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第五章 パラレル
第123話 エニグマ変奏曲
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どうしよう……。今のって明かに拉致されたよね⁈
その場に茫然と立ち尽くしていると、隣に人が立つ気配を感じた。
「こんにちは」
にこやかに挨拶してきたスーツ姿の男性は、確かさっき黛君と一緒にいた人ではないかな。黛君が拉致されたというのに何にこやかに挨拶してきてんの、この人?
「こんにち……は?」
「黛君のことでしたら、ご心配いりませんよ」
「えっ? あのぉ……あぁ、えぇっと……」
何だろう、この人。にこやかにしてるけどなんか笑顔が怖い。それに黛君、さっき明らかに無理やり車に押し込まれた感じだったよね。
「華名咲夏葉さん、ですね。少しお話ししませんか」
「え? えぇ? あの、わたし」
「大丈夫ですよ。ご心配なく。このまま少しお話しするだけです」
笑みを湛えたまま、その男は穏やかな口調でそう話すが、有無を言わせないような圧を感じる。なんて胡散臭い雰囲気を纏っている人なんだろうか。
「華名咲さん。あなた、何か秘密がありますね?」
えぇっ⁉︎ 何だ何だ? 秘密ってあのことか? あのことだよね? でもそれを知ってる人はごくごく限られているし、そうそう外部に漏れるはずがない。
「まぁいいでしょう。秘密ですから簡単に明かせないのは分かります。ただねぇ、黛君とあなたは、この世界では特異な存在なんですなぁ」
黛君も? わたしは確かに異質といえば異質だけど、まさか黛君も性転換者なの⁈
「ど、どういうことでしょうか」
「おや、あなたもご存知ない? そうでしたかぁ。あなたなら何かご存知かと思っておったんですが、そうですか……そうすると黛君に聞くしかないのですが、彼もなかなか強情でしてねぇ。困ったものですな、ははは」
黛君には警護がついているはずなのに何をやっているんだ? あ、朧さんが素人みたいなもんだって言ってたな、そう言えば。わたしは思わずキーホルダーをギュッと握り締める。
「あなたが特異点であることは我々も掴んでいるんですよ。あなたの周りだけ磁場が違うんでね。我々の力を見誤らないことです。そのうち協力していただくことになると思いますのでね。わたしとしては荒ごとは望まないんです。できるだけお話し合いで穏便に交渉したいですね、今日のように。それでは、そろそろ時間のようですので失礼しますよ。あ、黛君は明日も学校はお休みです。今日のことは見なかったことにしてくださいね。そうでないと黛君がね……いや詳しい話はやめておきましょう。では」
言うや否やその男はその場を立ち去っていく。あっという間に路地の彼方へと姿を消してしまった。
茫然と立ち尽くすわたしの元へ、猛然とバイクを走らせてきたのは十一夜君だ。
「一足遅かったか。でも聖連に防犯カメラと警察のNシステムは追わせている。ひとまず華名咲さん、大丈夫だったか?」
「う、うん。大丈夫……来てくれてありがとう、十一夜君」
見上げると何故か十一夜君は気まずそうに目を逸らした。心なしか顔が赤い。よっぽど急いで来てくれたようだ。
「道中音声は録音しながら聴いてた。色々と気になることを言ってたな。ひとまず聖連と合流して話そう」
そう言うと十一夜君はわたしにヘルメットを渡し、聖連ちゃんに連絡を取っているようだ。バイクの後ろに乗れってことだろう。
「乗って、華名咲さん」
わたしがヘルメットを被ったところで十一夜君は電話を終えたようで、バイクに乗るよう促された。
促されるまま後ろに跨ると、不安定でちょっとバランスを失ってしまい、十一夜君の方につんのめってしまったが、日頃からハードに鍛えていると言うだけあって細く見えるわりにびくともしない。
「じゃあ出すよ」
カクンとギアが入ると、加速Gがかかり体が後方に持っていかれそうになる。ギュッと十一夜君に回した両腕に力を込めて踏ん張る。なんか久しぶりだなぁ、この感じ。妙に安心するけどスカートがパタパタたなびいて太腿が露出するのでちょっとばかし恥ずかしい。まぁ十一夜君には見えてないか。
近くのタリ◯ズに到着して飲み物を注文する。十一夜君は相変わらずの痩せの大食いっぷりでなんか色々注文している。
オーダー品を受け取って席に着くと、十一夜君はイヤホンでスマホから何か聞き始めた。わたしとスーツの謎の男とのやり取りを録音していたというので、おそらくそれを聞いているのだろう。
「うん。まず君と黛君が特異な存在だと言ってるな。どう言う意味だか分かるか?」
「うーん、多分わたしが女子化したことだとは思うんだけど、まさか黛君もとか? だけどそれなら十一夜君も丹代さんもだし? いまいちよく分かんないんだよね」
「うぅむ……女子化のことはこの口ぶりからは分かっていないように聞こえるな。向こうは具体的なことまで分かっている様子じゃないよね」
「あ、あと気になってたんだけど、黛君のお父さんって国家機密の研究に携わってるらしくて、黛君ってその関係で常に監視されてるはずなんだよね。一度本屋でわたしとばったり会って話したことがあって、その後わたしに監視がついたことがあったんだ」
「あぁ、その件なら朧から報告を受けてる。今日の騒動は黛君も関わっていて、且つ華名咲さんも関係しているわけだよなぁ。うーん……黛君もそうだという可能性は確かにある。我々の力を見誤るなと言ってるところからすると、相手は組織だよなぁ。MSと見るのが妥当か……」
その場に茫然と立ち尽くしていると、隣に人が立つ気配を感じた。
「こんにちは」
にこやかに挨拶してきたスーツ姿の男性は、確かさっき黛君と一緒にいた人ではないかな。黛君が拉致されたというのに何にこやかに挨拶してきてんの、この人?
「こんにち……は?」
「黛君のことでしたら、ご心配いりませんよ」
「えっ? あのぉ……あぁ、えぇっと……」
何だろう、この人。にこやかにしてるけどなんか笑顔が怖い。それに黛君、さっき明らかに無理やり車に押し込まれた感じだったよね。
「華名咲夏葉さん、ですね。少しお話ししませんか」
「え? えぇ? あの、わたし」
「大丈夫ですよ。ご心配なく。このまま少しお話しするだけです」
笑みを湛えたまま、その男は穏やかな口調でそう話すが、有無を言わせないような圧を感じる。なんて胡散臭い雰囲気を纏っている人なんだろうか。
「華名咲さん。あなた、何か秘密がありますね?」
えぇっ⁉︎ 何だ何だ? 秘密ってあのことか? あのことだよね? でもそれを知ってる人はごくごく限られているし、そうそう外部に漏れるはずがない。
「まぁいいでしょう。秘密ですから簡単に明かせないのは分かります。ただねぇ、黛君とあなたは、この世界では特異な存在なんですなぁ」
黛君も? わたしは確かに異質といえば異質だけど、まさか黛君も性転換者なの⁈
「ど、どういうことでしょうか」
「おや、あなたもご存知ない? そうでしたかぁ。あなたなら何かご存知かと思っておったんですが、そうですか……そうすると黛君に聞くしかないのですが、彼もなかなか強情でしてねぇ。困ったものですな、ははは」
黛君には警護がついているはずなのに何をやっているんだ? あ、朧さんが素人みたいなもんだって言ってたな、そう言えば。わたしは思わずキーホルダーをギュッと握り締める。
「あなたが特異点であることは我々も掴んでいるんですよ。あなたの周りだけ磁場が違うんでね。我々の力を見誤らないことです。そのうち協力していただくことになると思いますのでね。わたしとしては荒ごとは望まないんです。できるだけお話し合いで穏便に交渉したいですね、今日のように。それでは、そろそろ時間のようですので失礼しますよ。あ、黛君は明日も学校はお休みです。今日のことは見なかったことにしてくださいね。そうでないと黛君がね……いや詳しい話はやめておきましょう。では」
言うや否やその男はその場を立ち去っていく。あっという間に路地の彼方へと姿を消してしまった。
茫然と立ち尽くすわたしの元へ、猛然とバイクを走らせてきたのは十一夜君だ。
「一足遅かったか。でも聖連に防犯カメラと警察のNシステムは追わせている。ひとまず華名咲さん、大丈夫だったか?」
「う、うん。大丈夫……来てくれてありがとう、十一夜君」
見上げると何故か十一夜君は気まずそうに目を逸らした。心なしか顔が赤い。よっぽど急いで来てくれたようだ。
「道中音声は録音しながら聴いてた。色々と気になることを言ってたな。ひとまず聖連と合流して話そう」
そう言うと十一夜君はわたしにヘルメットを渡し、聖連ちゃんに連絡を取っているようだ。バイクの後ろに乗れってことだろう。
「乗って、華名咲さん」
わたしがヘルメットを被ったところで十一夜君は電話を終えたようで、バイクに乗るよう促された。
促されるまま後ろに跨ると、不安定でちょっとバランスを失ってしまい、十一夜君の方につんのめってしまったが、日頃からハードに鍛えていると言うだけあって細く見えるわりにびくともしない。
「じゃあ出すよ」
カクンとギアが入ると、加速Gがかかり体が後方に持っていかれそうになる。ギュッと十一夜君に回した両腕に力を込めて踏ん張る。なんか久しぶりだなぁ、この感じ。妙に安心するけどスカートがパタパタたなびいて太腿が露出するのでちょっとばかし恥ずかしい。まぁ十一夜君には見えてないか。
近くのタリ◯ズに到着して飲み物を注文する。十一夜君は相変わらずの痩せの大食いっぷりでなんか色々注文している。
オーダー品を受け取って席に着くと、十一夜君はイヤホンでスマホから何か聞き始めた。わたしとスーツの謎の男とのやり取りを録音していたというので、おそらくそれを聞いているのだろう。
「うん。まず君と黛君が特異な存在だと言ってるな。どう言う意味だか分かるか?」
「うーん、多分わたしが女子化したことだとは思うんだけど、まさか黛君もとか? だけどそれなら十一夜君も丹代さんもだし? いまいちよく分かんないんだよね」
「うぅむ……女子化のことはこの口ぶりからは分かっていないように聞こえるな。向こうは具体的なことまで分かっている様子じゃないよね」
「あ、あと気になってたんだけど、黛君のお父さんって国家機密の研究に携わってるらしくて、黛君ってその関係で常に監視されてるはずなんだよね。一度本屋でわたしとばったり会って話したことがあって、その後わたしに監視がついたことがあったんだ」
「あぁ、その件なら朧から報告を受けてる。今日の騒動は黛君も関わっていて、且つ華名咲さんも関係しているわけだよなぁ。うーん……黛君もそうだという可能性は確かにある。我々の力を見誤るなと言ってるところからすると、相手は組織だよなぁ。MSと見るのが妥当か……」
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