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第五章 パラレル
第129話 放課後ディストラクション
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「始まったわね……」
ニュース映像は湾岸地区の倉庫らしい場所が派手に燃える様子を映したものだ。男性レポーターがマイクとレポート用紙を手にして興奮した様子で中継している。
「え、すみれさん。始まったって、何がですか?」
すみれさんの発言からすれば、この火災についてすみれさんは何らかの情報を持っている、もしくは関与しているということになる。
「この廃工場に夏葉ちゃんのクラスメイトが拉致されていたのでしょうね。後始末までしっかりお願いしておいたのよ」
「後始末……?」
「ええ。わたしたちが拉致計画を邪魔した証拠が残ってちゃ困るでしょう? すでに警察も動き始めているし、MSさんとやらもやってることがバレるとお困りだと思うの」
お困りだと思うのって、そこは困らせてやりたい気がするけどそれでいいんだろうか。まぁ、すみれさんの身に何かあっても困るけどさ。
「それで、黛君を拉致した連中は?」
沈黙していた十一夜君がすみれさんに質問を投げかける。
すみれさんはすました様子で優しい微笑みを湛えると、十一夜君に向き直る。
「聴取できることはすべて聞き出してくれるはずよ。彼らもプロだから。報告は全て終わってからになるけどもね。犯人はその後マグロ漁にでも出ていただくことになるんじゃないかしら」
そう言ってまた優しい微笑みを湛えるすみれさん。だけど内容とチグハグすぎるんですがっ⁉
「マグロ漁ですか……。お仕置きにはもってこいですね」
黒モードの悪い顔をしてニヤリと片頬を吊り上げた聖連ちゃんが言う。確か前に十一夜君がマグロ漁に行ってもらうって言ってたことあったけど、よっぽどなんだろうな。
「あぁ、やっぱりマグロ漁だよな」
十一夜君も乗っかる。マグロ漁の裏稼業界での人気っぷりが怖いんですけどっ!
怖いわぁ、裏稼業の人たちって……。こういう人たちと普通に付き合ってるわたしって、普通の女子高生としてどうなんだって気もするな。まぁ、元男なのに今女子高生って普通じゃないっちゃないか。
「あぁ~、マグロ漁なぁ……」
って、じっちゃんもかっ⁉ 遠い目をしてけど、一体過去に何があったのっ⁉
とにかくみんながマグロ漁を連呼する中、ニュース映像で燃え盛っている廃工場の炎は一向に鎮火する気配がない。
「さてと。そろそろ続きよいかのぉ」
様子を窺うように――主にすみれさんの様子だが――武蔵さんがお伺いを立てる。
すみれさんからは特に静止を促すような合図もないので、じっちゃんの話が始まる。
「研究内容は平行世界間移動に関するもの。実験というのは平行世界間移動を実現するためのエネルギー制御に関するものじゃ」
「エネルギー制御……ですか」
あぁ、以前MS絡みでエントロピー・エンジンがどうのこうのと言う話が出ていたっけ。結局政府の極秘研究機関とやらもおんなじようなことを研究していたってわけか。だからMSも政府機関の研究に興味を持っていて黛君が狙われたってことなのかな。
「ああ、そうじゃな。まぁ、難しいことは儂にも分からんかったが、要するに平行世界間を移動するには膨大なエネルギーを要するらしい。そのエネルギーを発生させることが可能になったとしても、それを制御する術を持たねば意味がないじゃろう。ま、そのための研究と実験ということじゃろうな」
「ということは、黛君はその実験が成功した結果他の世界からやってきたと?」
「いやぁ、そう結論づけるのは時期尚早じゃろうのぉ」
あぁ、まあそれもそうか。だけど、それじゃあ結局今のところまだ何の進展もないってこと?
「こういうのはどうでしょうか」
とそこに割って入ってきたのは聖連ちゃんだ。何かアイディアがありそうだ。
「たとえば、黛先輩が並行世界間移動の技術がある世界から、まだその技術がないこの世界にやってきたと仮定したらどうでしょうか?」
「なるほど。それなら黛君のことをその政府関係の研究機関が囲っていてもおかしくないな。しかし問題はMSがどうやって黛君と自分たちの研究の関連性を結びつけたのかだな。それと華名咲さんがどう関わっているのか……」
聖連ちゃんの意見にいち早く反応したのは十一夜君だった。彼の言う通り、わたしが一体どう関わっているのだろうか。わたしは生まれてこの方この世界の住人だという自覚がある。ただ男として生まれたはずなのになぜか今は女子になってしまっているが。
「そうじゃのぉ。その辺りはまだまだ謎じゃな。それとじゃな。その研究資料の中に気になることが記されておったんじゃが、その例のMSの男が言っておったという磁場の話じゃ」
「あぁ、わたしと黛君の磁場が違うとか言ってた件ですね」
「それじゃ。関係あるかどうか分からんが、反物質と物質との間に質量も磁性も違いがなく等価であることがCERNの研究で判明しておるらしいのじゃが、違う世界間を移動することができたとしたら、そこが非等価になるらしい。意味分かるかの? 儂はよく分かっとらんのじゃが」
「なるほど。つまり質量や磁性など、本来反物質と物質との間で等価であるべきものが非等価であったなら、それは世界間移動が行われた証拠ということですね」
「おぉ、十一夜のお嬢ちゃん、飲み込みがいいなぁ」
武蔵じっちゃんに誉められて、聖連ちゃんが得意げにメガネをくいっと持ち上げた。ドヤ顔をしてもかわいい。
まぁ、なんかよく分からないけど、物質と反物質というのがあって、その間の磁性に違いがあったら何らかの異常であるってわけか。
それを測定する方法をMSが持っているっていうの? そんな大層なこと本当にできるんだろうか。ああいうのって巨大な施設を使って測定したりするようなイメージだけどなぁ。
どの道細かなことは分からないけど、何らかの方法でそれを測定する手段を持っていて、その結果わたしと黛君の磁性に異常が見られたってことなのかな。うぅむ、謎が謎を呼ぶとはこんな感じか。
この先どうなっていくんだろうか。
などと考えいたら、友紀ちゃんと楓ちゃんのグループトークが賑やかに着信を告げ始めた。
開いてみると、なんとそこにはタユユとディディエのコスプレツーショット写真が貼られていた。
こんなときに何してんのよ、この人達は……。
ニュース映像は湾岸地区の倉庫らしい場所が派手に燃える様子を映したものだ。男性レポーターがマイクとレポート用紙を手にして興奮した様子で中継している。
「え、すみれさん。始まったって、何がですか?」
すみれさんの発言からすれば、この火災についてすみれさんは何らかの情報を持っている、もしくは関与しているということになる。
「この廃工場に夏葉ちゃんのクラスメイトが拉致されていたのでしょうね。後始末までしっかりお願いしておいたのよ」
「後始末……?」
「ええ。わたしたちが拉致計画を邪魔した証拠が残ってちゃ困るでしょう? すでに警察も動き始めているし、MSさんとやらもやってることがバレるとお困りだと思うの」
お困りだと思うのって、そこは困らせてやりたい気がするけどそれでいいんだろうか。まぁ、すみれさんの身に何かあっても困るけどさ。
「それで、黛君を拉致した連中は?」
沈黙していた十一夜君がすみれさんに質問を投げかける。
すみれさんはすました様子で優しい微笑みを湛えると、十一夜君に向き直る。
「聴取できることはすべて聞き出してくれるはずよ。彼らもプロだから。報告は全て終わってからになるけどもね。犯人はその後マグロ漁にでも出ていただくことになるんじゃないかしら」
そう言ってまた優しい微笑みを湛えるすみれさん。だけど内容とチグハグすぎるんですがっ⁉
「マグロ漁ですか……。お仕置きにはもってこいですね」
黒モードの悪い顔をしてニヤリと片頬を吊り上げた聖連ちゃんが言う。確か前に十一夜君がマグロ漁に行ってもらうって言ってたことあったけど、よっぽどなんだろうな。
「あぁ、やっぱりマグロ漁だよな」
十一夜君も乗っかる。マグロ漁の裏稼業界での人気っぷりが怖いんですけどっ!
怖いわぁ、裏稼業の人たちって……。こういう人たちと普通に付き合ってるわたしって、普通の女子高生としてどうなんだって気もするな。まぁ、元男なのに今女子高生って普通じゃないっちゃないか。
「あぁ~、マグロ漁なぁ……」
って、じっちゃんもかっ⁉ 遠い目をしてけど、一体過去に何があったのっ⁉
とにかくみんながマグロ漁を連呼する中、ニュース映像で燃え盛っている廃工場の炎は一向に鎮火する気配がない。
「さてと。そろそろ続きよいかのぉ」
様子を窺うように――主にすみれさんの様子だが――武蔵さんがお伺いを立てる。
すみれさんからは特に静止を促すような合図もないので、じっちゃんの話が始まる。
「研究内容は平行世界間移動に関するもの。実験というのは平行世界間移動を実現するためのエネルギー制御に関するものじゃ」
「エネルギー制御……ですか」
あぁ、以前MS絡みでエントロピー・エンジンがどうのこうのと言う話が出ていたっけ。結局政府の極秘研究機関とやらもおんなじようなことを研究していたってわけか。だからMSも政府機関の研究に興味を持っていて黛君が狙われたってことなのかな。
「ああ、そうじゃな。まぁ、難しいことは儂にも分からんかったが、要するに平行世界間を移動するには膨大なエネルギーを要するらしい。そのエネルギーを発生させることが可能になったとしても、それを制御する術を持たねば意味がないじゃろう。ま、そのための研究と実験ということじゃろうな」
「ということは、黛君はその実験が成功した結果他の世界からやってきたと?」
「いやぁ、そう結論づけるのは時期尚早じゃろうのぉ」
あぁ、まあそれもそうか。だけど、それじゃあ結局今のところまだ何の進展もないってこと?
「こういうのはどうでしょうか」
とそこに割って入ってきたのは聖連ちゃんだ。何かアイディアがありそうだ。
「たとえば、黛先輩が並行世界間移動の技術がある世界から、まだその技術がないこの世界にやってきたと仮定したらどうでしょうか?」
「なるほど。それなら黛君のことをその政府関係の研究機関が囲っていてもおかしくないな。しかし問題はMSがどうやって黛君と自分たちの研究の関連性を結びつけたのかだな。それと華名咲さんがどう関わっているのか……」
聖連ちゃんの意見にいち早く反応したのは十一夜君だった。彼の言う通り、わたしが一体どう関わっているのだろうか。わたしは生まれてこの方この世界の住人だという自覚がある。ただ男として生まれたはずなのになぜか今は女子になってしまっているが。
「そうじゃのぉ。その辺りはまだまだ謎じゃな。それとじゃな。その研究資料の中に気になることが記されておったんじゃが、その例のMSの男が言っておったという磁場の話じゃ」
「あぁ、わたしと黛君の磁場が違うとか言ってた件ですね」
「それじゃ。関係あるかどうか分からんが、反物質と物質との間に質量も磁性も違いがなく等価であることがCERNの研究で判明しておるらしいのじゃが、違う世界間を移動することができたとしたら、そこが非等価になるらしい。意味分かるかの? 儂はよく分かっとらんのじゃが」
「なるほど。つまり質量や磁性など、本来反物質と物質との間で等価であるべきものが非等価であったなら、それは世界間移動が行われた証拠ということですね」
「おぉ、十一夜のお嬢ちゃん、飲み込みがいいなぁ」
武蔵じっちゃんに誉められて、聖連ちゃんが得意げにメガネをくいっと持ち上げた。ドヤ顔をしてもかわいい。
まぁ、なんかよく分からないけど、物質と反物質というのがあって、その間の磁性に違いがあったら何らかの異常であるってわけか。
それを測定する方法をMSが持っているっていうの? そんな大層なこと本当にできるんだろうか。ああいうのって巨大な施設を使って測定したりするようなイメージだけどなぁ。
どの道細かなことは分からないけど、何らかの方法でそれを測定する手段を持っていて、その結果わたしと黛君の磁性に異常が見られたってことなのかな。うぅむ、謎が謎を呼ぶとはこんな感じか。
この先どうなっていくんだろうか。
などと考えいたら、友紀ちゃんと楓ちゃんのグループトークが賑やかに着信を告げ始めた。
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