ、策定チームによるプランニングの礎ともなるので非常に重要だ。
もうすぐ華名咲さんたちが現着するので、わたしも一足先に潜って仕込みをしておこうと思う。
現場は機械警備が基本のようで、常駐の門番が二人いるのが窺える。離れた位置から外塀を一周して、防犯カメラの死角や人目につかない場所を確認する。
現在わたしは単独行動中だが、侵入ルートを決めて、モバイルデバイスの専用アプリを使って自分の位置情報をチームに共有する。
塀に近づき、中の様子をスコープカメラで確認するが人はいないようだ。
自分の身長より高い塀だが、鍛錬している我々にとってどうということはない。いっきに飛び越えて建屋まで走る。
どうやらボイラールームらしい。鍵がかかっているが、いざというときには一時退避するのに良いだろう。このタイプの施錠に使える万能キーを試してみる。
ピンシリンダーの形状に合わせてキーウェイ(鍵のギザギザ)がフィットするようにできている優れものだ。
問題なく解錠できることを確認し、施錠しておく。
次に本館の非常階段を上がりながら各階の出入口の解錠が可能か確認していくが、特に問題もなく屋上まで上がった。いや、屋上へはよじ登ったと言うべきか。
屋上には監視カメラもなく、我々のようなものからすればずさんな警備体制と言うよりない。
さて、そろそろ内部を散策してみるとするか。
屋上の出入口も解錠して階下を降りる。人気はないようだ。
スタッフの休憩室か。現在は誰もいないようなので覗いてみることにする。
奥の角のスペースにはPCデスクと古めのデスクトップPCが据えられている。USBポートに端末を接続してあとは解析班が黙っていてもやってくれるのでこのまま時間が許す限りはこのまま放置だ。
更衣室のロッカーも念のためひとつひとつチェックしていく。これも任務にためであり、おかしなことを考えたりはしない。本当だ。
と、そこへ車両の追跡チームから到着を知らせる無線が入る。いよいよか。
わたしは建物の中を徘徊しながら頭の中に入っている図面とすり合わせていく。
華名咲さんの方も上手くやっているようだ。
おや、これは。足は止めずに華名咲さんたちの様子に注意を注ぐ。
別の人物が登場したようだが、招かれてきたわけではないようだ。
さて、そろそろいい頃合いか。先程のPCの部屋まで戻ってUSBポートに接続していた機器を外す。
『ディスィズ・エコー。全チームへ。確認しました。追尾していた車両の所有者と思われます。本人の自己紹介通り中野恵美子、45歳。夫は早慶大学教授の中野等、60歳』
一応最低限の情報を華名咲さんにも伝える。
しばらくやり取りに耳を傾けていると、どうやらこの中野という女性もMS関係者らしいが、油田という人物とはどうも考えが違うようだ。
『ディスィズ・チャーリー。アルファへ追加情報あり。オーバー』
恐らく中野という女性についての追加情報だろう。
『チャーリー。ディスィズ・アルファ。追加情報頼む。オーバー』
『中野恵美子と油田修巳ですが、それぞれ対立する派閥に属する関係ですね』
なるほど。会話を聞いていても察することができる。あまり仲が良いとは言えそうにない。
『しかし奇妙なことに、この二人、男女の関係でもあります。オーバー』
何だと? ということはダブル不倫か。まったくもう、けしからん。何ていかがわしい連中だ。
宗教が聞いて呆れる。
あまり高校生に聞かせたい関係ではないな。まぁ、現時点でわざわざ教える理由も特になさそうか。
しかしこの中野という女。かなり挑戦的だな。
華名咲さんが席を外した。
残った二人は時々お互いに引き下がれと言い合っているが、激昂するような事態に発展することはない。この辺りの加減が、そういうことなのだろう。
華名咲さんから、警備についての情報を得たと連絡が来る。我々からしたらここの警備状況などあってないようなものだが、使える情報は多いに越したことはない。
どうやらメモとして持っているようなので、トイレに置いてもらうように伝える。
なら先にトイレに向かうか。
『ディスィズ・チャーリー。アルファへ。オーバー』
ん? 何かまた追加情報でもあるのか。
「チャーリー。ディスィズ・アルファ。どうした? オーバー」
『マルタイの学校の教師、木下優子が来ています。恐らくマルタイのところへ向かっていると思われ、心拍数の上昇を確認。オーバー』
木下優子が? 一体何の用だ。
離れた場所から対象の体温や心拍数を検知する特殊なカメラを使っているのだ。
「ディスィズ・アルファ。一旦そのまま見守る。オーバー」
『コピー』
心拍数の上昇が見られるということは、興奮状態にある可能性が考えられる。MS信者であることは分かっているが、今日は一体どういう関わりだ?
そう思って音声を通して様子を窺っていると、生徒に手を出すなとかなりの興奮状態で乱入してきた。
どうやら危害を加えるためではなく、自分の生徒を守ろうとやってきた様子だ。
熱心なMS信者ということで敵対的な関係かと踏んでいたが、どうやら一概にそうとも言えないらしい。
木下優子は中野恵美子の指示で連行されていったようだ。
トイレでメモを改修後、近くの点検口から天井裏に上がった。
木下優子の状況を確認するためだ。
天井自体は意外と脆いのでうかつに体重をかけると踏み抜いたり、重みで天井が下がったりする。そのため点検口を開けて潜入時の我々のマストアイテムである携帯型のワイヤーフックを天井裏の丈夫なハリや軽天にかけて上る。
図面を思い浮かべて連行されるとしたらどこか推察する。
天井裏は結構広い作りで移動しやすい。推察に基づいて移動すると、すぐに荒い声が聞こえてきた。
ビンゴだ。
天井にに小さな穴を開けてマイクロスコープで室内を窺うと、木下優子が後ろ手に縛られ無理やり注射されるところだった。恐らく睡眠系の薬物だろうと思うが、すぐに気を失うように意識を手放した。
我々も手段を選ばない方だが、この連中は薬物についてちゃんと理解した上で使っているのだろうか。
十一夜は伝統的に薬物については徹底的に教え込まれているので間違うことはまずない。
薬物の使用は本当に専門知識がないと危険だということを分かっているのだろうか。
華名咲さんがかなりお冠のようだ。一応落ち着かせるか。
木下優子が現状眠らされているだけだと伝えると、ある程度落ち着いたようだ。実際は縛られて眠らされているが、わざわざ教えてやる必要はないだろう。
しばらくは食事会の様子を音声で確認しつつ、天井裏を移動しながら各部屋に降りては物色した。
本格的な捜査は、夜になって人気がなくなってからだ。
そうこうしている間に、会食はどうにか終わったようで華名咲さんは帰路につくことになった。
彼女のことは追跡チームに任せてわたしはこの後もこちらに待機だ。
再び木下優子がいる部屋の上まで移動してしばらくすると、どうやら彼女を運び出す様子だ。
下手なことはできないはずだが、彼女をどうするつもりだろうか。待機中の別チームに後を追わせることにする。
「ディスィズ・アルファ。チームブラボーへ、木下優子の追跡任務を命ずる。オーバー」
ガッ。
『ディスィズ・ブラボー。木下優子の追跡、コピー』
さて、長い夜になりそうだ。
――――――――――――――――――――――――
※1 アルファ、エコー:無線でのやり取りで聞き違いや聞き漏らしがないよう、フォネティックコードと呼ばれる言い回しを採用している。各アルファベットには無線通信用のフォネティックコードが割り当てられている。Aはアルファ、Bはブラボー、Cはチャーリー、Dはデルタといった具合に全てのアルファベットに対して設けられている。
※2 オーバー:やはり無線通話時に使われている。「どうぞ」の意味。会話がまだ続き返答を待っているという意味を含む。英語のOver。
※3 コピー:了解を意味する英語のCopy thatを略した言い方。無線使用時にわざわざこうして一部英語を使用しているが、本当は別に「了解」とか「どうぞ」で構わない。朧さんが率いる部隊では全てこれで統一されている。朧さんが色々とかぶれているためである。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説




隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる