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第四章 Love And Hate
第104話 SUMMERTIME IN THE PLACE
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Tシャツとデニムの軽装で自転車を走らせて駅前にいく。
真夏の蒸し暑い空気も自転車で切って走れば爽快だと感じられる程度にはまだ辛うじて朝の風を感じられた。
目的の場所は駅前の書店だ。
デニムのポケットには昨夜の丹代さんのメールをプリントして折りたたんだものが入っている。
今日はあえて少女漫画雑誌のコーナーに陣取ってみたが、朧さんはどんな感じで出てくるのだろう。
「朧です」
って普通かっ!
普通に登場かっ!
朧さん少女漫画もOKかっ!
まあそれはよしとして、とりあえずわたしはポケットに突っ込んでいたメールのプリントを朧さんに渡した。
「十一夜君には以前話したことがあるんですが、駅前にエデン・ベンチャー・キャピタルというMSがらみらしい架空の会社の無人事務所が入ってるオフィスビルがあるんです。そのビルは以前進藤さんっていうMS信者らしい女の子の足取りをたどって見つけたビルなんですが、クラスメイトの須藤さんっていう子が同じビルから出てきたときに鉢合わせしたことがあって、その子はそのビルの高橋こころのクリニックっていう心療内科に通っているようなんです」
「須藤麻由美。THE HIGH PRIESTESSですね。なるほどぉ……興味深い話です。高橋こころのクリニック……。これは探ってみる価値がありそうですね」
十一夜君から情報の引き継ぎはきちんとされているようだ。
いつものように朧さんは表情を変えずにわたしの隣に立って話している。
別マを開いて立ち読みしながら。
……りぼんかなかよしの方がネタとしては笑えるのに……その辺のなんとも微妙なチョイスが朧さんらしいっちゃらしい……。
場合によっては進藤君の義妹さんもそのクリニックで洗脳されていたのかもしれない。
エデン何某も十分怪しいのだが、須藤さんとあそこでばったり会って以来どうしてもその病院のことが気になっていたのだ。
しかしここにきて丹代さんからの新情報により、そのクリニックとの関連性が浮上してきたわけだ。
「……あ、言いたいことは以上ですが……」
「そうですか……」
「帰っていいですか?」
「あ、ちょっとだけお待ちを。これ、読み終わるまで、あとちょっとだけ……」
って何読んでるんだ? 朧さんが手にしている別マを横目で覗き込むと、素敵な彼氏を食い入るように読んでいた。
……。
この人には底しれぬ何かがあるな……。
そんなことを思いながら横目に見ていると朧さんがぽつりと呟いた。
「君届、いつの間にか終わってたのか……」
いつの話だよっ。
てか朧さんに似合わんっ。君届似合わないからっ!
「もう帰りますよ、そろそろ」
「ちょっとだけっ、あともうちょっとだけです!」
「もう……ちゃっちゃと読んでくださいね。ちなみに今どきは電子版もあるので家でも好きな時に購入して読めるんですよ」
反応はなかった。
そこまで立ち読みで入り込むかな。
今わたしに危険が及んだら終わる気がするんですけど……。
しばらくして隣からグズグズ鼻を詰まらせた音がする。
って泣いてるっ!?
朧さんが少女漫画読んで泣いてるのかっ!?
つくづく難儀な人だよ、朧さん。
わたしはハンカチを差し出した。
「はい、どうぞ。それ返さなくっていいんで」
言うと遠慮も何もなくちーんと鼻をかんでいた。
まぁ、ハンカチくらい別にいいけど。
さよならバーバリー。
差し出したハンカチは、奇しくも白いマーガレットがプリントされたものだった。
そんなこともありつつ、目的を果たし家に戻る。
昼食の準備を手伝うために叔母さんの待つキッチンに行くと、秋菜が待ち構えていたようでリビングに入るなり声をかけられる。
「お、来た来た! ねえねえ夏葉ちゃん、その後アソコの調子はどんな?」
「ちょっと、訊き方! アソコの調子はどんなって変でしょうが!?」
「そう? んで実際どうなの?」
ったくぅ。しょうがない奴だなぁ。
「うーん、どうって言われてもぉ……一応薬もらって飲んでるところ。そのうち効果は出るだろうって言われてるけど、今のところはまだなんとも……」
そうなのだ。
まあそうそう急激に効果が出るものでもないだろう。一応処方されたホルモン剤はきっちり飲んでいる。
ただいまのところはまだテープを貼って押さえるというなんとも恥ずかしい状態だ。
「おぉ、まだおっきいままなんだっ、凄っ」
「だから言い方っ! ねぇ、わざと言ってない!?」
「酷いなぁ、心配してあげてるのにぃ。あのね、さっちんとか友紀たちが今度一緒にプール行こうって言ってて。だから夏葉ちゃんも一緒に行こうよって言われたからさぁ」
「プール……うぅん……」
思わず考え込んでしまう。
せっかくの夏だしみんなと楽しみたいとは思うが、果たしてこれ大丈夫だろうかという心配だ。
「夏葉ちゃんたぶんまだ水着持ってないでしょ?」
「うん。それはまだ持ってないよ、さすがに。去年の夏はまだ男だったから」
逆に持ってたらなんでだよってなるわ。
「じゃあさ、午後から一緒に水着見に行こうよ。どっちみち必要になるんだしさ。それで着けてみてもっこりチェックしてみればいいじゃん?」
「だから言い方っ! もっこりチェックってっ……まったくもぉ……」
まあ悪くないけども。
この前ディセット立ち読みした時に秋菜が着ていた水着かわいかったし、ちょっと着てみたいかもなんて思ったりしてたし。
「よし! じゃ、午後から水着見に行こー! あ、ちなみに夏葉ちゃん、今ブラサイズいくら?」
「は? Eの65だけど……?」
「ぬぁっ! ついに並ばれた……。そこだけは夏葉ちゃんに勝ってたのにぃ……ぐぬぬ」
へぇ~、いつのまにかバストサイズまで秋菜と同じか……なんか複雑。もうほんとにほぼ秋菜とわたしは見た目おんなじじゃないか。
身近な人たちが二人のことを難なく見分けているのが不思議だよなぁ。
さて、そんなこんなで午後からは久し振りに秋菜と二人で買い物ということになったのだった。
真夏の蒸し暑い空気も自転車で切って走れば爽快だと感じられる程度にはまだ辛うじて朝の風を感じられた。
目的の場所は駅前の書店だ。
デニムのポケットには昨夜の丹代さんのメールをプリントして折りたたんだものが入っている。
今日はあえて少女漫画雑誌のコーナーに陣取ってみたが、朧さんはどんな感じで出てくるのだろう。
「朧です」
って普通かっ!
普通に登場かっ!
朧さん少女漫画もOKかっ!
まあそれはよしとして、とりあえずわたしはポケットに突っ込んでいたメールのプリントを朧さんに渡した。
「十一夜君には以前話したことがあるんですが、駅前にエデン・ベンチャー・キャピタルというMSがらみらしい架空の会社の無人事務所が入ってるオフィスビルがあるんです。そのビルは以前進藤さんっていうMS信者らしい女の子の足取りをたどって見つけたビルなんですが、クラスメイトの須藤さんっていう子が同じビルから出てきたときに鉢合わせしたことがあって、その子はそのビルの高橋こころのクリニックっていう心療内科に通っているようなんです」
「須藤麻由美。THE HIGH PRIESTESSですね。なるほどぉ……興味深い話です。高橋こころのクリニック……。これは探ってみる価値がありそうですね」
十一夜君から情報の引き継ぎはきちんとされているようだ。
いつものように朧さんは表情を変えずにわたしの隣に立って話している。
別マを開いて立ち読みしながら。
……りぼんかなかよしの方がネタとしては笑えるのに……その辺のなんとも微妙なチョイスが朧さんらしいっちゃらしい……。
場合によっては進藤君の義妹さんもそのクリニックで洗脳されていたのかもしれない。
エデン何某も十分怪しいのだが、須藤さんとあそこでばったり会って以来どうしてもその病院のことが気になっていたのだ。
しかしここにきて丹代さんからの新情報により、そのクリニックとの関連性が浮上してきたわけだ。
「……あ、言いたいことは以上ですが……」
「そうですか……」
「帰っていいですか?」
「あ、ちょっとだけお待ちを。これ、読み終わるまで、あとちょっとだけ……」
って何読んでるんだ? 朧さんが手にしている別マを横目で覗き込むと、素敵な彼氏を食い入るように読んでいた。
……。
この人には底しれぬ何かがあるな……。
そんなことを思いながら横目に見ていると朧さんがぽつりと呟いた。
「君届、いつの間にか終わってたのか……」
いつの話だよっ。
てか朧さんに似合わんっ。君届似合わないからっ!
「もう帰りますよ、そろそろ」
「ちょっとだけっ、あともうちょっとだけです!」
「もう……ちゃっちゃと読んでくださいね。ちなみに今どきは電子版もあるので家でも好きな時に購入して読めるんですよ」
反応はなかった。
そこまで立ち読みで入り込むかな。
今わたしに危険が及んだら終わる気がするんですけど……。
しばらくして隣からグズグズ鼻を詰まらせた音がする。
って泣いてるっ!?
朧さんが少女漫画読んで泣いてるのかっ!?
つくづく難儀な人だよ、朧さん。
わたしはハンカチを差し出した。
「はい、どうぞ。それ返さなくっていいんで」
言うと遠慮も何もなくちーんと鼻をかんでいた。
まぁ、ハンカチくらい別にいいけど。
さよならバーバリー。
差し出したハンカチは、奇しくも白いマーガレットがプリントされたものだった。
そんなこともありつつ、目的を果たし家に戻る。
昼食の準備を手伝うために叔母さんの待つキッチンに行くと、秋菜が待ち構えていたようでリビングに入るなり声をかけられる。
「お、来た来た! ねえねえ夏葉ちゃん、その後アソコの調子はどんな?」
「ちょっと、訊き方! アソコの調子はどんなって変でしょうが!?」
「そう? んで実際どうなの?」
ったくぅ。しょうがない奴だなぁ。
「うーん、どうって言われてもぉ……一応薬もらって飲んでるところ。そのうち効果は出るだろうって言われてるけど、今のところはまだなんとも……」
そうなのだ。
まあそうそう急激に効果が出るものでもないだろう。一応処方されたホルモン剤はきっちり飲んでいる。
ただいまのところはまだテープを貼って押さえるというなんとも恥ずかしい状態だ。
「おぉ、まだおっきいままなんだっ、凄っ」
「だから言い方っ! ねぇ、わざと言ってない!?」
「酷いなぁ、心配してあげてるのにぃ。あのね、さっちんとか友紀たちが今度一緒にプール行こうって言ってて。だから夏葉ちゃんも一緒に行こうよって言われたからさぁ」
「プール……うぅん……」
思わず考え込んでしまう。
せっかくの夏だしみんなと楽しみたいとは思うが、果たしてこれ大丈夫だろうかという心配だ。
「夏葉ちゃんたぶんまだ水着持ってないでしょ?」
「うん。それはまだ持ってないよ、さすがに。去年の夏はまだ男だったから」
逆に持ってたらなんでだよってなるわ。
「じゃあさ、午後から一緒に水着見に行こうよ。どっちみち必要になるんだしさ。それで着けてみてもっこりチェックしてみればいいじゃん?」
「だから言い方っ! もっこりチェックってっ……まったくもぉ……」
まあ悪くないけども。
この前ディセット立ち読みした時に秋菜が着ていた水着かわいかったし、ちょっと着てみたいかもなんて思ったりしてたし。
「よし! じゃ、午後から水着見に行こー! あ、ちなみに夏葉ちゃん、今ブラサイズいくら?」
「は? Eの65だけど……?」
「ぬぁっ! ついに並ばれた……。そこだけは夏葉ちゃんに勝ってたのにぃ……ぐぬぬ」
へぇ~、いつのまにかバストサイズまで秋菜と同じか……なんか複雑。もうほんとにほぼ秋菜とわたしは見た目おんなじじゃないか。
身近な人たちが二人のことを難なく見分けているのが不思議だよなぁ。
さて、そんなこんなで午後からは久し振りに秋菜と二人で買い物ということになったのだった。
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