TS女子になるって、正直結構疲れるもんですよね。

星加のん

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第五章 パラレル

第131話 ふたり

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 翌日から朧さんが再びわたしの警護に就いてくれることになった。
 MSにわたしの存在が認知されたのかと思うと穏やかじゃない。朧さんが常時警護してくれると思えばかなり安心できる。ちょっと癖のある人ではあるけれど。
 ただ前の時と違って今は十一夜君と普通に接触できているので、わざわざこちらから書店に出向いて朧さんに接触することも多分ないのかな。
 そう考えると少し寂しいかも。

 そんなことを思いながら登校すると、ディディエが例のタユユとのツーショット写真でバズった影響で教室は大騒ぎだった。
 一体どういう経緯でタユユと会って一緒に写真取るような事態になったのか、みんな興味津々だったらしい。
 まぁ、事情を知るわたしと秋菜としてはある程度想定していたことなので、昨夜は今後の対応についての対策会議を行うはめになった。
 当事者であるディディエと祐太、そしてわたしと秋菜が集まったのを嗅ぎつけた妹の梨々花も仲間に入れろと聞かないため、結局梨々花にまでタユユについて説明せざるを得なくなった。
 梨々花はと言えば、これでディディエ以外みんな女の子になったねなどと無邪気に喜んでいたが、この何でも受け入れる懐の深さはわたしのことがあっての変化だろうかと若干心配になったよ。

 話が逸れたが、タユユの正体については今後も秘密にしていこうという方向でまとまった。
 それで色々と話し合ったのだが、結果的にはディセットの編集長の瀬名さんに事情を話して協力を仰ぐという大事になってしまった。秋菜のコネを使って雑誌社の主催するコスプレイベントに行ったときに一緒に撮ってもらったのだということにしたのだ。
 瀬名さんはと言えば、長身で品のいいイケメンであるディディエにモデルとして協力してもらえるという条件に、一も二もなく二つ返事で快諾してくれた。まぁ、ディディエの残念イケメンぶりについては瀬名さんもまだ知らないところだからな。

 そんな当のディディエはのんきな性格でいまいち掴み所がないのだが、ちゃんと秘密を守れるのだろうかと一抹の不安を感じている。
 それと何と言っても祐太だ。あいつはホント危機管理がなってないというか、お坊ちゃん気質だから甘いんだよな、色々と。この男子二人は心配が尽きないのだ。

 そんなわけで教室で囲まれるディディエのアシストに明け暮れたような一日だった。そんな状態でいささかヘトヘトになりながらやっと帰宅できる段となって、十一夜君から声をかけられた。

「華名咲さん、ちょっといいか」

 新しい情報でも入ったんだろうか。十一夜君から声がかかれば断る理由もない。秋菜に連絡して別々の帰宅にしてもらい、いそいそ十一夜君と学校を出る。

「すみれさんから貰った電話番号の主とやっと連絡が取れたんだよ」

「あぁ、あの時の⁉︎」

「あぁ、それで電話では話ができないと言うからこの後会うことになってる」

「そうなんだね……大丈夫なの?」

「さあね。すみれさんってのがどれくらい信用できるんだか分かんないが、この身に関しちゃ何も心配いらないよ。むしろ問題はどの程度話してもらえるのかだな。本当に話してもらえるのか……しかも一見ただの高校生にしか見えない僕なんかにね」

 そう言って自虐的に自分のことを言うが、普通に見えるのは見た目だけのことだ。十一夜君の手にかかればその見た目ですらも武器にして自分に有利にしてしまう気がする。

「だけど十一夜君。そんなこと言っても虚し手で帰ってはこない気がするな」

「まぁな」

 出た。久しぶりに聞いた気がする十一夜君のこの返事。

「何かおかしかったか? にやにやして」

 いかんいかん。何だか以前の十一夜君がいっつもその素っ気ない返事ばっかりだったなと思い出したら可笑しくなっちゃったよ。

「うぅん、別に。ふふ」

「ほら、また笑った。何だよ? ちゃんと言ってくれよ」

「何でもないっ。うふふふふ」

 十一夜君が珍しく狼狽えている。その様子に何だかまた可笑しくなって笑いがこみ上げる。

「また笑ってる。ちぇっ」

 結構本気でわたしが笑ってることを気にしているようだ。ブスくれ顔の十一夜君とかレアだ。

「うわぁっ、ちぇっとか言う人初めて見たっ」

「もう勘弁してくれよ、まったく」

 十一夜君が結構本当に困ってる様子でおかしい。いつも頼り甲斐があるばかりの十一夜君が、この時ばかりは何だかかわいく見えてくるから不思議だ。

「ちょっとね……懐かしかっただけだよ」

「懐かしい? 何がだ?」

「内緒っ、教えなーい。えへへ」

 狼狽える十一夜君が面白くてついつい揶揄いたくなってしまう。

「まったく。華名咲さんには敵わないなぁ」

「おぉ~、十一夜君が敵わないなんて、なんかわたしすごくなった気がするっ」

「ホントだよ」

「あれれ。そんなこと簡単に認めちゃっていいのかなぁ?」

「……本当だよ」

「え……?」

 思いの外十一夜君の表情が真剣なものだから、ちょっと戸惑ってしまったわたしは、なぜだか急に恥ずかしくなって俯いた。
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