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第五章 パラレル

第138話 ガジェット・グルーヴ

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 押せと仰る。うーん、押せと仰るか十一夜君。はてさて、やはりここはひとつ心を鬼にして攻めるべきか。
 と、覚悟を決めたその時、黛君の方から重い口を開いた。

「僕がこことは違う世界線から来たっていうのは本当だ」

 マジかよぉ~。こっちから言わせといてなんだけど、そんな厨二病みたいな話本気か?
 まあ顔を見る限りでは至って真剣。嘘を吐いてるようには見えないよなぁ。

「だけど君が特異点だと言うなら、君もそうなのか?」

 私が真偽についてあれこれ考えていたら、向こうから質問された。

「それが、そんな自覚は全然ないんだよねぇ。黛君はさぁ、自分が異世界からやってきたっていう自覚も記憶もはっきりしてるわけ?」

「あぁ、そうだよ。そもそも前の世界に嫌気が差して別の世界にやってきたんだ。まさかこっちで今みたいなことになるとは想定外だったんだけど……」

 嫌んなってやってきた? 想定外? うーん……ま、色々あったんだろうな……。

「黛君の元いた世界ってさぁ、世界線超えちゃえるような技術を持ってるくらいだから、こっちより科学が相当進んでたわけだよね?」

「うん……確かにね、部分的には」

「ふーん。じゃあきっとよっぽど便利な生活だったろうと思うんだけど、それを捨ててまでこっちに来たいくらい嫌なことがあったってことだぁ……」

 それが何なのかは分からない。けど、十一夜君の話では、向こうは終末的な世界のようだ。とすると、かなり退廃的な社会情勢なのかなという気はする。

「あぁ。向こうじゃ日本は軍国主義で核保有国だ。徴兵制度もあるし、最近は帝国主義的な思想を持つ人たちまで散見される。どんどん世の中の風潮が右傾化していると感じるよ」

「へぇ~、この日本がねぇ……」

 何ともイメージしにくい話だ。お祖父ちゃんあたりならまだ想像できるだろうか。
 平成の世に産み落とされたわたしたちじゃ、ちっとも想像付かない向こうの世界線の日本。

「こっちの世界線の日本がこんなに平和なところだとは思わなかった。そもそも世界線を移動するのも一か八かの賭けみたいなもんだったんだ」

 黛君は腹が決まったのか、普通に話してくれそうな雰囲気だ。でも、賭けみたいなもんってどういう意味?

「どういうこと?」

「そもそも僕らは移動先の世界を自由に選べるわけじゃない。こちらではパラレルワールドとか平行世界と呼ばれているみたいだけど、厳密には真っ直ぐ平行な世界が並んでいるっていう訳ではないみたいなんだ。それぞれの世界には無数の枝分かれがあって、重なり合っていたり、非常に近い世界線が横たわっていたり、様々なんだ。我々が移動できるのは、別の世界線でも極々一部の重なり合っている部分に限定されていて、しかもその移動先がどういう世界なのか向こうから知る術がないんだ」

 何かややこしい話だ。いまいちピンときてないけど、きっと盗聴している十一夜君が分かってくれてるだろう。難しいことは十一夜家に丸投げだ。

「ふぅん……話を戻すと、私は本当にこの世界で生まれ育って来た記憶しかないんだ。だから、あのMSの胡散臭いおじさんが言う特異点っていうのが、何を指しているのか全然分かんない。多分黛君みたいに異世界からやってきたとかじゃないと思うんだよねぇ」

「うーん……」

 黛君も唸っている。

「そもそも私が特異点っていう話はどこから出てきたんだか……あれ、ていうかさぁ、黛君が異世界人だってことはどうやってこっちの研究機関やMSにバレたわけ? 自分でコンタクト取った?」

「あぁ、そのことか……それはまぁ、向こうの世界から持ち込まれたアーティファクトのせいだよ。僕らから見たらこっちで言うただのガジェットに過ぎないんだけどね」

「アーティファクト?」

 SF小説か何かでたまに目にする単語だけど、よく分からんっ。十一夜君に丸投げ決定。

「あぁ。実は僕より先にこっちの世界に流れ着いた人物がいて、その人によって持ち込まれたガジェットによって、特異点として感知されてしまったらしい」

「へぇ~。それにしても私がそのなんちゃらに引っかかるのが不思議な話なんだけど? そう言えば、私に接触してきた例のMSのおじさんが言うには、磁場が違うんだとか言ってた。それのことかな?」

「磁場? うぅん……磁場ねぇ。実際のところは磁場を計測するわけじゃないんだけど……そう言えば磁場がどうとか言ってた気もするなぁ、捕まってた時に。しかし、その奴らがあれを持っているってことか……他にもこの世界にやってきた人間がいたということだろうか……僕が持ち込んだものは、野犬に追われていた時にバッグごと水没させて壊れちゃったしなぁ」

 そう言って黛君は考え込んでしまった。
 なるほど、そのアーティファクトとやらを使えば異世界人――少なくとも特異点――を見つける目安になるわけか。しかしその機械を持ち込んだ先人はすでに亡くなっていると聞いている。そして、その機械は国の例の研究機関が保有しているということか。
 それなのにMSも何らかの手段でそのアーティファクトに比するような物を所有していると。
 うぅん……。私も考え込む。
 てか、野犬に追われて荷物を川かどこかに落っことす、あるいは体ごと落っこちる黛君を想像してしまった。フフフ。

「いや、向こうの世界じゃ野犬なんか滅多に見かけなかったからね。びっくりしちゃったんだよ。こっちの世界のことは何にも知らない状態なわけだし」

 言い訳してくる黛君だが、私の脳内の妄想を察知されてしまったのだろうか。鋭い。

「そっかぁ。なるほどね、大変だったね」

「あっ、もしかしてM/F値のことだろうかっ」

 矢庭に何か思い出した様子の黛君だが、さっき私の口を塞いで静かにって言ってたのもう忘れたの? 自分の声がおっきいよ。
 
「M/F値?」
 
 それにしてもM/F値って何の話? 何それ美味しいの? ってな状態で首を傾げた私だった。
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