TS女子になるって、正直結構疲れるもんですよね。

星加のん

文字の大きさ
上 下
103 / 162
第四章 Love And Hate

第104話 SUMMERTIME IN THE PLACE

しおりを挟む
 Tシャツとデニムの軽装で自転車を走らせて駅前にいく。
 真夏の蒸し暑い空気も自転車で切って走れば爽快だと感じられる程度にはまだ辛うじて朝の風を感じられた。

 目的の場所は駅前の書店だ。
 デニムのポケットには昨夜の丹代さんのメールをプリントして折りたたんだものが入っている。

 今日はあえて少女漫画雑誌のコーナーに陣取ってみたが、朧さんはどんな感じで出てくるのだろう。

「朧です」

 って普通かっ!
 普通に登場かっ!
 朧さん少女漫画もOKかっ!

 まあそれはよしとして、とりあえずわたしはポケットに突っ込んでいたメールのプリントを朧さんに渡した。

「十一夜君には以前話したことがあるんですが、駅前にエデン・ベンチャー・キャピタルというMSがらみらしい架空の会社の無人事務所が入ってるオフィスビルがあるんです。そのビルは以前進藤さんっていうMS信者らしい女の子の足取りをたどって見つけたビルなんですが、クラスメイトの須藤さんっていう子が同じビルから出てきたときに鉢合わせしたことがあって、その子はそのビルの高橋こころのクリニックっていう心療内科に通っているようなんです」

須藤すどう麻由美まゆみTHE HIGHハイ PRIESTESSプリーステスですね。なるほどぉ……興味深い話です。高橋こころのクリニック……。これは探ってみる価値がありそうですね」

 十一夜君から情報の引き継ぎはきちんとされているようだ。
 いつものように朧さんは表情を変えずにわたしの隣に立って話している。
 別マを開いて立ち読みしながら。

……りぼんかなかよしの方がネタとしては笑えるのに……その辺のなんとも微妙なチョイスが朧さんらしいっちゃらしい……。

 場合によっては進藤君の義妹さんもそのクリニックで洗脳されていたのかもしれない。
 エデン何某も十分怪しいのだが、須藤さんとあそこでばったり会って以来どうしてもその病院のことが気になっていたのだ。
 しかしここにきて丹代さんからの新情報により、そのクリニックとの関連性が浮上してきたわけだ。

「……あ、言いたいことは以上ですが……」

「そうですか……」

「帰っていいですか?」

「あ、ちょっとだけお待ちを。これ、読み終わるまで、あとちょっとだけ……」

 って何読んでるんだ? 朧さんが手にしている別マを横目で覗き込むと、素敵な彼氏を食い入るように読んでいた。

……。
 この人には底しれぬ何かがあるな……。
 そんなことを思いながら横目に見ていると朧さんがぽつりと呟いた。

「君届、いつの間にか終わってたのか……」

 いつの話だよっ。
 てか朧さんに似合わんっ。君届似合わないからっ!

「もう帰りますよ、そろそろ」

「ちょっとだけっ、あともうちょっとだけです!」

「もう……ちゃっちゃと読んでくださいね。ちなみに今どきは電子版もあるので家でも好きな時に購入して読めるんですよ」

 反応はなかった。
 そこまで立ち読みで入り込むかな。
 今わたしに危険が及んだら終わる気がするんですけど……。

 しばらくして隣からグズグズ鼻を詰まらせた音がする。
 って泣いてるっ!?
 朧さんが少女漫画読んで泣いてるのかっ!?

 つくづく難儀な人だよ、朧さん。
 わたしはハンカチを差し出した。

「はい、どうぞ。それ返さなくっていいんで」

 言うと遠慮も何もなくちーんと鼻をかんでいた。
 まぁ、ハンカチくらい別にいいけど。
 さよならバーバリー。

 差し出したハンカチは、奇しくも白いマーガレットがプリントされたものだった。

 そんなこともありつつ、目的を果たし家に戻る。
 昼食の準備を手伝うために叔母さんの待つキッチンに行くと、秋菜が待ち構えていたようでリビングに入るなり声をかけられる。

「お、来た来た! ねえねえ夏葉ちゃん、その後アソコの調子はどんな?」

「ちょっと、訊き方! アソコの調子はどんなって変でしょうが!?」

「そう? んで実際どうなの?」

 ったくぅ。しょうがない奴だなぁ。

「うーん、どうって言われてもぉ……一応薬もらって飲んでるところ。そのうち効果は出るだろうって言われてるけど、今のところはまだなんとも……」

 そうなのだ。
 まあそうそう急激に効果が出るものでもないだろう。一応処方されたホルモン剤はきっちり飲んでいる。
 ただいまのところはまだテープを貼って押さえるというなんとも恥ずかしい状態だ。

「おぉ、まだおっきいままなんだっ、凄っ」

「だから言い方っ! ねぇ、わざと言ってない!?」

「酷いなぁ、心配してあげてるのにぃ。あのね、さっちんとか友紀たちが今度一緒にプール行こうって言ってて。だから夏葉ちゃんも一緒に行こうよって言われたからさぁ」

「プール……うぅん……」

 思わず考え込んでしまう。
 せっかくの夏だしみんなと楽しみたいとは思うが、果たしてこれ大丈夫だろうかという心配だ。

「夏葉ちゃんたぶんまだ水着持ってないでしょ?」

「うん。それはまだ持ってないよ、さすがに。去年の夏はまだ男だったから」

 逆に持ってたらなんでだよってなるわ。

「じゃあさ、午後から一緒に水着見に行こうよ。どっちみち必要になるんだしさ。それで着けてみてもっこりチェックしてみればいいじゃん?」

「だから言い方っ! もっこりチェックってっ……まったくもぉ……」

 まあ悪くないけども。
 この前ディセット立ち読みした時に秋菜が着ていた水着かわいかったし、ちょっと着てみたいかもなんて思ったりしてたし。

「よし! じゃ、午後から水着見に行こー! あ、ちなみに夏葉ちゃん、今ブラサイズいくら?」

「は? Eの65だけど……?」

「ぬぁっ! ついに並ばれた……。そこだけは夏葉ちゃんに勝ってたのにぃ……ぐぬぬ」

 へぇ~、いつのまにかバストサイズまで秋菜と同じか……なんか複雑。もうほんとにほぼ秋菜とわたしは見た目おんなじじゃないか。
 身近な人たちが二人のことを難なく見分けているのが不思議だよなぁ。

 さて、そんなこんなで午後からは久し振りに秋菜と二人で買い物ということになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

処理中です...