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第四章 Love And Hate
第97話 Water
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「うぅーん。これは……副腎性器症候群の外的症状と一致するわねぇ。夏葉ちゃん、生理は定期的?」
「えぇー、はい。特に異常は」
「異常はないのね?」
「はい、ないと思います」
「うん、分かった。わたし専門外だから、夏葉ちゃんのことがあって結構勉強したのよね。でも、検査が必要だし、CTも撮ってみなきゃならないし、やっぱりここは専門医に診てもらう必要があるねぇ……。でも情報漏れは困るし……。まぁ、伝手がないこともないんだけど……。夏葉ちゃん、ちょっと電話してくるから取り敢えず服着てていいわよ」
そう言うと涼音先生はスマホ片手にいそいそと華名咲家専用の診察室を後にした。
「副腎性器症候群? 症候群ってくらいだから病気かな……また男に戻るのか、病気なのかつったらどっちがマシなのかな……そりゃ病気と比べたら断然性別変わる方がマシか。でも一応病気にも症状の重さってものがあるからなぁ。最大限軽い病気だった場合だと性別変わるよかマシって場合もあるかもなぁ……」
スマホを取り出してブラウザの検索窓に副腎性器症候群と入力して調べてみた。
あぁ、なるほど。だから生理が定期的か訊かれたんだな。
調べてみるとこれは副腎から男性ホルモンが産生されることによって陰核が陰茎化する病気らしい。これも先天性の場合と後天性の場合があり、後天性の場合はホルモンバランスの問題で生理が止まるらしい。
うげっ。
副腎腫瘍が原因の場合もあるって……これって癌ってこと? いや良性の腫瘍って場合もあるか……。
あ、CT撮るってそう言うことか。
うーーん……。これはちょっと大変なことになってるかもしれないぞ。
性別変わるのも大変なことだけど、癌だとかの重い病気だとそれはまた大変なことだ。
————はぁ……。
頭の中も心の中も大混乱だが口を突いて出てきたのは空っぽな溜息だけだった。
「検査が必要なんだけど、院内のスタッフに知られて情報が漏れるといけないので、わたしの知り合いで信頼できて腕のいい医者に頼んでみたの。午後一番に出てこられるっていうのでその人に診てもらおう」
戻ってきた涼音先生がそう告げる。
はぁ。外部の人ってことかなぁ。
どんな人だろ。ホントに大丈夫なのかなぁ。
少し不安になった。
駄目押しに検査のために水以外食事抜きと言い渡されたが、朝から何も食べてないからもうぺこぺこで辛すぎるよぉ。
準備ができたら呼び出すからと携帯の番号を交換し、涼音先生はバタバタと出て行った。
検査で長くなるのならと叔母さんも一旦帰ることになり、一気に心細い状況へと追い込まれた。
もし悪い病気だったら……。
気分転換と暇潰しにブラブラしようかな。
一階のエントランスは吹き抜けになっていてわたしがいる三階のフロアからでも見下ろすことができる。
強化ガラスかアクリルか分からないけど、透明な欄干に両肘をかけてぼんやりと人の動きを眺めた。
夏休みで子供や学生も多いように見える。
ん?
そんな中エントランスから受付に向かうひとりの少女に目を奪われた。
あれって桐島さんじゃないかな……?
キューティクル輝く黒髪のストレートヘア。
周囲に十一夜君は見当たらないけど、夏休み中だからって四六時中一緒にいるわけじゃないだろうし……。
やっぱりあれ桐島さんだわ、どこか悪いのかな? お腹出して寝て風邪でも引いたか?
ちょっと意地悪くその姿を想像してニヤニヤしてみた。
少しは気になるが、あの偉そうな態度を思い出したらわざわざ近づいて話しかける気にもなれない。ここはスルーかな。
気にしないことにして、空腹を誤魔化すために水でも飲むかと自販機を探すことにした。
自販機より先に病院内にコンビニがあるのを見つけたのでそっちでミネラルウォーターを購入し、近くのベンチシートに腰掛けて飲んだ。
二口三口飲んだところで、もう涼音先生から呼び出されてしまい診察室に戻る。
「よ。夏葉ちゃん、久し振り」
「恭平さん!?」
診察室でわたしを迎えてくれたのは、意外にも十一夜家のあの女装家、恭平さんだった。
「何? 二人は知り合いだった!?」
当然涼音先生がそのことを知るはずもなく、驚いた様子でわたしと恭平さんの顔を見比べるように視線を行ったり来たりさせている。
わたしもどこまで話していいのか瞬時には判断がつかず狼狽える。
「夏葉ちゃんは僕の甥っ子君の彼女でね。彼の家で会ったことがあるんだ」
「え、甥御さん? あらまぁ、そうだったんだ」
「いやいや、ただのクラスメイトです! 彼女じゃありませんから! 彼女は別の人です!」
慌てふためくわたしを見ながら恭平さんはニヤニヤしている。
チッ! 知ってて言ってんな。意地悪っ!
「あ、ということは夏葉ちゃんはこの人の本来の性別のことは知ってるってことでいいのかな?」
「知ってますよ。女装はただの趣味で中は完全に男の人ですよね」
意地悪する恭平さんのことを横目に睨みながら返答がややぶっきらぼうになってしまう。
「そっかぁ……高校生の夏葉ちゃんになんて説明したらいいのかちょっと悩んでたんだけど、取り越し苦労で済んでよかったわ、あは」
「それじゃ早速だけど、パンツ脱いでそこに仰向けになってもらえるかな? 圭君には悪いけど、あくまで僕は仕事としてだからノーカウントね」
「……!」
ぎゃぼーーん! 恭平さんにまで股を晒すだと!?
てか今日のパンツあんまかわいくないし!
見た目完璧女医さんだけど中身男だぞ、恭平さんは!?
あ、それってある意味わたしと一緒か……って納得できるか!!
「えぇー、はい。特に異常は」
「異常はないのね?」
「はい、ないと思います」
「うん、分かった。わたし専門外だから、夏葉ちゃんのことがあって結構勉強したのよね。でも、検査が必要だし、CTも撮ってみなきゃならないし、やっぱりここは専門医に診てもらう必要があるねぇ……。でも情報漏れは困るし……。まぁ、伝手がないこともないんだけど……。夏葉ちゃん、ちょっと電話してくるから取り敢えず服着てていいわよ」
そう言うと涼音先生はスマホ片手にいそいそと華名咲家専用の診察室を後にした。
「副腎性器症候群? 症候群ってくらいだから病気かな……また男に戻るのか、病気なのかつったらどっちがマシなのかな……そりゃ病気と比べたら断然性別変わる方がマシか。でも一応病気にも症状の重さってものがあるからなぁ。最大限軽い病気だった場合だと性別変わるよかマシって場合もあるかもなぁ……」
スマホを取り出してブラウザの検索窓に副腎性器症候群と入力して調べてみた。
あぁ、なるほど。だから生理が定期的か訊かれたんだな。
調べてみるとこれは副腎から男性ホルモンが産生されることによって陰核が陰茎化する病気らしい。これも先天性の場合と後天性の場合があり、後天性の場合はホルモンバランスの問題で生理が止まるらしい。
うげっ。
副腎腫瘍が原因の場合もあるって……これって癌ってこと? いや良性の腫瘍って場合もあるか……。
あ、CT撮るってそう言うことか。
うーーん……。これはちょっと大変なことになってるかもしれないぞ。
性別変わるのも大変なことだけど、癌だとかの重い病気だとそれはまた大変なことだ。
————はぁ……。
頭の中も心の中も大混乱だが口を突いて出てきたのは空っぽな溜息だけだった。
「検査が必要なんだけど、院内のスタッフに知られて情報が漏れるといけないので、わたしの知り合いで信頼できて腕のいい医者に頼んでみたの。午後一番に出てこられるっていうのでその人に診てもらおう」
戻ってきた涼音先生がそう告げる。
はぁ。外部の人ってことかなぁ。
どんな人だろ。ホントに大丈夫なのかなぁ。
少し不安になった。
駄目押しに検査のために水以外食事抜きと言い渡されたが、朝から何も食べてないからもうぺこぺこで辛すぎるよぉ。
準備ができたら呼び出すからと携帯の番号を交換し、涼音先生はバタバタと出て行った。
検査で長くなるのならと叔母さんも一旦帰ることになり、一気に心細い状況へと追い込まれた。
もし悪い病気だったら……。
気分転換と暇潰しにブラブラしようかな。
一階のエントランスは吹き抜けになっていてわたしがいる三階のフロアからでも見下ろすことができる。
強化ガラスかアクリルか分からないけど、透明な欄干に両肘をかけてぼんやりと人の動きを眺めた。
夏休みで子供や学生も多いように見える。
ん?
そんな中エントランスから受付に向かうひとりの少女に目を奪われた。
あれって桐島さんじゃないかな……?
キューティクル輝く黒髪のストレートヘア。
周囲に十一夜君は見当たらないけど、夏休み中だからって四六時中一緒にいるわけじゃないだろうし……。
やっぱりあれ桐島さんだわ、どこか悪いのかな? お腹出して寝て風邪でも引いたか?
ちょっと意地悪くその姿を想像してニヤニヤしてみた。
少しは気になるが、あの偉そうな態度を思い出したらわざわざ近づいて話しかける気にもなれない。ここはスルーかな。
気にしないことにして、空腹を誤魔化すために水でも飲むかと自販機を探すことにした。
自販機より先に病院内にコンビニがあるのを見つけたのでそっちでミネラルウォーターを購入し、近くのベンチシートに腰掛けて飲んだ。
二口三口飲んだところで、もう涼音先生から呼び出されてしまい診察室に戻る。
「よ。夏葉ちゃん、久し振り」
「恭平さん!?」
診察室でわたしを迎えてくれたのは、意外にも十一夜家のあの女装家、恭平さんだった。
「何? 二人は知り合いだった!?」
当然涼音先生がそのことを知るはずもなく、驚いた様子でわたしと恭平さんの顔を見比べるように視線を行ったり来たりさせている。
わたしもどこまで話していいのか瞬時には判断がつかず狼狽える。
「夏葉ちゃんは僕の甥っ子君の彼女でね。彼の家で会ったことがあるんだ」
「え、甥御さん? あらまぁ、そうだったんだ」
「いやいや、ただのクラスメイトです! 彼女じゃありませんから! 彼女は別の人です!」
慌てふためくわたしを見ながら恭平さんはニヤニヤしている。
チッ! 知ってて言ってんな。意地悪っ!
「あ、ということは夏葉ちゃんはこの人の本来の性別のことは知ってるってことでいいのかな?」
「知ってますよ。女装はただの趣味で中は完全に男の人ですよね」
意地悪する恭平さんのことを横目に睨みながら返答がややぶっきらぼうになってしまう。
「そっかぁ……高校生の夏葉ちゃんになんて説明したらいいのかちょっと悩んでたんだけど、取り越し苦労で済んでよかったわ、あは」
「それじゃ早速だけど、パンツ脱いでそこに仰向けになってもらえるかな? 圭君には悪いけど、あくまで僕は仕事としてだからノーカウントね」
「……!」
ぎゃぼーーん! 恭平さんにまで股を晒すだと!?
てか今日のパンツあんまかわいくないし!
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