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第四章 Love And Hate
第89話 obsession
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翌日の学校帰り、秋菜がクラスメイトと用事があるからと言うので、一人で下校していた。
秋菜が言ってたディセットの今月号をチェックしておくかと、先日監視が付いていたという一件があった例の書店に立ち寄ることにした。
何かあってもどうせ朧さんが助けてくれるんだし、と半ば自棄っぱちと言えなくもない気持ちだ。
『ほほぉ。なるほど、秋菜がしつこく言っていただけあって、かわいい水着ばっかだなぁ。わぁ、この小花柄のワンピースタイプ超かわいいじゃん。レッグ部分がフリルでめっちゃかわいいなぁ。あ、これモノキニになってるんだ。後ろはレースアップか。わお、ちょいセクスィ』
「朧です」
「おわっ!?」
立ち読みしながら頭の中であれこれ思ってたら、矢庭に隣に立った朧さんが「ヒロシです」的に、もしくは「麒麟です」的に自己紹介してきてビクッとなった。
あー、ビクった。心臓に悪いわ。
「ど、どうも」
「そのままの姿勢で聞いてください。OKなら右手に雑誌を持ち替えて。都合が悪ければ左手に持って雑誌を元に戻してください」
で、出た。この意味なさそうな手順。ダメっていう選択肢も一応あるのか。
悪戯心がムクムクと頭を擡げて、わたしは雑誌を左手にして元に戻した。
「え……。コホン。そのままの姿勢で聞いてください。先日の監視者ですが……」
続けるんかい! 謎の手順結局関係ないんかい!
まあどうもそんな気はしていたけどもさぁ。
「先日の監視者ですが、政府機関の者でした。あれ以来、監視はもう付いていませんし、監視していた者も、完全に素人と言っていいやり方でした。その後も一週間程こちらの監視の者を付けましたが、特に問題なしと判断します」
問題なし? でも実際わたしを監視していたのなら、問題なしってことはないんじゃないのかな? て言うかなんで政府機関からわたしが監視されるの!?
どういうことだろう。意味分かんないし。
思いながら、朧さんに付き合ったせいで棚に戻しちゃったが、雑誌の特集記事をまだ読み掛けだったと思い出し、再び雑誌を手に取った。
「引き続きそのままの体勢で。OKなら次のページに進んで。ダメなら前のページに戻って」
まだやるのか。それ、フリだよね? 押すなよ、押すなよ、絶対押すなよ、てのと同じシステムのやつだよね?
はいはいはい。こう見えてわたし、察しはいい方ですからと言わんばかりにページを戻した。
「あ……。コホン。そのままの姿勢で聞いてください」
やっぱりそう来るよね~。
分かった。この人の変な手順、やっぱり明らかに全然意味がない。
で、結局構わず朧さんは話を続けるのだ。
「あの日、同級生と接触しましたね。彼の父親は、政府のある研究機関に所属しています。かなり高レベルの機密事項に関与しているらしく、校外での彼との接触があったことに警戒して監視が付いたようです。結局、偶然クラスメイトとばったり会っただけで問題ないと判断されたのでしょう。もう監視は付いていません」
クラスメイトというと……黛君のことか。そう言えばお父さんが政府筋の人だって言ってたっけ。
なるほど。それで彼と接触のあったわたしが監視されたって訳。
てことは、黛君っていつも監視されてるってこと? そんな事情じゃ自由に友達と遊んだりもできないんじゃないのかな。
はぁ~、なんか気の毒。
「……」
もう話すこともないのか、朧さんは沈黙したままだが相変わらず隣に佇んでいる。構って欲しいんだろうか。
「あ、ど、どうも。……それと、この前はありがとうございました。火事の時も助けていただいたそうで……色々と、その、ありがとうございました」
黙ってるのも気不味いし、この機会にお礼を言っとかなきゃと思い、感謝を伝えると、朧さんは軽く首肯して気持ちを受け取ってくれたようだ。
「……」
なんかその後も無言で隣にいるので、立ち読みもし難く感じ、結局雑誌をちゃんと購入して帰ることにした。
レジに並ぶといつの間にか朧さんは姿を消している。
この辺はやはり十一夜の人って感じだ。きっと近くに潜んで密かに護衛してくれているのだろうけど、全然どこにいるのか分からない。
あれ……?
もしかして本屋に来た時だけ姿を表すのは朧さんとコンタクトを取る為の独特の手順の一環だったり?
うわぁ、分かりにくっ。
常に近くにいながら何の音沙汰もなかったのって、もしやわたしが書店に立ち寄るタイミング待ちだったとか?
うわぁ~、メンドくさ。十一夜君経由で連絡先は知ってるはずなのに音沙汰ないのは何でかなぁって思ってたんだけど、そういうことだったかぁ。
つまりそれって、屋台のおでん屋で竹輪麩を十個注文するとか、アトランタ・アメリカ連邦刑務所の受刑者マーカス・ モンゴメリー(囚人番号96304)宛に手紙を出すとか、そういう系統のやつか。
朧さん、分かりにくいって。
でもそういう手順に拘るちょっと面倒な人なのか、朧さん。
わたしはそんな朧さんにちょっと呆れつつ帰途に着いた。
秋菜が言ってたディセットの今月号をチェックしておくかと、先日監視が付いていたという一件があった例の書店に立ち寄ることにした。
何かあってもどうせ朧さんが助けてくれるんだし、と半ば自棄っぱちと言えなくもない気持ちだ。
『ほほぉ。なるほど、秋菜がしつこく言っていただけあって、かわいい水着ばっかだなぁ。わぁ、この小花柄のワンピースタイプ超かわいいじゃん。レッグ部分がフリルでめっちゃかわいいなぁ。あ、これモノキニになってるんだ。後ろはレースアップか。わお、ちょいセクスィ』
「朧です」
「おわっ!?」
立ち読みしながら頭の中であれこれ思ってたら、矢庭に隣に立った朧さんが「ヒロシです」的に、もしくは「麒麟です」的に自己紹介してきてビクッとなった。
あー、ビクった。心臓に悪いわ。
「ど、どうも」
「そのままの姿勢で聞いてください。OKなら右手に雑誌を持ち替えて。都合が悪ければ左手に持って雑誌を元に戻してください」
で、出た。この意味なさそうな手順。ダメっていう選択肢も一応あるのか。
悪戯心がムクムクと頭を擡げて、わたしは雑誌を左手にして元に戻した。
「え……。コホン。そのままの姿勢で聞いてください。先日の監視者ですが……」
続けるんかい! 謎の手順結局関係ないんかい!
まあどうもそんな気はしていたけどもさぁ。
「先日の監視者ですが、政府機関の者でした。あれ以来、監視はもう付いていませんし、監視していた者も、完全に素人と言っていいやり方でした。その後も一週間程こちらの監視の者を付けましたが、特に問題なしと判断します」
問題なし? でも実際わたしを監視していたのなら、問題なしってことはないんじゃないのかな? て言うかなんで政府機関からわたしが監視されるの!?
どういうことだろう。意味分かんないし。
思いながら、朧さんに付き合ったせいで棚に戻しちゃったが、雑誌の特集記事をまだ読み掛けだったと思い出し、再び雑誌を手に取った。
「引き続きそのままの体勢で。OKなら次のページに進んで。ダメなら前のページに戻って」
まだやるのか。それ、フリだよね? 押すなよ、押すなよ、絶対押すなよ、てのと同じシステムのやつだよね?
はいはいはい。こう見えてわたし、察しはいい方ですからと言わんばかりにページを戻した。
「あ……。コホン。そのままの姿勢で聞いてください」
やっぱりそう来るよね~。
分かった。この人の変な手順、やっぱり明らかに全然意味がない。
で、結局構わず朧さんは話を続けるのだ。
「あの日、同級生と接触しましたね。彼の父親は、政府のある研究機関に所属しています。かなり高レベルの機密事項に関与しているらしく、校外での彼との接触があったことに警戒して監視が付いたようです。結局、偶然クラスメイトとばったり会っただけで問題ないと判断されたのでしょう。もう監視は付いていません」
クラスメイトというと……黛君のことか。そう言えばお父さんが政府筋の人だって言ってたっけ。
なるほど。それで彼と接触のあったわたしが監視されたって訳。
てことは、黛君っていつも監視されてるってこと? そんな事情じゃ自由に友達と遊んだりもできないんじゃないのかな。
はぁ~、なんか気の毒。
「……」
もう話すこともないのか、朧さんは沈黙したままだが相変わらず隣に佇んでいる。構って欲しいんだろうか。
「あ、ど、どうも。……それと、この前はありがとうございました。火事の時も助けていただいたそうで……色々と、その、ありがとうございました」
黙ってるのも気不味いし、この機会にお礼を言っとかなきゃと思い、感謝を伝えると、朧さんは軽く首肯して気持ちを受け取ってくれたようだ。
「……」
なんかその後も無言で隣にいるので、立ち読みもし難く感じ、結局雑誌をちゃんと購入して帰ることにした。
レジに並ぶといつの間にか朧さんは姿を消している。
この辺はやはり十一夜の人って感じだ。きっと近くに潜んで密かに護衛してくれているのだろうけど、全然どこにいるのか分からない。
あれ……?
もしかして本屋に来た時だけ姿を表すのは朧さんとコンタクトを取る為の独特の手順の一環だったり?
うわぁ、分かりにくっ。
常に近くにいながら何の音沙汰もなかったのって、もしやわたしが書店に立ち寄るタイミング待ちだったとか?
うわぁ~、メンドくさ。十一夜君経由で連絡先は知ってるはずなのに音沙汰ないのは何でかなぁって思ってたんだけど、そういうことだったかぁ。
つまりそれって、屋台のおでん屋で竹輪麩を十個注文するとか、アトランタ・アメリカ連邦刑務所の受刑者マーカス・ モンゴメリー(囚人番号96304)宛に手紙を出すとか、そういう系統のやつか。
朧さん、分かりにくいって。
でもそういう手順に拘るちょっと面倒な人なのか、朧さん。
わたしはそんな朧さんにちょっと呆れつつ帰途に着いた。
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